★★★★☆

クトゥルー(1)(ラヴクラフト他[著]・大瀧啓裕[編]/青心社)

投稿日:2017年9月27日 更新日:

  • 「暗黒神話体系シリーズ」第一巻。
  • ラヴクラフト他、クトゥルー神話作家の作品集。
  • クトゥルー神話入門としては色々手頃な一冊。
  • おススメ度:★★★★☆

ある季節になると、無性に読みたくなる本というのはあるでしょう。春になったら桜に関する本とか心が浮き立つような本とか、夏になると海洋冒険ものが読みたくなるとか、晩夏にはシュティフターの『晩夏』が読みたくなるとか、冬になったら哲学的な本が読みたくなるとか、その時の気候や身体状況にあわせて色々読みたくなるということを経験した人もいることでしょう(おそらく)。そして今は秋です。私は毎年秋(9月)になり夜の気温が徐々に低下してくると、ラヴクラフトやクトゥルー神話ものを読みます。なぜだかわからないけど、わけもなくクトゥルー神話が読みたくなってくるのです。この頃になると、夜の空気が冴えだすのか、虫の鳴き声が夏の頃より響きが増したように感じられて、それはあたかも『クトゥルーの呼び声』か、とまでは残念ながらなりませんが、大地に眠る「旧支配者」の一触れを感じたような気がすると思いこむと、面白く読めるのです。秋の夜長にクトゥルー神話は、私の中では結びついて離れません。

などと、うだうだ書きましたが本書はクトゥルー神話に興味がる人には入門的なものとして最適な一冊ということをお知らせしたいです。冒頭の『クトゥルーの呼び声』(ラヴクラフト)は海洋恐怖ものともいえますが、「クトゥルー神話体系の偉大なる原点」というべき作品です。少し読みにくい(日本語である)のが難点ですが。クトゥルー神話のモチーフが表立って現れています。

クトゥルー神話の語りで目立つのは、やはり伝聞的に恐怖が伝えられることでしょう。『アロンソ・タイパーの日記』(ウィリアム・ライリー)や『無人の家で発見された手記』(ロバート・ブロック)などはそのままタイトルが示す通りに、日記や手記が伝えてくる恐怖が書かれています。特にこの『無人の家で~』は、一応クトゥルー神話の怪異が出てくるものの、ホラーとして純粋に楽しめます。さらにいうと、『無人の家で~』は、少年の恐怖体験のもとをクトゥルー神話が基礎づけた感じで、この一編を読むだけでも価値があります。同じ意味で、『博物館の恐怖』(ヘイゼル・ヒールド)は、おぞましいオブジェにかこまれた夜の博物館の滞在という、ホラーものとして途中までは楽しめます。

ラヴクラフトやクトゥルー神話を読むと、たまに、比較的歴史のない(国としての)アメリカに、古くからの由緒ある何かをつくりだそうとして、このような神話をつくりだしたのかと勘繰ってしまうことがあります。まあ、もちろん遠い宇宙や地球全体にもおよんでいるので、気のせいでしょうが。まあ、何らかの由緒付けということでいうと、『破風の窓』(ラヴクラフト&ダーレス)では、これからクトゥルー神話を読むにあたって頻出することになる『ネクロノミコン』をはじめ、様々なおなじみの書物が出てきます。本書は地上的な恐怖を主に扱っていますが、この『破風の窓』では唯一異世界が垣間見られます。

地上的なものというと、『ハスターの帰還』(オーガスト・ダーレス)と、『ルルイエの印』(ダーレス)では、名作『インスマスを覆う影』で起こったことについて触れられます。この二編を書いたダーレス(の二編)には、クトゥルー神話を広げていこうという意図が見えます。『ハスターの帰還』は、まるで映画のワンシーンを思わせる壮大なバトルが見ものです。『ルルイエの印』は、『インスマス~』のその後のことが、一族の後継者である人物とからめて書かれています。(ダーレスの)クトゥルー神話入門とでもいうべき一編にもなっています。(それにしても『インスマスを覆う影』が収録されるのがシリーズの第八巻目とは……)。

この一巻は、宇宙的な恐怖といわれるクトゥルー神話体系を、地上的なものへまで落として感じられる恐怖作品が主です。よく分からない用語も出てきますが、それらは巻末の「クトゥルー神話の神神」で簡単に説明されているので、ある程度は分かるとは思います。クトゥルー神話を楽しく読むには想像力がいるとかいないとか言われますが、それよりも、卑近な恐怖への感受性が最初には必要かなとは思います。例えば、山道で不意に野生動物に出あっただけでもある程度ビビるように(熊なら最悪)、その(ちょっとした)恐怖を異形のものへの恐怖へと敷衍してみること、この想像力がクトゥルー神話を楽しく読むためのひとつのスパイスだと思うのです。

クトゥルー神話に少しでも興味のある人にはおススメです。

(成城比丘太郎)


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