★★★☆☆

オブ・ザ・ベースボール(円城塔/文春文庫)

投稿日:2018年10月19日 更新日:

  • 一年に一回人が落ちてくる。それをバットで打ち返す人の話
  • 不条理小説とも単純な人生の比喩とも取れる
  • シャープな文章。怖くはないが少しだけグロイ所も
  • おススメ度:★★★☆☆

文學界新人賞受賞作、ということで、これは間違いないなく文学作品であろう。先日、裏で共同筆者と「文学とは何か」という話をしていて、勧められたのがこの作品。私はご存知の通りほぼ娯楽作品しか読んでいないので「文学とは何たるか」というテーマに答えは出せない。という訳で、今回も結局、お話としてどうかという話になる。

(あらすじ)年に一回、空から人が落ちてくる田舎町「ファウルズ」が舞台。ここはとんでもない田舎で、農業以外の産業がない500人ほどの人口の町だ。主人公は食い詰めて、この落ちてくる人を「バットで打ち返す」という職に就く。一種の公務員である。彼らは9人いるが、もちろんベースボールのチームではない。主な仕事は、いつどこに振って来るか分からない人間を、日がな一日中、寝転がって眺めているというものである。結局、彼の前に人は落ちてくるのだろうか?

単純に設定が面白い、と思ったのは事実。人が降ってきて、それをネットでキャッチするなら分かるが、バットで打ち返すという発想が無茶だ。しかし、この小説では、このアイデアを軸に小説として成立させてしまうように構成されている。突飛な設定を考えてみたのだが、これを読ませるにはどうしたらいいか。これは純粋に作家の創造力が試される内容だ。

文体は極めてクール。体言止めが目立つし、人によってはちょっと気取った感じがするかもしれない。出てくるエピソードもいちいち小難しい。ただ、こういった手法を用いなければ、このストーリーは単に荒唐無稽で終わってしまうだろう。アリストテレスも引き出して、なぜ空から人が落ちてくるかを考察するのだが、その考察そのものが作品自体と言って過言ではない。

目的ははっきりしている。誰が読んでも、人が落ちてきて主人公が打ち返すのがオチだろうと思うだろう。それに向かって、展開されるのは、論理的ではあるけれど科学的ではない理論の数々で、基本的に主人公達も自分たちの職務が達成されるとは思っていない。かと言ってファンタジーでもSFでもない(その要素は散見できる)、誤解があるといけないが、敢えて言えばこれは極めて内省的な小説だ。

誰が考えてもおかしな世界で、真面目に人をバットで打ち返す仕事をしている男。敢えて書かないが、オチはもうこれ意外はないだろうなというような展開になっている。それを読めばますますこの小説が自己探求型の小説であろうことが分かるだろう。円環型と言ってもいいかも知れない。もっと深く突っ込もうという気があれば、何度も読み返せば発見が多いかも知れない。そういう滋味は豊かだ。

この作品が余り何にも似ていないということは文学では最大の美徳だと思うが、確かに読後感は非常に不思議であった。何となく可笑しいような、爽やかなような、ヤケクソ気味なような、諦めもあるような……まあ、短い話なので、設定が面白と思ってしまった方は読んでみてもいいと思う。ちょっと星新一の小説を想起したが。

まあ、私のような読書の基本スタイルが濫読になっている人間に、文学に限らず、ジャンル分けは無意味かも知れない。日々、頭の中の巨大な洗濯機に放り込んで、小説を漂白しているだけのような気がする。文学もホラーもファンタジーも、私の中では綺麗に洗い流されて、ただ、青空に掛けた竿で白くなってはためている。そんなイメージだ。んん、分かりにくい? では、犬に論語とでも書いておこうかな。

(きうら)

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