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★★★☆☆ 未分類

ずうのめ人形(澤村 伊智/角川ホラー文庫)ネタバレなし~ありまで

投稿日:2020年10月19日 更新日:

  • 呪いと都市伝説がテーマ
  • 二つの物語が交錯する
  • サスペンスとしては面白い
  • おススメ度:★★★☆☆

ぼぎわんが、来る」の著者のデビュー2作目。前作は自分でも内容を忘れていたので、概要を確認したが、何となく納得。モンスター系のホラーで、霊媒師が出てくる要素などが同じ。ただ、前作よりはリアルになっていて面白いとは思う。

オカルト雑誌の編集部にバイトで務める主人公・藤岡が担当の作家が怪死に遭遇するのが発端。その現場で拾った小説の原稿は、実は読むと4日後に死ぬ呪いを受ける。その小説は里穂という高校生が主人公で、家族崩壊した現実の中、ホラー小説に逃避する様子が描かれる。この割合はほぼ同じで、読者は二つのストーリーを同時に追うことになる。

ネタバレなしの範囲で
正統派Jホラー小説。大きく三部構成になっている。小説内小説の主人公が「サダコ」と呼ばれるように、現実のホラー小説へのオマージュとメタ要素が強い。更に叙述トリック風要素も取り入れるなど、なかなか欲張った構成だ。表現的には、直接的なホラー描写もあるが、メインは人の持つ心の闇を描いている。「怖い」とは一度も思わなかったが、嫌な気持ちにはなる。

先が気になるサスペンスとしては秀逸で、序盤は凄くいい。よくある設定だが「月刊ブルシット」というオカルト雑誌の編集部はそれっぽくて興味深い。雑誌衰退期の雰囲気が表現されていて、個人的に楽しめた。ざっとAmazonで調べてみたが、「ムー」だけっぽい(参考:ムー 2020年11月号 [雑誌])。その他は、ムックという形で散発的にオカルト雑誌は発行されているが、雑誌衰退の波には勝てないようだ。

最初の作家先生が死んでからの流れまでは、リアリティもある。ただ、中盤以降、霊能者が出てくる辺りから、物語の停滞を感じる。もう一つの里穂の物語もひたすら苦しい日常なので、読むのはしんどい。オカルト事件も起こるが、基本は陰湿なイジメの描写が続く。

最終章はまさにまとめ。ミステリーで言えば種明かしの部分で、中盤に仕込まれた伏線を回収していく。ここは爽快。ただ、途中からこの物語の本質である「ずうのめ」の実態がよく分からなくなり、それが結末にも影響して、スッキリしない。そりゃないぜ、というような終わり方をするので、竜頭蛇尾とまでは行かないが、サスペンス的展開に力を入れる余り恐怖の本質が曖昧になったのはマイナス点だろう。もう少し「ずうのめ」に突っ込むべきではないのか?

全体的に読みやすいし、読んでる間は楽しく読めた。仕込まれた伏線もある程度納得できるのでミステリ的楽しみ方もできる。グロさも最低限に抑えられているので、こういうライトな日本製モダンホラー好きにはいい一冊だろう。

ネタバレありの感想
前半がいいのは前述の通り。

リングのストーリーをなぞって、呪いが伝播する仕組みもある程度納得した。まあ「読むと呪われる」というのは力業過ぎてどうかと思うが、読むという行為によって、全く別の怪物との繋がりができるというアイデアなのだろう。問題はこの怪物=「ずうのめ」が、現れた根拠がかなりあやふや。一応、里穂の心の闇が引き寄せた魔物という設定になっているが、そこから、里穂の小説を媒介する理屈が(述べられてはいるが)よく分からない。前半の死因は明らかに、サイコホラー風に、何らかの怪異が介在しなくても起こりうる「呪いによる自殺」として表現されている。しかし中盤以降、クトゥルフよろしく得体の知れない化け物が原因に変わっていく。こいつがどうやら地の底から湧いてくる触手のモンスターっぽいのだか、何故か日本人形をアイコンに使って4日後に襲ってくる。主に顔をズタズタにしたりして凶悪だ。地の底から湧いてくるので、マンションの上階にいると階下の住人を巻き込むという設定は無茶だ。そのため、ラストは呪いの元凶の里穂がずうのめにやられて呪いが止まるが、高層マンションのため100人以上死んだと後日談に書いてある。

やり過ぎだ。

それも「テロじゃねえの」的な軽いノリで流されているが、100人も怪死したら社会問題だし「実は呪いでした」程度で済まないんじゃないか。作者は作中にこんな文章を残している。

「小説にしろそれ以外にしろ、文章ってのは不思議なものでね」(中略)「本人が自覚していなかった嗜好や感情が記述されていたり、逆に都合の悪いことを書き漏らしていたり。(後略)」

正にその通りで、冷静に物語をコントロールし、編集長の性別を隠す叙述的トリックまで使っているのに、モンスターが暴れたり、霊能者を出さずに居られないのは作者の嗜好だと思うが、個人的にはすごく惜しい。あと一息で傑作になったんじゃないかとも思う。里穂が「虐められ」ていると同時に「虐めて」いるというのは良いアイデアなので、それと呪いと怪異がスムーズに連結していたらと考えずにはいられない。

特に大して役に立たない霊能者設定は要らない。霊というより完全に物理系モンスター相手に、日本酒など効くのか? 八岐大蛇風のイメージなのか。まあ、ぶつぶつ言っても仕方ない。何となく物語が意図しない軽さを持ってしまったのはやはりこの設定のせいだろう。ただ、近年では面白い部類だったのも事実なので、もう一作くらい読んで判断してみたい。

(きうら)


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