★★★☆☆

クライマーズ・ハイ (横山秀夫/文春文庫) ~あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年8月25日 更新日:

  • 日本航空123便墜落事故に遭遇した記者たちの葛藤
  • 事故そのものではなく「報道」についてのドラマ
  • 親友との関係が少しわかりにくい
  • おススメ度:★★★☆☆

ご存知の通り、日本航空123便墜落事故(Wiki)は、2017年現在、世界で最も被害者の多い飛行機事故だ。事故が起こったのは1985年の8月12日。搭乗する乗員乗客524名のうち死亡者数は520名、生存者僅か4名という大変な事故だった。私は当時小学生だったが、連日、このニュースばかリ報道されていた印象がある。幼いながらも「何か大変なことが起こった」というのは実感していたように思う。今回、この本を取り上げてみたのは、先日8月12日に著者のインタビューが載っていたのがきっかけだ。

本著、クライマーズ・ハイは、著者が実際に地方新聞の記者であったときに遭遇した体験を元に、架空の新聞社「北関東新聞社」を舞台に、記者同士のやり取りがメインで展開される。大筋としては、過去に部下を事故で無くした(原因を作った)主人公・悠木和雅が、日本航空123便墜落事故の担当デスク(責任者)に命じられ、現場からの若い記者とのやり取りや、上層部との軋轢に悩みながら、報道とは何か、命の重さとは何かを真正面から問うもの。最初にも書いたが、事故のドキュメンタリーではなく、事故現場そのものの様子は、直接語られることはほとんどない。取材に行った部下の動揺や共同通信などの記事によって知るばかりなので、この事故の全容をある程度知っていることが前提となっている。

事故のそのものは、上記のウィキペディアにもかなり詳細に記されているが、本当に恐ろしい事故だ。30年以上たった2017年現在でも、ネット上でたびたび「ネタ」にされたりするのを見るが、現場の様子の凄惨さは想像を絶するもので、このサイトで「怖い話」として、軽々と語れるようなものではない。各種の記事や、かなり前になるが、山崎豊子の「沈まぬ太陽」という小説でも読んだが、二つの遺体が衝撃で一つになってしまうなど、恐ろしいものであったという。その後も飛行機事故はたびたび起こっているが、こういった悲惨な事故が起こらないように祈るばかりだ。

本書では、そういった衝撃的な事件の「現場」ではなく、地方新聞である「北関東新聞社」の記者が、そういった事故にどのように向き合っているかを描く人間ドラマで、事故の現場に赴く若い記者、その記者の記事をどのように扱うかでもめる編集部、事故の重大さをまるで理解していない上司や関係のない派閥争いなど、過去に傷を持つ主人公・悠木がそういった「日常」で右往左往する。そこにホラー的要素はないが、どうにもならない煮詰まった人間関係や、自分の過失でもないにも関わらず心に深い傷を負うこと、また、一家庭人として息子との関係に悩むなど人間臭い葛藤が描かれる。これは角度を変えれば、まさに生きることの葛藤そのもので、熱いやり取りがあると同時に、いつ、何が失われるか分からないという「恐怖」そのものでもある。

そういう人生の不条理を象徴するものとして、主人公と谷川岳登攀を約束した同じ会社の親友が事故直前に繁華街で倒れ、意識不明の遷延性意識障害(植物状態)となり、その家族とのドラマが事故当時と対比されるように度々挿入される。「下りるために登るんさ」という、親友の言葉の謎を追うような形になるのだが、ここが今一つこの小説で分かりにくいところだった。作者の意図は十分にわかるのだが、当時の会社内の葛藤との関連性が事故とは直接関係ないため、つながりが希薄な感じがする。その点が少々残念。

その後、著者は「64(Amazon)」などが代表作になっているが、それらと比べると少々物足りないところはあるもののドラマとしては十分緊迫したやり取りを堪能できるようになっている。

飛行機に限らず、残念ながら事故は乗り物につきもの。日々、事故を回避する努力はされているが、根絶には程遠いのが現状だ。怪談は架空のものであるが、事故はリアルに一生を左右する恐ろしいもの。くれぐれもご注意を。

(きうら)



クライマーズ・ハイ (文春文庫) [ 横山秀夫(小説家) ]

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