★★★★☆ 読書メモ

もののけの日本史(小山聡子/中公新書)~読書メモ(65)

投稿日:2020年12月4日 更新日:

  • 「死霊、幽霊、妖怪の1000年」
  • 通史的にみる「モノノケ」
  • 多義化する「モノノケ」
  • オススメ度:★★★★☆

【はじめに】

「モノノケ(もののけ)」とは、現代でよく見かけるワードだと思うけど、それがいつからどのような意味合いで用いられてきたかがわかる本。史料を用いて死霊などのモノノケちゃんの意味がどう変わってきたのかが、簡明にわかる本です。ただし、古代中世に重点が置かれているという印象です。

【古代のモノノケ】

古代のモノノケは、正体不明の死霊やその気配のことを指しました。死霊といっても、人に祟るような物騒なものではなくて、単なる死者の霊魂(幽霊)という意味合いで史料に出てくるようです(八世紀頃)。この当時は、霊魂と遺骨との関係は稀薄であったので、怨念というものとのつながりが薄かったのかもしれません。『万葉集』では、「鬼」という文字に「もの」という訓(よ)みを与えているようにです。ちなみに、古来より中国で「鬼」とは、「死者(の魂)」をあらわしていました。

その意味合いが変わってくるのは、平安貴族たちがモノノケに怯えるようになったからでしょう。『源氏物語』にも出てきますし、藤原道長さんもモノノケに怯えたように、それへの恐怖が「死への恐怖や畏怖と不可分の関係」にあったからです。とくに道長さんはそうです。自らが失脚させた政敵たちの死霊(という観念)を、恐れるようになったようにです。

平安時代以降のモノノケ観とは、当時の偉い人たちがモノノケを何らかの病との関係性で捉えていたことを、示します。病に対して十分な治療法がなかった時代ですので、その病の原因をモノノケのせいだとしたのです。そして、病の原因となる何らかの祟り(モノノケ)を調伏・供養することによって、心身のトラブルを解決しようとしたのです。

【中世のモノノケ】

さらに中世になると、得体の知れないモノノケだけでなく、本来なら畏怖の対象であった神さま(疫神)もまた、加持祈祷により調伏しようとされます。このあたりは、鎌倉新仏教興隆や武家政権になったこととの何らかの関係はあるのかなと思うこともある(要勉強)。ここで面白いのは、囲碁や将棋や歌なんかも病気治療(モノノケ調伏)に使われました。

十四世紀になると、「神とモノノケ、霊魂との区別が曖昧」になっていきます。このことは、近世以降さらに妖怪概念も加わり、さらに、わけわからんくなるようです。中世後期になると、医学の発展が見られるようになるので、病=モノノケという観念は減っていくようです。

「十六世紀には、怨念を持って現れ出てくる恐ろしい霊としての幽霊と、怨念を持たずあくまでも供養の対象である霊としての幽霊、さらには死者そのものを指す語である幽霊が、併存していた」(p156-157)

上記のような観念ができあがるのとで、近世以降のモノノケ観の下地ができあがったようです。

【近世のモノノケ】

近世(江戸時代)になると、比較的平和になるとともに刺激を求めるため、怪談が娯楽作品になります。文芸作品のみならず、思想家たちも霊の存在を信じるか信じないかを、その著作物などに記すことになります。まあいうならば、「死霊の存在に懐疑的」な空気ができあがったことなんでしょう。つまりは、モノノケみたいなものを相対化できる余裕ができたということなんでしょう。

十八世紀後半になると、モノノケはさらに、娯楽化されていきます。モノノケの漢字表記も多様化していき、モノノケ(物怪)自体も妖怪や化け物や幽霊などに吸収されていきます。このあたりのモノノケに関しての本書での記述は、実際の文芸作品を通してみていくので、詳しくは本書でお楽しみください。

個人的にひとついうと、幽霊画は美術として色々と描かれますが、髪の毛の描かれ方に特徴があるなと思います。

【近代以降のモノノケ】

明治時代に入ると、近代化をおしすすめる政府にとって怪談などは迷信として退けられるようになります。迷信は子供の教育に悪影響があるなどとして排除されようとしますが、大衆自身は怪談を好みました。この時期になると歴史史料が多く遺されているので、当時の人々のモノノケ観がどのようであったかが、よくわかるようになります。さらには、モノノケ(妖怪や幽霊など)の語義も幅広く用いられますし、西洋からのオカルティズムとそれの反面である近代医学の影響もあいまって、モノノケは「物の怪」なのか「幽霊の話」なのかが、曖昧になっていきます。この、近代の特徴としては、自然への畏怖という感情がモノノケ観のひとつに加わることでしょう。このあたりは、後の『もののけ姫』へと通じるものを感じます。モノノケとは、邪気のような何らかの「気」だけはなく、「気」を発する「モノそのもの」でもあるようなので、むしろ大自然に何らかの畏れを感じる心こそ、古代以前から抱かれていた心性ではなかったかと、個人的にはそう思います。

現代(戦後以降)については、様々な小説やマンガなどからモノノケ観を、みていきます。本書での詳しい内容は書きません。モノノケは現代ではさらに「曖昧」なイメージなるようですが、個人的にはそれこそがモノノケが1000年にもわたって生き続けた証だと思われます。現代では、何らかの怪しい雰囲気といった意味合いも強く出て、それによって自然(森林など)にいるモノノケという存在がフィーチャーされるのでしょう。その典型例が『もののけ姫』だと思われます。

現代人に、「モノノケ」で連想されるものと訊けば、おそらく多くの人が『もののけ姫』と答えるでしょう。それくらい『もののけ姫』の存在はでかいのでしょうが、最近だと妖怪ブーム(?)や、マンガアニメといったアニメでのモノノケのオンパレードによって、さらなる多様性が生まれているのではないかと思います。ここ最近のアニメだと、『モノノ怪』(2007)、『もっけ』(2007)、『不機嫌なモノノケ庵』(2016他)などで「モノノケ」に類する用語が出てきますが、いずれの作品に登場する怪しいものや、妖怪やオバケや、幽霊といったものは、ここ1000年に培われたモノノケ観の集積ではないかとひそかに思っております。

【まとめ】

本書は、「モノノケ」というものがどのような意味合いで使われてきたかを通して、日本人の精神史の一部を書いたものといえます。その変化は色々あるのでしょうが、「モノノケ」の外見(?)がどのようなものに変わっても、その芯にある部分が変わらなければ、「モノノケ」自体は素晴らしいものだと思います。これからも色んな素敵な「モノノケ」に出会いたいです。

(成城比丘太郎)


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