★★★☆☆

アルスラーン戦記・1 王都炎上(田中芳樹/らいとすたっふ文庫)

投稿日:2018年9月25日 更新日:

  • 中世ペルシア風の世界を舞台にしたファンタジー
  • ややライトノベル寄りだが読みやすく面白い
  • アニメとの比較も
  • おススメ度:★★★☆☆

【まえがき】
先日、何気なくAmazonビデオのラインナップを見ていると「アルスラーン戦記」の名前があった。それほど見る気はなかったのだが、ついつい第1話を再生したところ「こんな話だっけ?」という強烈な違和感に襲われた。その後、8話程度まで見たのだが、疑問は深まるばかり。はるか記憶のかなたにあるアルスラーン戦記との微妙な違和感。これはもう、原作を読めということに違いないということで、本棚を探したらなぜか1巻だけないという読書あるあるで、仕方なく(?)Kindle版を購入したが、版元が変わっている。手元にあるのは角川文庫版なので、どういう事情かは知らないが版権が変わってしまったようだ。それはいいとして、この味気ない表紙はどうにかならなかったのか。老害を承知で意見するとやはり、天野喜孝氏のイラストが無いのはさみしい。原作に合っていたと思うのだが。

【あらすじ】
舞台は架空の中世ペルシア風の世界を舞台とする。大国パルス王国は不敗の騎兵隊を持つ強国だったが、蛮族ルシタニアの侵攻を受け、味方の裏切りによって滅亡の危機に瀕する。王太子アルスラーンは無敵の騎士ダリューンや天才軍師ナルサスの助けを借りて、故国奪還に乗り出すが……。

【小説の感想】
上記のあらすじのように、これはファンタジーの一つのフォーマットである「王子放浪譚」である。亡国の王子が、忠臣の力を借りて国を取り戻すというある意味、王道中の王道的ストーリーだ。銀河英雄伝説でも、名前にこだわりを持つ著者であったが、本書もその例にもれず、ペルシア風の名前が吟味して使われており、アルスラーンを始め、ダリューンやナルサスなど、名前だけでキャラクターを思い浮かべることができるのはさすが。展開的にも大国の敗退という、一種のクライマックスから始まり、徐々にそれを跳ね返していくという熱い展開だ。中高生が読むにはちょうど良いテンポと文章、構成ではないだろうか。

著者が明かしている話から見ると、蛮族はどうやら十字軍をモデルにしているらしく、狂信的な一神教国家として描かれている。ただ、こちら側のキャラクターがやや弱く、パルス(主人公側)のキャラクターばかりが際立っていて、少々、力不足のように思える。まあ、銀仮面を被った騎士やあやしい魔導士など、この時代のファンタジーにつきものの設定はもれなく用意されていて、飽きが来ないような多面的な描写になっている。私の印象ではアルスラーンが出ずっぱりだった気がしていたのだが、改めて読み返してみると一巻では彼はほとんど何もしていない(ナルサスを臣下に加えることとなる一言を覗いて)。その分、ちょっと退屈に思えるところもある。

著者は歴史に詳しいので、疑似歴史書的な体裁の語り口もあって、この辺は、昨今の読みやすいファンタジーになれた読者からは違和感があるかも知れない。かと言って、歴史ものと割り切ってしまえるような内容でもなく、話の本質としては、あくまでもアルスラーンを中心とした英雄譚だが、じつはこっそり著者の皮肉を楽しむという「銀河英雄伝説」と同じ構図で描かれている。どちらにしても長い話なので、慌てずにチクチク読む分には十分楽しめるのではないかと思う。

【アニメ版の感想】
と、原作を読んでみて分かったのは、アニメができるだけアルスラーン寄りにしようと工夫されていることだ。特に第1話は原作にはないエピソードで、アルスラーンの「善人ぶり」「世間知らずぶり」が強調されている。原作の細かい陰謀部分が飛ばされていたりして、大変見やすくなっている。見やすくなっているが、やはり、アニメ特有の誇張があり、それで時々がっかりする。これはひょっとしたらコミックス版の設定なのかも知れないが、各キャラクターの行動が微妙に「やりすぎ」という気がしないでもない。

とはいえ、誤解を恐れずに言えば、原作を完璧に再現した映像化作品というものは「ない」とは思うので、これはこれでそれなりに楽しめる。ただ、戦略の見せ方、ギャグ、お色気、美青年ぶり、作画など、いずれも微妙に中途半端な気がするのは予算の関係だからだろうか。CGで更新する兵士を見るたびに、ちょっとだけ冷めた視線になったりするのも事実だ。

ファンタジーは読む人の数だけ世界が出来上がるのがいいところ。まあ、優しい気持ちでもう少し見てみたい。

(きうら)


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