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ししりばの家(澤村伊智/角川ホラー文庫) ~ネタバレなし-ありの感想

投稿日:2020年10月26日 更新日:

  • 砂をテーマにした呪われた屋敷系ホラー
  • 不条理感が強い内容
  • どちらかといえばモンスターもの
  • おすすめ度:★★☆☆☆

先週、この作者の本をもう一作読んでみようと書いたので、実際に読んでみた。デビューからは4作目にあたる長編ホラー。3作目を飛ばしたのは短編集になっていたため。多少、その3作目との関連はあるが単発作品として読んでも、あまり支障はない。

致命的ネタバレの無い範囲で
話の発端は五十嵐という少年の「幽霊屋敷」の肝試しから。彼は二人の少年、一人の少女とある屋敷に冒険に出かけるが、この後、全員が「おかしく」なってしまった。一方、東京に引っ越してきた孤独な主婦・果歩は、多忙な仕事で接点の薄れた夫に不満を感じて暮らしていた。そんな時、幼なじみの男性(既婚)に出会い、その家に遊びに行くが……。その「家」にはあるはずのない砂と怪異があった。

と、いう内容で、基本的にこの二人の視点が交錯する構成になっている。時間軸が微妙にズレているのが核のアイデアで、そこにサスペンス性がある。基本的に「ししりば」の巻き起こす砂の怪異とその正体を追うサスペンスホラー。

前作と共通するのは、怪異が物理的に存在すること、比嘉という霊能者の家系が登場するという2点。前作もその傾向があったが、パターンとしては完璧に妖怪退治のテンプレートとなっている。私の主観ではアニメの「ゲゲゲの鬼太郎」などに近い。まず、妖怪がいて、誰かが被害に遭い、主人公が苦戦して戦って、最後に勝つというルーティンだ。それでも第二作の「ずうのめ人形」は構成がかなり工夫されていたが、今回は本当に直球だ。作者の作風がより現れていると言える。悪く言えばネタ切れか。

まとめると、怪物、霊能者、意外(微妙だけど)なオチに興味が有ればある程度面白く読めるはず。猟奇的描写はあるが控えめ。また性的な描写もほんの少しで、作者が興味がないのがよく分かる(テーマとしてはいくらでもその方向に拡張できる)。面白いかどうかと言わられると、読んでいる間は退屈しないとしか言えない。ただ、ツッコミ所が満載で、その辺の脇の甘さはこのジャンル特有のものか。怪異を全て現実的な事象で解決する京極夏彦などの作風とは正反対だ。ホラー小説ファン以外が無理して読むような内容でもない。そんなところである。

ネタバレありの感想
うーん、ホームセキュリティのような魔物が爆弾で暴走するという着想は突飛で面白いが、開き直って妖怪退治小説になっているので、途中からテーマがよく分からなくなる。何をやりたいかは理解できるが、何を訴えたいのかはよく分からない。作風として視点が老人性痴呆症や引き篭もりの若者など、社会的弱者にあるのだが、それに対する何かの思想めいたものはなく、読書後に何かを掴んだという実感がない。前作も知的障害者を物語の要素として取り込んでいたが何かこだわりがあるのだろうか。

本作が致命的にまずいと思うのは、メインの怪異である「見えないはずの砂」と家の守り神としての「ししりば」に何ら合理的な接点の説明が無い点だ。砂によって思考を乱す、体内に入ったらダメージを受ける、集めて入口を塞ぐなど色々な攻撃を砂を使って行うが、そもそも「砂がどこから湧いてきたのか全く説明されない」。これで正体が砂かけ婆ぁなら笑っておしまいだが、これは真面目なホラー小説だ。とにかく、その関連性が無いので、犬に弱いという弱点も含め、存在に説得力がない。しかも、タバコの煙や爆弾でダメージを受けるなど、霊というよりモンスターに近い。キングの「ミスト」のように最初から「異界のモンスター」と分かっていればそんなもんかと思えるが、最初はやはりサイコホラー風に始まるので、オチとの違和感が大きい。細かい描写は悪くないとは思うので、それなりに楽しめるとはおもう。まあしかし、この時代、大人向けのリアルなモンスター退治小説を成立させるのは難しい。前作の長編も全く同じ欠点があったが、より複雑でテーマ性もあった。新作がパワーダウンしたというのは残念である。

不気味ではあるが怖くはない。話はリアルから非現実へ飛躍する。ただ、基礎アイデアはそこそこ面白いので、読めないほど悪くない。あとは「砂」描写を楽しめればいいかな、と。おススメはしないが、個人的にはそこまで嫌いではない。やはり底が知れてもこのジャンルが基本的に好きなのかも。

(きうら)

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