★★☆☆☆

エス(鈴木光司/角川ホラー文庫) 【ネタバレ全開】

投稿日:2019年1月21日 更新日:

  • 「貞子」にまつわるアナザーストーリー
  • 粗が多すぎて最後は本を投げたくなる
  • 怖くはありません。
  • オススメ度:★★☆☆☆

作者が鈴木光司で、本の裏に次のようなあおりがある以上、リングの関連書であるのは分かっていたのだが、それにしても話の畳み方が酷い。今回は刊行時期も考慮し、ネタバレ全開で進めたいと思うのでご注意を。

映像制作会社に勤める安藤孝則は、ネット上で生中継されたある動画の解析を依頼される。それは、中年男の首吊り自殺の模様を収めた不気味な映像だった。孝則はその真偽を確かめるため分析を始めるが、やがて動画の中の男が、画面の中で少しずつ不気味に変化していることに気づく。同じ頃、恋人で高校教師の丸山茜は、孝則の家で何かに導かれるようにその動画を観てしまうのだった。今“リング”にまつわる新たな恐怖が始まる。

出だしは決して悪く無い。妙なリアリティのある死刑シーンから、自殺者の自撮り動画が持ち込まれて、その分析に当たる主人公のシーンは興味深く、日本的現代ホラーの王道だと思う。死刑囚が連続少女誘拐殺人犯というのも、この手の話を求めている読書を誘引するだろう。あくまで不思議な現象に懐疑的な姿勢で始めるのも私の好みだ。ただ、嫌な予感はその中にもあった。

まずはリングの「続編」と言うスタンス。リングそのものは確かに良く出来た作品だと思っている。しかし、その後、三部作として出版された「らせん」「ループ」は、超フィクションとでも言うべき、いわゆるメタ的な展開だった(と記憶している。因みにバースディは読んでない)。当時は煙に巻かれた気分だったが、本作を読んでみて納得した。どちらかと言うと、著者の好みは、王道ホラーより超常ホラーにあるのではないか。それはオチになるので後述する。

また、設定の安直さも気になる。なぜ、謎の映像が持ち込まれる主人公は都合よくCGアニメクリエイターなのか? 最後まで読むと、どうもオチから逆引きして設定された感が強い。大病院の御曹司で、タワーマンションに住んでいて、イケメンで優しく、美人の恋人がいるという完全無欠の設定。しかも金に不自由しないので行動は自由だ。それでも構わないのだが、グッと感情移入できるポイントがない。恋人の茜も然り。

また、いきなり合理的な説明を投げるのはどうかと思う。具体的に書くと、USBメモリに入った映像とパソコンにコピーしたファイルの映像が出てくるが、パソコンの中の映像は勝手に変化し始めるのである。複雑なプログラムやウイルスを仕込めば実現できるかも知れないが、そういうアプローチはされないし、調べようともしない。

後半、メールアドレスから殺人犯のメールを割り出してウイルスを仕込み、リモートしてパソコンを覗く描写があるのだが、具体的な描写が無いので説得力を欠く。相手はパソコンを駆使する秀才なのに、そんなに簡単にマルウェアを仕込まれたり、管理共有を許すだろうか? 「リングの続編だから」で許されるという飛躍が多い。

それでも、オチ付近までは投げ出す程でもなく。何となく上滑りする愛や人類というテーマを感じつつ、それなりに楽しく読めるのはさすが。

と、褒めた直後に何だが、明らかに文法がおかしいのはどうかと思う(否定形で始まり、肯定系で終わる箇所が気づいただけで2箇所あった)。誤字・誤用の類に関しては人のことは言えないが、そんな私でも気付くのに作者は気づかず、編集者は指摘できなかったのだろうか?

ま、それはいいし、リングが情報型ウイルスで、ビデオから本へ(なぜインターネットでは無いのか)と形を変えたというのも一応許そう。カーナビが「呪いで」行先を変えるのも斬新な設定としておこう。しかし、である。

オチが文字通り「次元が違うから」というのはやはり納得出来ない。種々の不可解な出来事の原因が、貞子は超次元の存在で三次元の我々に自由にアクセスできるとは、あんまりじゃないか。リングのキーマン、高山竜司が「二次元にいるアリは、三次元に連れてこられたら消えたり現れたりするだろ」って説明してくれるが、いつの時代のSFの例え話だ。詳しい説明は難しいから省きます、というのも不条理感に輪を掛けてる。難しいというより設定してないだけじゃないのか。

もし超次元からアクセスできるなら、リングウイルスをばら撒くなんてまどろっこしいことはやめて、直接、貞子をコピーすれば良いのでは。まあ何だか、完全に妄想系神がかり話を、次元やDNAなどの科学用語(?)で薄くコーティングしたようにしか思えない。

で、肝心なところだか、全く怖く無い。あれだけあったリングフォロワーの劣化コピーのようで、最後は同人誌を読んでる感じだった。最後、ようやくネットの検索の話が出てくるが、動画サイトが先に来て、ネット検索があとに来るのはおかしい。視覚で感染するウイルスなら、GoogleかYahoo!のトップページを改変するだけで、3日で人類総貞子にできる。

結果、「リング」にあった貞子の恐怖は復活しないし、リブートできたとも思えない。最大限好意的に見れば、リングファンに向けた公式外伝だろうか? 作中、リングという小説が登場する所では思わず笑ってしまったが、そういう温かい気持ちを持って読める人は、話の種に一度どうぞ。

(きうら)

蛇足:
それにしても作中で、リングの映画化は頓挫したことになっているのは、余程、あの映画が気に入らないのだろうか? 確かにチープではあるが、あの貞子のデザインのお陰で今の鈴木光司があるはずだ。みんな話のオチは忘れてもあの姿は思い出せるはず。リングの設定が死んでキャラクターが残るというのは皮肉なことに思える。まあビデオテープは無くなったが、インターネット・スマホが人類に感染したウイルスだとは思う。この仕組み・装置が、直接、間接的に何人の人を殺しているのだろう? と、ブログに書いておいて何だが、そう思うとこの文章も一種のウイルス? と、悪ノリ。



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