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猫好きの方に

あんなに嫌ってた猫を飼って2年半経ったよ。

投稿日:

  • 約2年半前
  • ペット業界はホラー
  • ディスタンス
  • おススメ度:猫好きの方に

【思い出編】

小学生の頃は叔父の家にいた芝犬とコリー犬と遊ぶのがとても楽しかった。一緒に河原を駆け回り、餌をやって、脱走した時は雨の中探しに出かける。そんな思い出は消し難い。なにしろその芝犬は私が名付け親だったのだ。その芝犬のマリ(仮)はとても賢い犬で、僕の考えていることを知っているようなところがあった。反面自立心も高く、脱走するのはこのマリだった。しかし、いつも迷わずちゃんと帰ってきた。コリー犬のリリー(仮)は反対に臆病な性格で、自分よりずいぶん体の小さなマリを頼りにしていた。野原に放つと、マリは一直線に駆け出して行くが、リリーは常にこちらを振り返って一緒に来てくれないか確認していた。そんなところが可愛く思えた。

やがて少年期が終わり、叔父の家から足が遠ざかり、ゲームと友達に夢中になっていたころ、二匹とも癌で亡くなってしまった。ティーンエイジャーの僕は世界に向かって開かれた窓を開けることに夢中で、かつての友たちの死にもさして動揺しなかった。
大学生になると、僕は何となく動物を避けるようになっていた。嫌いとまではいかないが、積極的に関わることが無くなった。二十歳の私曰く「人間とすら分かり合えないのに他の動物と分かり合えるはずがない。ペットなど人間の一方的な愛情の押し付けだ」。それに獣の臭いが極端に苦手になっていた。だから動物園はあまり好きでは無かった。不潔で分かり合えないモノ、それが僕の動物に対する価値観であり、今も消え去ってはいない。

【きっかけ編】

しかしそれから結構な時が流れ、中年ど真ん中の僕は、2年前の年末、それも12月29日という押し詰まった日に猫を飼い始めた。そして今もリビングに彼はいる。

何かを変えたかった。私の都合であり、猫を見てかわいいと思ったからでは無かった。完全な自己都合だ。ペットという感覚すらない。何かを変える人生のトリガー。苦手だと思っていたもの、例えば英語やピアノなどと同列で、挑めば変化が起きると思った。だから、僕は用心深く調査をした。猫を飼おうと考えた時はまだ夏だったのだ。

なぜ犬にしなかったのかはいくつか理由がある。彼らが本能として散歩を必要としていること、鳴き声がけたたましいこと、また室外犬に限れば体験的に苦手な臭いを抑えることは難しいと知っていたこともある。また体が大きく、単純に維持費がかかることも問題だった。もっと正直に言えばトイレトレーニングが猫よりずっと大変だと思ったこともある。とにかく、記憶の中の二匹は愛しているが、それは時間に洗われて臭いが無くなったからだ。

夏の終わりにネットで調べると、僕の住む地域には、捨て猫・捨て犬を預かり、譲渡してくれるセンターがあった。しかも無料だという。巷で騒がれているような「ペットショップではなく保護猫を」という運動とは無関係に、あくまで自分本位で俄然興味を持った。ネットで写真を見るとお気に入りの猫も出てくる。しかも何度も見ていると、交渉中となり、やがて譲渡されましたというお知らせに変わる。やはり見た目が可愛い猫から貰われていく。ネット閲覧期は、そんな情報に一喜一憂していた。売れ残った猫はどうなるのだろうか。いつまでも貰われない不遜な顔つきの猫の写真を眺めながらそう考えていたのを覚えている。

ショッピングモールのペットショップにも立ち寄ってみた。愛らしい子猫が数匹、25万円とか40万円とかいう価格と一緒に展示されていた。横には子犬もいて同じように展示されていた。明るい照明の中で、いかにも商品として大切にされているのを感じた。

迷いはもちろんあった。実は一度犬猫のブリーダーの家に仕事で訪れたことがある。大きな一軒家だったが、一歩中に踏み入ると凄まじい悪臭と鳴き声に満ちていた。狭いゲージに詰め込まれた無数の犬猫たちの必死な鳴き声。僕は吐き気を堪えつつそのオーナーと話した。普通の中年女性だった。考えれば空調もかけられていたし、見たことがないくらい巨大な空気清浄機が中心に据えられていた。多分、その人は決して悪徳ブリーダーではなかったのだろう。それでも溢れ返る獣臭に僕は耐えられなかった。幸い仕事は1時間もかからず終わった。逃げるように外に出ると、でっかいベンツが停まっていた。それは強烈な嫌悪感と一緒に記憶に刻みついている。

