3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

アカギ 〜闇に降り立った天才〜 [1-36巻](福本伸行/竹書房)

投稿日:2020年7月20日 更新日:

完結したらどこかで感想を書こうと思っていたら、2020年になってしまった。本作「アカギ」は、大体の方がご存じの通り「カイジ」などで有名な福本伸行の麻雀漫画である。連載は1992に始まり、2018年に終わっている。26年に及ぶ長期連載ギャンブル漫画であるが、構成が極端に偏っていることでも有名だ。

アカギという男は、著者の別の漫画(天 天和通りの快男児)に出てくる「伝説の麻雀打ちの老人」であり、この作品はスピンオフという位置づけ。人気があったので、少年時代~青年時代が描かれているが、通常の麻雀漫画の「テンポ」として進行するのは6巻までで、7巻からラストまでは、いわゆる「鷲巣麻雀編」として知られるとてつもなく長い半荘(6局)が描かれている。

「鷲巣麻雀編」は負けたらアカギの血液を抜かれるというルールで50億円以上をかけた狂ったギャンブルだが、とにかく長い。一打打つのに1巻費やすなんてざらで、後半は敵である鷲巣が地獄で革命を起こしすなど、訳が分からない部分も多い。その過剰とも言える心理描写が肝で、それゆえ、勝負を決した時の快感はすごいが、リアルタイムで読むのは非常につらい作品とはいえる。とはいえ、完結してくれたのはうれしい。うれしいと思いつつ、22巻でストップし、10年以上放置して、結局今日まで読まず、一気読みしたという次第である。

ただ、1~6巻だけとってみれば、まぎれもなく傑作麻雀漫画で、とにかくアカギが恰好いい。その無頼ぶりは、男であれば一度はあこがれる天性の勝負師として描かれている。展開もスリリングで、当時人気が爆発したのもよくわかる気がする。

しかし、このテンポのいい展開が「鷲巣編」で急にストップし、とにかく、20年にわたって一つの勝負を続けるという、一種異様な展開をする漫画である。竜頭蛇尾という言葉があるが竜頭のまま、しっぽがとんでもなく長いような漫画になっている。

麻雀漫画の醍醐味は意外な勝負の行方とそのロジカルな思考、そして運が絡み合う展開だと思う。鷲巣麻雀も最初はそういう展開だが、徐々に心理描写が増えていき、ほとんど、禅問答のようなシーンが繰り返されることも多い。最後はロジックも消え、運だの天命だの、そんな話に流れていく。それゆえ、私は一度、脱落してしまったのだ。

改めて一気読みしてみると分かるが、ちゃんと起伏はあるのである。ただ、これだけ長い期間にわたると、もう少し圧縮できたのではないかとは思ってしまう。「鷲巣の地獄編」などは、蛇足だと思うが、作者も乗ってきて歯止めが聞かなかったのだろう。

この漫画では、ギャンブルの持つ怖さも十分に味わうことができる。ただ、全巻を読み通すと、それ以上に奇妙な感慨がある。結局、生きるとはギャンブルではないか、という、作者の哲学のようなものを感じることができるだろう。それについては特別な人生観ではないし、概ね共感できるので、私は満足している。

こうして積み上げてみるとなかなか愉快だ。20年間、ずっと同じ対戦相手と戦ってきた物語である。最後、敵である鷲巣がアカギを失うことに涙するシーンがあるが、なるほど、その歳月の積み重ねを思うと、そういう境地に至るのもわかる気がする。このわかる気がするという点が重要で、それがつまりこの漫画の面白さなのだ。

個人的には6巻で読むのをやめても十分楽しめると思っている。もちろん全館通して「死ねば助かるのに」「狂気の沙汰ほど面白い」など、この漫画でしか聞けない名台詞に酔いしれるもいい。

胡乱な話になるが、結局、生きているということはこういう作品を最後まで読めた、ということであるのかも知れない。そして、その作品で得た「明日はどうとでも変わりうる」という感想こそ、私が得た重要なものだろう。ま、ホラーでないのは申し訳ないが、広義のホラーっぽいシーンは随所に出てくるのも確か。ギャンブルは怖いね。

(きうら)


-★★★★☆
-, , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

銀河英雄伝説 1 黎明編 (田中芳樹/創元SF文庫)

壮大な宇宙戦争をタクティカルに描く著者の代表作 多数のキャラクターが縦横無尽に活躍する ヘビーライトノベルとでも言うべき重厚さと読みやすさと少年の心をくすぐる設定 おススメ度:★★★★☆ 時々、無性に …

ダーク・タワーII 運命の三人 上 (スティーヴン・キング (著)/風間 賢二/角川文庫)

いきなり超展開するキング流西部劇&ファンタジー スリリングなシーンと比較的退屈なモノローグ アイデア満載。確かにもっと認めて欲しい気持ちは分かる おススメ度:★★★★☆ まずは、これを見て欲しい。 そ …

廃市(福永武彦/小学館P+D BOOKS)~紹介とレビュー

少し暗いところと、観念的(抽象的)なところとがあります。 きちんと構成された作品もあります。 表題作の映画についても。 おススメ度:★★★★☆ 福永武彦というと、今では、作家の池澤夏樹の父親としても知 …

ぷよぷよ テトリス S ~レビューと回顧録

テトリスとぷよぷよが上手く融合 楽しいキャラクター 安定の面白さ。接待用にも最適 おススメ度:★★★★☆ ストーリーのある「ゼルダの伝説 BOW」はともかく、さすがに怖い本のサイトでパズルものゲームの …

アマニタ・パンセリナ (中島らも/集英社文庫)

著者の実際の「ドラッグ」体験をつづるエッセイ集 酒からガマのアブラ、ベニテングダケまで、様々なドラッグが登場 一つひとつがリアルで「面白い」 おススメ度:★★★★☆ この本は先に書いたようにホラー小説 …

アーカイブ