- 不器用なジョーの生き様に号泣必至
- ラスト2巻の鬼気迫る緊張感
- デッサンどうこうではなく漫画が上手い
- オススメ度:★★★★★
(あらまし)宿命のライバルと正々堂々と渡り合った結果、ジョーは力石に敗れる。しかし二人は対戦後、お互いを認め合い、握手をしようとした。そしてそのまま力石は倒れ、死に至る。結果的に力石を殺してしまったジョーは、それがトラウマとなってリング上で嘔吐して、ボクサーとして壊れてしまう。そして、ドサ回りの見世物ボクサーというどん底まで身を落とすが、カーロスという強敵と出会い、力石の影を振り切り、東洋チャンプになり、世界チャンピオンを目指す……漫画史上最も有名な最後の一コマはほとんどの人がご存知のはず。
力石戦後の展開は、読んでいるこちらが苦しくなるような荒んだシーンが多い。ジョーの荒れ方、丹下段平の絶望、それでも戦うことでしか自分の存在を許せないジョーはのたうち回る。余りの不器用さに目を背けたくなる。しかし、彼は誰にも頼らず、自らの才覚のみで困難を打ち破る。
実はそのキッカケになるのが、カーロス・リベラという世界ランク6位の陽気な天才ボクサーなのだが、この辺は少し違和感もある。それは力石の影をどこで振り切ったか、少し分かりづらいからだろう。テンプルへの攻撃も行うのだが、ハッキリと力石の亡霊を克服するのは東洋チャンプ戦だ。もちろん、そのキッカケとなるのだが、カーロスの存在が絶対必要だとは今でも少し思わない。そのまま金竜飛戦にいっても良かった気もする。ただ、ちょっとした違和感のようなもので、不満ではない。もちろん、後々の伏線としてカーロスは生きてくるのだが……。
そして力石戦前にはなかった要素として恋愛シーンが登場する。といっても二人の女性から好かれるだけで、ページ数で言えば合計10ページもないのだが、甘さは無く、ジョーの孤独を浮き彫りにするいいシーンだ。
一人はドヤ街の清純な紀子という女性で、何くれとジョーの世話をやいてくれたり、セコンドまで務めたりする。しかし、ジョーとのデート(!)で、ジョーが戦うことしか考えてないと知り、自ら身を引く。後にジョーの弟分的存在のマンモス西と結婚するのだが、その時の顔が素晴らしい。ジョーが祝辞を述べた後、一コマアップになるのだが、彼女がまだジョーを好きなこと、好きで有りながらついていけなかった後悔、女として幸せになってやろうという決意、そういったものが混ぜこぜになって奇妙な笑みを浮かべている。彼女も少女から女になったのだ。だから世界戦に彼女と西はいない。
ジョーが言ったセリフ「カーロスやホセは一人しかいないが女はたくさんいるじゃないか」は悲しさと美学を感じる。
もう一人はもちろん白木葉子。彼女の告白に、ジョーは心底驚いていたが、彼女の真意を知ってなお、自分には戦いしかないと告げる。控え室にいる葉子を段平に見せなかった優しさ。成長したジョーはこれまでの彼女への恨みを忘れ、彼女を守ろうとする。ジョーが精神的な成長を遂げたことがわかる素晴らしいシーンだ。
そして壮絶なホセ・メンドーサとのラストバトル。正直、カーロスを廃人にしたパンチをあれだけ受けて立ち上がれるとは思えないが、ジョーはひたすら立ち上がる。あの丹下段平が「もう立つな!」と叫んでもやめない。文字通り死力を尽くすのだ。その結果はご存知の通り。最後、葉子にパンチを打てと言われ、試合後にグローブを渡すジョー。彼らしいやり方で葉子の愛情にも応えた。
丹下段平がいるとは言え、終始一人で戦い続けたジョー。この漫画が名作と言われるのは面白いボクシング漫画を超え、真の矜持を描き切っているからだろう。
葉子を控え室に残して、死地に旅立つジョーの後ろ姿に私は号泣した。男たるもの、例えどんなやり方でも、人に頼らず戦い抜かねばならない。ジョーは永遠にリングサイドに座ったまま、我々を励ましている気がする。未読の方はぜひ一読を。
(きうら)