臭いか……僕はスマホの中の猫たちを眺めながら、何度も考えた。何年も前だが、わが家に糞を残していく野良猫がいて、その対策を色々練ったことがある。あれを家にいれるのかと考えた。そこで猫について色々調べることにした。やはり一番の課題はトイレトレーニングだが、犬とは違い、平均3日もあれば場所を覚えるという。また雌猫は基本的に、雄猫は去勢されるとマーキングしない。ネットで検索すると、臭いが少ないというシステムトイレというものも見つけた。家具で爪を研ぐという記事が多くて悩んだ。また、猫自体の臭いは色々な意見があったが少ないらしい。これはもう体験してみないと分からないという結論になった。

【説明会編】

秋が過ぎ冬になって、僕は譲渡猫の説明会に予約を入れた。家族には不安もあったみたいだが、好奇心もあったように思う。下の娘と一緒に保護センターのスタッフの方に話を聞いた。まず、保護猫と言ってもその資格があるのは全体の15%に過ぎないことが衝撃的だった。85%の猫は色んな理由から人間に慣れず、保護・譲渡に適さないという理由で殺処分となるという話だった。その人の主な仕事は猫を生かすことより殺すことだった。割合は変わっている可能性はあるが、病気があったり、人間に噛みつく猫を譲渡などできない。それは事実であり、ほとんどは安楽死させられるとのことだった。「なので、譲渡したした猫がここに戻ってくることだけは何としても避けたいのです」という言葉は本音だっただろう。また猫はある程度の広さの室内で飼う方が猫にとっても飼い主にとっても幸せらしい。サザエさんのタマのように外を出歩くと、病気・事故・喧嘩などあらゆるリスクにさらされ、寿命は半分もないということだった。

深く考えた。譲渡には家の見取り図なども必要だという。しかも単独で置いておけるのは6時間が限界らしい。これは難しい。僕と妻は仕事で10~13時間以上平日は家にいないし、娘たちも9時間は帰ってこないだろう。いけるか? ダメなのか?

家の見取り図はillustratorで作成した。しかし、6時間が気になる。それが過ぎると、猫はストレスを感じるのだろうか? そこで、僕はスタッフの人にこう切り出した。

「なるべく、寂しさを感じない猫はいますか」
「うーん、そうですねぇ。アルトとシンフォニーですかね」

二匹の写真を見た。アルトはもっさりとした見た目で確かに大丈夫そうだ。シンフォニーはとても繊細な顔立ちをしていたが、僕は気が付いた。説明会の後、猫舎を見せてもらったが、唯一、私たちに興味を示さず、床で寝ていた猫だ。なるほど、猫族の中でも飛び切りの個人主義者という訳だ。話は決まった。

「では、シンフォニーで」

【準備編】

実際の譲渡はそれから2週間先らしい。そこで猫を飼うのに必要なものをネットで調べて購入した。まずはトイレ。色々比較したが、木製チップを敷いたドーム型で、シーツを別途下に入れるタイプを選んだ。もし臭いが強かったらどうしようという不安は大きかった。

次は水飲み器。静音タイプで濾過機能のあるものを選んだ。私たち家族でも水道水を濾過していないのにやりすぎかと思ったが、猫は腎臓病になりやすいらしいのでこだわった。餌の皿も高級な陶器タイプを買ったのだが、これはすぐに割ってしまうことになる。のちに金属製になった。餌はよく分からなかったが、とりあえずセンターの人に聞いてみると、ドライタイプの総合食なら何でもいいらしので、そこそこ手頃なものを選んだ。あとは首輪とおもちゃ。これはあれこれ家族で楽しんで買った。

まだある。キャットタワーである。猫の運動器具で必要かどうか迷ったが勢いで買った。さらに怪我をしたらゲージが必要とのことだったので金属製の1.5メートルのものを買った。結果的には中に入らない無用の長物だが、夏場は涼しいので、上で寝るようになる。さらに移動用の小型ケージも必要だ。余り使わないが、よく構造が分からない複雑なものを買ってしまった。

まだ終わらない。私は経験上、ペットが病気になると大変な治療費が掛かることを知っていたのでペット保険を比較して資料を取り寄せた。負担の割合や免責事項で月に数百円のものから5000円くらいのものまで色々あったが、最終的に自己負担率3割、通院保険付きのものを選んだ。合計いくらかかったか? うーん、多分5万円くらいだろうか。保険は毎月2000円掛かる。高いとは思わなかった。なにしろ10年以上の付き合いになるであろう「生き物」を飼うのである。自分で仲間に入れた生き物が、お金が無い為に弱って死ぬところなんて見たくない。

【お迎え編】

シンフォニーを迎えに行ったのは、本当に年末の曇った寒い12/30だった。そんな年末に公共施設が開いているのか疑問だったが、よく考えると生物を保護している以上、年末年始に仕事があるのは当然なのだ。正門はさすがに閉まっているので、私たち(家族全員)は裏門の駐車場に車を止めて、施設の事務所に向かった。

