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★★★★☆

エルフランドの王女(ロード・ダンセイニ〔著〕、原葵〔訳〕/沖積舎)

投稿日:2018年7月21日 更新日:

  • ダンセイニの傑作ファンタジー
  • 人間の世界に隣り合う、もうひとつの世界がある
  • 魔の国から見る人間世界
  • おススメ度:★★★★☆

本書は、1924年発表の傑作ファンタジーで、この度復刊されました。「ファンタジーの真の巨人」(「訳者あとがき」)であるダンセイニに関してはあれこれ書くまでもないでしょう。ウィキペディアをみたところ、当作品は『魔法使いの弟子』の前に発表されたようです。wikiの「作品リスト」を見たら、まだまだ読んだことのない(邦訳のない)作品があって、全部読んでみたいと思う(どこか翻訳で出してくれないものか)。以前『魔法使いの弟子』の時にも書きましたが、本作品もファンタジー好きには欠かせないものでしょう。というか、読んでほしい一品。

世界観としては、一見ありがちなファンタジーかと思われましょうが、それは、これが現代のファンタジーの源流(のひとつ)となったからでしょうか。人間世界と地つながりでありながら、それとは全く違う「時」と色合いを持ったエルフランドという魅力的で空想的な世界があるのです。さらにまた魔の国ともされ、その魔力を人間世界へと持ち込もうとする人々のたくらみに利用されたりするのです。まあなんというか、単純な二元的世界かもしれませんが、しかしアルヴェリックたちの、エルフランドへ至る境界を求める狂気のような旅には、人間のあこがれのようなものを感じずにはいません。

エルフランドは人間世界とは違って、「時間がたたない」世界であるのです。その美しさは、人々の別世界へのあこがれや、また、その世界が身近なものとして接近してくるのではないかというその息遣いとして、十二分に描かれています。そのエルフランドの時間とは、例えば次のような描写にあるような、

「蜜のように甘い空気に夢まどろむ永遠の美の中で、動くことや変化すること、また新しいことなどを求めるものは一切なく、ただ、かつてあったすべての美を、永遠に沈黙したまま観想している恍惚があるだけだった。その恍惚は、はじめて呪文や歌によってつくりだされた時と同じように強烈に、いつも魔の芝生の上に輝いていた」

といったもので、世界があるひとつの魔の力によって満たされ、それによって永遠の平穏に充足しているような世界でもあるようです。

また、ふたつの世界は、ただ言葉だけによってその命を付与されたかのようなさまを強く感じさせます。出てくる地名はアールとエルフランドといったものだけです。人間世界に隣り合うはずのエルフランドが見えなくなったとき、人間世界に連なるのは荒れ果てた地のみになるのです。そこを旅してエルフランドを見つけようとするアルヴェリックたちのあてどない彷徨は、人間の何らかの業を見るかのよう。このアルヴェリックは、「夢と神秘を追ってい」くも、やがて「諦めきって、自分に何が起ころうともはや気にかけることなく、ただ想い出と、過ぎ去った日々の中にだけ生きていた」というようになります。

本書にはいろんな人物や種族(?)が出てきます。まず生き生きしているのが、アルヴェリックとエルフランドの王女リラゼルとの間に生まれたオリオン。途中から彼がもう一人の主人公(というか、かれこそ主役?)となって世界を駆け巡るのです。
それから、一番ユーモラスなのが、トロールたちでしょう。普段はエルフランドに住むこのトロールから人間の世界がどう見えたのか、彼らの驚きが非常に良いです。なんだかファンタジーを初めて読んだ時のことが甦るような瑞々しい感性を思い出す。

結末や詳しい内容については書きません。そういうことを知らないで読んだほうが良いと思うからです。単なる夢見られた世界のおとなしい(?)ファンタジーだけというわけではなく、人間へのささやかな警鐘を感じるようなものでもあります。まあ、どう読んでもいいんですがね。

(成城比丘太郎)


-★★★★☆
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