- 崩壊後の世界での奇妙な冒険
- 「武装島田倉庫」がベースだが大幅に明るい
- 著者が楽しく異世界を「旅行」している
- おススメ度:★★★☆☆
(あらまし)北と南の戦争が終わってかなり経ち、経済や文化もだいぶ復興して来た「崩壊後」の世界が舞台。そこで傭兵である灰汁(あく)やカンパチ、発電所の技術者として働いて来た策三、ダラ、スケルトンの三人は奇妙な出会いから、誘拐された少女の追跡を依頼される。それは思いもかけず、壮大な物語へと発展して行く。
椎名誠初期の傑作SF三部作の中でも特にお気に入りの「武装島田倉庫(過去記事)」と、世界観を共有する(と思われる)最新作。灰汁や策三は全く違うキャラクターながら両方の小説に登場している。ただ、比較してみれば分かるが、内容は全く違う。前者がハードでシリアス、且つ短編集の体裁を取っていたのに対し、本作はどちらかというとリラックスしたムードで、全体が一つの長編小説となっている。
椎名誠はこの世界が大好きで「銀天公社の偽月」「埠頭三角暗闇市場」「ひとつ目女」「砲艦銀鼠号」「みるなの木」など、この世界観を利用して様々なSFを書いている。ただ、SFというジャンル自体が極めてマイナーな事と、椎名SFファンの絶対数が(たぶん)多くない事から、知らない人の方が多いと思う。マイナー≠下らない、ではないのだが、マニアックである事は確かだ。
そういう意味では、私はずっとこの世界を追いかけているので、微妙なニュアンスの違いが分かる。頂点はやはり「武装島田倉庫」として、それと比べると、異体進化した独自生物の名前などは面影があるが、物語の切れはなく、ずっと緩い雰囲気で進んで行く。人は余り死なないし、大人の男の命のやり取りもない。
どちらかというと少年漫画に近く、椎名誠も恐らくかなり楽しみながらこの小説を書いただろう事が分かる。作中に登場するSF用語は、バリバリの最先端SFシーンから見れば既に時代遅れなのかもしれないが、私もその道には疎いのでよくわからない。正直に言って、宇宙エレベーターやカーボンナノチューブなのはちょっと無理してる感を感じる。
「武装島田倉庫」の魅力は、崩壊した世界でもめげずに生きる男たちの生き様だったのだが、普通の冒険物になっているのが、残念と言えば残念だ。ただ、これまでの作品と比べれば、ずっとのびのびと書かれていて、ここまでついて来たファンは退屈はしないだろう。ただ、ここから読み始めて面白いかどうかは疑問だ。
奇怪なキャラクターや気持ち悪い生物は多数登場するが、ホラーと言える程恐怖要素はない。ただ、想像すると相当気味が悪いシーンもあるので、多少はホラー要素有りとは言える。
全体的には、楽しいSFアドベンチャー小説だが、まずは上記の「武装島田倉庫」を読んでから、読まれる方がいいだろう。個人的には「アド・バード (Ama)」を彷彿とさせるあるキャラクターにニヤリとした。老境に入った作者だが、まだまだ遊び心は忘れていないようだ。
(きうら)