★★★★☆

お見世出し (森山 東/角川ホラー文庫)

投稿日:2020年2月17日 更新日:

  • 舞妓の話が2つ、扇子職人の話が一つ
  • 小編、中編、小編となっているが、だんだん壊れる
  • 久々に嫌なものを読んだ
  • おススメ度:★★★★☆

読み終えてこれだけ後味が悪いのも久しぶりだ。最初は「ちょっと興味深い」程度に読んでいたら、アクセルを踏見込むように話が醜怪になる。二つ目まではけっこう楽しんでいたが、最後のお話は早く終わらせたくて読んだ。まあ、怖いものが読みたいお人は読んでおくれやす。

良く、起承転結などと言われるが、よくできたホラーには起承転結の中にも心地よいリズムがあって、だんだんと人を惹きつけてくる。本作は、京都・祇園の舞妓にまつわる怪談から始まり、同じような舞台で芸妓(げいこ)を主役にしたサスペンス・オカルトありのJホラー風の話になって、最後は露悪趣味に満ちた残酷小説で終わるという構成になっている。何も知らずに読んでいたので、最終話を嬉々として読み始めてからの後悔はかなりのものだった。この構成はなかなかの罠だ。順番が逆なら全く印象も変わっただろう。

舞妓、芸妓などと書くと時代がかって聞こえるが、舞台は基本的に現代である。なので、先ほどのように一人称で「そんなんどず」などと語りながらエイリアンやディズニーランドなどという単語も出てくる。その辺のアンバランスさが面白いというか、祇園という今でも縁遠い世界を近くに感じさせてくれる。同じ方言で語られる女性(女郎や舞妓という近似もあり)で一人語りという形式から、途中まで「ぼっけえ、きょうてえ」を連想していたが、途中からは別物だと思った。本作は、ある程度の硬質な文章を保ちながら、サスペンス要素やどんでん返しを盛り込んだ、近年のJホラーの系譜だ。と、勝手に思っている。

と、いうわけで、ここまでで興味を持った方は、以下の感想は読まずに、本作を楽しまれることを推奨する。ずっと★2の本ばかり紹介していたので、ようやく安心(?)して書ける。とはいえ、私が勧めるということは、それなりに来るので、一応、責任は持てないということでお願いしたい。

「お見世出し」
【概要】男二人が一見さんでも入店できるホームバーのような「お茶屋」を訪れる。そこには小梅という可憐な舞妓がいた。そして、主人公に自身の半生を語る。彼女は小学生で舞妓になると決めて祇園で修業し始めた。苦労はしたが順調に腕を上げ、いよいよ修業が明け「舞妓」になれる「お見世出し」の運びとなる。しかし、彼女は昔、舞妓になる直前に死んだ女性「幸恵」と瓜二つだったのだ。そして、密かに幸恵の復活を願う、おかみさんに小梅はある願いごとをされるが……。
【感想】と、いう概要で大体のオチは読めると思うし、それほどのインパクトはない。上手くまとまっているが、最後の方はちょっと駆け足に感じるし、途中のホラー的な仕掛けもそれほど深くない。読み終えたときは「まあ、そうだよな」と思った。正直、最終話を読んだ後、読み直して話を理解した。要は次の「お化け」のプロローグと思ってもらっていい。ちょっと、ぞくっとするようなことを狙った怪談といったところか。

「お化け」
【概要】普通のOLをしていた芸妓・弥千華が修業時代から「ある事件」について語る。口調やテンポは、最初の話を引き継いでいるが、キャラクターも増え、話が長い分、色々な仕掛けが施してある。基本的には「春紅」という可愛いが意地悪な「ねえさん」、霊感があるがあまり美人ではない「春雪」、そして主人公の弥千華の愛憎入り乱れる関係が描かれる。山場は「お化け」と呼ばれる祇園の「仮装祭り」のような節分の行事。ここに新しいキャラクターが入って、話はあらぬ方向へとさらに伸びていく。
【感想】これは中々力の入った作品で、キャラクター造形から話の展開など、いろいろよく考えられている。お話としてみても、ギリギリ破綻しそうなところで、踏みとどまっている。「こんな話ないやろ」一歩手前で、ハラハラさせてくれるのが正統派ホラー小説として読めていい。古い話になるが「パラサイト・イブ」ほどぶっ飛んだオチだと、読後にドン引きしてしまうが、そんなリスクを冒さない程度に揺さぶってくれる。伝統的な怪談要素、悪趣味な演出、アクション性が程よく混ざっていると思う。類型的だとか、展開が強引だとかケチはつけられるが、「お見世出し」とセットで、ここでこの本を読むのを止めるのを強くお勧めする。

「呪扇」
【概要】今回の語り手は、前二編と打って変わって老人の扇職人。構成としては同じで、自分の半生を語りつつ、タイトルとなる「呪扇」の話へと進んでいく。シンプルかつグロい。
【感想】本作は、年がら年中ホラー小説を読んでいる私をして「グロい」と思わせてくれるだけのインパクトがある。読み終えて思うのは、人を心底不快にさせるには作法が必要だということだ。「上げて落とす」これだ。舞妓さんの語るちょっと不気味な(そしてちょっと色っぽい)怪談で楽しませ、正反対のグロテスクな世界に突き落とす。最初からこの話を読んでも、私もここまで違和感を覚えなかったと思うが、この構成でこの話は酷い。正直、こっちが著者の本性なら、長い長いフリを経て、いきなり牙を剥かれたといった印象だ。モチーフとして近いのは「地獄変」か。あれを飛び切りの残虐描写で彩ると本作になる。映像化は絶対にできないと思うが、細部が想像できないところもあったので、絵で見てみたいと「少しだけ」思う。本当に少しだ。ちなみに括りとしては、エログロの猟奇性が強調された、いわゆるリョナというジャンルになると思うので、この言葉を知っている人は、読書に値するかどうかはご自身で判断されたし。

ホラーというジャンルが「怖い思いを楽しむ」というものであるとすれば、本作はその趣旨に沿った作品といえるだろう。ただし、私は何となく、著者をしてホラー作家の技術よりも狂気を感じる。他の作品も読みたいような、そうでないような……なかなか迷うところだ。しかし、表紙が怖いな。

(きうら)


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