話はついているので、いくつかの書類にサインをした後、シンフォニーが連れてこられた。クールな彼もその時ばかりがは不安そうで、ニャーニャー鳴いていた。私は開け方もよく分からない移動用ゲージを何とか操作し、彼をその狭い空間に入れてもらった。職員の方に特に感慨はなく、ありがとうございましたとかなんか言っていたように思う。

家までは1時間以上かかる。シンフォニーは車の後部座席で、しきりとニャーニャー鳴いていた。素人が聞いても分かる「不安」や「怯え」が感じられる声だった。娘がなだめていたが、果たしてこの行動は正解だったのか、少し悩んだ。

家について、ゲージを開けると、シンフォニーは食卓の下の暗がりに逃げ込んだ。当然だろう。環境が激変したのだ。私が彼の立場でも同じことをするだろう。ここは安全か? 周りから危害は加えられないか? 知らない臭いばかりだ。

何時間もそういう状態が続いたが、彼が「トイレ」を探していることに気が付いた。私はそこで、事前に用意したトイレを示した。驚いたことに彼はそこで用を足し、以後、そこ以外で粗相したことはない。トイレに関する猫の情報は正確だったのである。それがきっかけだっただろうか。最初の餌を挙げると普通に食べた。「カリカリ」と呼ばれる総合栄養食のドライフードである。職員の方からは一日2回でいいと言われた。以後、そのペースは守っている。

その日は、そんな感じで終わったが、数日が過ぎるとシンフォニーは徐々に我が家をうろつきだした。メンタルが強いのだろう。すでに慣れ始めていた。

【日常へ編】

彼がどうして我が家に溶け込んだのかは分からない。気が付くと、自然とそこにいるリズムが出来ていた。トイレの掃除は一日に二回必要だが、最大級の消臭猫砂、ペットシーツを用意した結果、ほとんど臭いは感じない。それと分かるのは直後ぐらいで、半日忘れていることもある。心配した爪とぎやマーキングもない。食事の2時間前からニャーニャー言い始めるのは閉口するが、だからと言って人がいないと分かると鳴かない。

意外だったのは、直接お迎えに行った娘より長女や妻の方がよりシンフォニーを可愛がっていることだ。長女や妻は写真を撮りまくり、可愛いと言って抱きしめる。彼の話題は停滞しがちな家族の会話の一部を温め、常にそばにいる隣人、家族のようなものになっている。危惧していたことで唯一的中したのは抜け毛だけ。家じゅう灰色の抜け毛だらけになった。とはいえ、そうなったら灰色の服を着ればいいだけ。食事の時にテーブルクロスが毛だらけなのは今でも慣れないが、それ以外は概ね良好だ。

飯の時間と行動範囲の制限を除けば、彼は誰よりも優雅に暮らしている。眠りたいときに寝て、甘えたいときに甘えに来る。冬は暖かい風呂ブタの上でくつろぎ、夏はキャットゲージの「外」の一番上で涼んでいる。

膝の上には時折乗ってくるが、抱っこされるのが異常に嫌いで(トラウマでもあったのだろうか)見ていて笑うほど、渋い表情をしている。食卓の上で、仰向けに寝転がるのは閉口したが、もう慣れた。今は適度に距離をずらしてしっぽが食器に当たらない様にしている。毎日2回の餌やり(朝は私、夜は娘)、トイレ掃除(娘と妻がやっている)、二日ごとの水の交換、一週間に一度のトイレシーツの交換と猫砂の補充と結構な手間がかかっているのだが、もはや日常になってしまった。リンクを張っているシステムトイレの性能は素晴らしく、一番高性能な猫砂を選ぶと臭いはほとんどない。高いと言っても数千円である。

困るのは脱走癖があることで、彼の居住ゾーンであるリビングから抜け出そうとする。気を付けていても時々出る。そのたびに起こるのだが、止めない。ただ、外には逃げないので、それは助かっている。彼にとって世界とは我が家のリビングである。それがいいのか悪いのかは不明だが、前述のように誰よりも時間にゆとりのある優雅な時間を送っている。

「猫を飼う」ということは人によって様々な意味があるだろう。私にとってはどうだろうか。一般的な「癒し」のような簡単なものではないし、かといって「カワイイ」と思うこともない。とはいえ、平日の夜、一人で晩酌をしていると近寄って来るのは愛嬌がある。撫でてやると喜ぶ。ただ、それも一時で、気まぐれに机の下にもぐったりする。主従関係がない。そうか、シンフォニーは我が家の相棒なのだ。願わくば、健康で長生きしてほしい。

結局、この試みは正しかったのだ。私にしては珍しく、正解を選んだっぽい。

(きうら)


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