- 読書メモ(031)
- 人生の指針となりうるかもしれない20の短篇
- SFとファンタジーと文学の融合
- おススメ度:★★★☆☆
昨年亡くなったアーシュラ・K・ル=グウィン(Le-Guin、1929-2018)は、今年が生誕90周年にあたるよう。ちょっと調べたら、去年はゲド戦記の第一作目「影との戦い」発表の50周年で、今年は「闇の左手」発表から50周年。どーでもいいけど、Le-Guinの日本語表記を統一してほしい。
さて、本書『コンパス・ローズ』は短篇集で、20の作品が収められている。SFを基調としつつも、そこにディストピアものや、ファンタジーやホラー要素の加わったものや、完全に文学作品としか言いようのないものなどが含まれて、決して単調な作品集ではない。小説の可能性を追い求めた短篇集。なんとなく、語られている世界への没入が試される作品群ではないかとも思う。
以下に、各短篇の感想を含む、おおまかな紹介。
SFという視点では、「目の変質」や「欲望の通路」などといった作品がそうなのだと、一読したら思えるのだが、単純にはそうとれないところもある。たとえば、「“ダーブのカダン”星に不時着した宇宙飛行士の最初の報告」なんかは、SFっぽくもあるものの地球の訪問記であり文明論でもある。「ニュー・アトランティス」は、近未来の統制的な管理社会を描いたディストピアものでありながら、またSF的な別視点も兼ね備えている。「欲望の通路」なんかは、地球から三十一光年離れた星のことでありながら、ホラー要素を含む人類学者の探検記のようにも読めないことはない。
また、読んでいて、主客顛倒のような気分が味わえるものがある。「バラの日記」なんかでは医者と患者とが顛倒するし、「船内通信器(イントラコム)」では、宇宙船内での船員たちのエイリアンをめぐる会話が、とんでもないところへ落ち着く。また「迷路」では、語り手は小動物か何かだと思って読んでいると、訳者あとがきではそれが違うことと示されている。著者の意図としてはそのまま読めばいいと分かる。「スール」では、女性の南極探検隊が、実は男性のそれよりも先行していたことが示されて、男性の論理をなかば揶揄的に、なかば寛容的に顛倒している。
言語や非言語によるコミュニケーションを描きだしたものも印象的。「アカシヤの種子に残された文章の書き手」では、動物たちの言語について語られるとともに、植物たちの非言語的コミュニケーション手段について語られる。「欲望の通路」では、異星での異星人たちの言語が、地球のものと構造的に類似した部分があるとされているのがおもしろい。
神話をモチーフにしたようなのもある。「白いロバ」や、「グイランのハープ」や、「ザ・ワイフス・ストーリー」で描かれる変身譚が、そう思わせる。
最後に文学としての短篇について。「北方線の二度の遅れ」や「マルフア郡」といったのがそう。この二つに共通する喪失の予感にあふれたかんじがよい。よい短篇だと思う。
これら以外にも、面白い短篇があるけど、これで終わります。SFを、少し不思議なものとして読むとおもしろかった。
(成城比丘太郎)