- 怪女系の和製ホラー
- どうも貞子っぽい
- オチがない
- おススメ度:★☆☆☆☆
作者の乙一氏の過去作はそれなりに楽しめた記憶があったが、本書は全くダメ。ホラー好きでも読まない方がいいと言える支離滅裂な内容なのだ。
基本はシンプルで、目玉が異様に大きい怪女(?)シライサンに呪われると、目玉を破裂させられて死ぬ。この呪いはシライサンの短い怪談を聞くだけで伝染する。とにかく、話を聞いただけで、次々眼球が破裂して人が死んでいく。周りの人には見えないので心不全として処理される。しかし、死んだ友人、あるいは弟の死の真相を追って若い二人が調査に乗り出すが、彼らも呪われる。
という内容が全てである。シライサンの背景として、過去、元寇などを調伏した山の一族なども語られるが、これが圧倒的に情報不足で、そこからいきなり現代に甦ってシライサンが人を殺しまくる理由が分からない。オチに何かあるかと期待したが、何となく仄めかすだけで何も落としてくれない。というか合理的な解説を投げたように思えた。つまり真相がない。
呪いの伝播の方式も簡単すぎる。怪談を聞くか読むだけである。最後半はそのせいでネットに拡散して人が次々死ぬが「これはギャグなのか」と思って読んでいた。今の時代、動画にでも投稿されたらすごい数の人が死ぬことになる。シライサンは繁忙期のサンタクロース並みに忙しくなり、殺人が追いつかない。しかも彼女にはターゲット一人を殺すのに3日かけるというルーティンがある。休みなく働いても一年で121人が限界で、それまでに呪われた高齢者が勝手に死んだりしたらどうするのか。
整理すると、目に見えない禍々しい女の怪物によって残酷に人が殺されるという光景はある。それに抵抗する若者が出てくる。真相を調べる中年ライターも出てくる。ただ、最後まで読んでも、肝心のシライサンがそれ程までに情熱を持って殺しまくる理由が不明だ。なぜなら名前を知ってるだけの接点しかない。出自に壮大な怨念があれば納得できるが、その部分も曖昧で原因なのかどうかは分からない。
確かにシライサンのイメージは強烈で、登場の仕方やその前振り、ビジュアルはいいと思う。ただ、そこからしっかりした設定をせずに長編小説を創ることには無理がある。登場人物が死ぬ・死なないにドラマはあるが、根幹がそれなのでどうしても安っぽくなる。特別な嫌悪感もなく、どんでん返しもなく、ぷつりと切れる物語に、なんとなく首を傾げながら本を閉じた。
ウイルスのように感染する呪いというのはリングで散々やったネタで、後発の本作の方が工夫がないのはどうか。その設定の甘さゆえ、風呂敷を広げようとしただけ、という作品になってしまった。こんなに何が書きたかったのかよく分からないお話も久しぶりだ。
このテキストを書きつつ、結局、何も理解できていない。シライサン、最後まで読んだから私にもくるのだろうか。来ないだろうな。