- 2017年の記事とごちゃまぜで紹介
- これが正しい「暴力」だ
- ディズニーが販売しているのが一番笑えるところ
- おススメ度:★★★★★
前回「パラサイト 半地下の家族」を腐したが、ビジュアル的には遥かに危険なこの作品の方が、奇妙にスカッとしているのは人間の悪意のベクトルが違うからだと思う。パラサイト~は明らかに秩序社会や弱者を敵対視し、社会の分断を批判するふりをして礼賛している。対して本作はかなりアカラサマに軍隊や政府を讃えつつ、本気で馬鹿にしているのがよく分かる。何が監督のポール・ヴァーホーベンを突き動かしているのか分からないが、ここまで崇高な理想を誰にも勧められない下品なビジュアルで映画化してしまう才能は、同じ領域のタランティーノが絶賛するのも無理はない。ちなみに崇高に見えるだけでそんなことは考えてないと確信してる(本人が何と言ってもだ)。
アニメばかりで恐縮だが、近年ヒットした鬼滅や呪術、エヴァンゲリオンなども、暴力を通じて人間性の聖なる部分を問うという作風だった。私が感じている違和感はまさにそこで、暴力は暴力ではないのかと思う。そこに愛情や友情、他者を思いやる気持ちは割合でいえばかなり少ない、のではないだろうか。本来「ハイジ」のような作品こそ、愛情を表現していたはずだが、どこかでそのアンチテーゼが主流になって浸透してしまった。そんな感慨を覚える。
本作が痛快なのは、そんな逆転現象とは無縁で、本当に暴力を暴力として描いていることだろう。同じく、気持ち悪い性的なメタファーなども全くなく、性的なものは性的なものとして表現されている。ヴァーホーベン監督は単に誰も見たことがない人体破壊映像やエロ画像を撮りたかっただけで、そこに思想的なものは全くない。正義は暴力の口実に過ぎず、実際もその通りなので、正視に耐えない残酷映像がまるで壮大なファールボールみたいに呆れを通り越して笑えてくるのだ(詳細は過去レビュー参照)。
思えば出世作のロボコップも徹底的に捻くれた作品だった。ヒーロー映画をネガで撮影したら出来上がるような、そんなブラックな核がスタイリッシュなビジュアルにコーティングされていて、噛むと本当の味が分かる「噛まないで飲み込んでください」というドラッグのような作品になっている。わかるかなぁ、わかんないだろうなぁ(という古いギャグ)。
そういう意味ではパラサイト含め私が嫌いな映画も同じ文脈なのだろうが、結論のたった一点だけが違う。「暴力を描きました。性的なものも描きました」までは同じ。
でも、私は間違ってないですよね?
その問いかけが嫌なんだ。そんなこと知らねえよ、というのが本音だし、それがヴァーホーベン流の作劇の痛快さに通じるだろう。だって、首が飛んだり腕が飛んだりしている絵の後で「私は人間の正しさを信じてます」とか言われてもやっぱり嘘だろ、と。昔見た初代「ゴジラ」も暴力そのものだが、ゴジラは本当に暴力でしかなかったし、日本を救った芹沢博士は片思いの女と恋敵にその行為を憐れまれて死んでしまうのだ。そこが残酷だし、カッコよかったし、元気になれた。
何でもかんでも批判したいわけではないのだが、過激な描写が先にあって全てが肯定されてしまうことに、モヤモヤとした疑義がある。面白いのは認めるけど、私が本当に納得できるのはこんな作風だ。最低映画を決める「ラジー賞」の授賞式に史上初めて監督として出席した伝説があるヴァーホーベン。自らの映画がどう批評されても、笑顔でコメントを残せるクリエイター魂。自分が撃った弾が誰に当たっても文句は言わないという姿勢。
そう、銃弾を放っているのだ。堂々として硝煙の煙を吹け。
言いたいのはそれだけだ。明日もいい日でありますように。
(2022/きうら)
以下、2017の感想。無意識に描いたが、デステニーやハイジを引き合いに出していて俺が書いた文章だとはっきり自覚した。
のっけから申し訳ないが、タイトル通りこれは「宇宙の戦士」のレビューではなく、それを「原作」としたスターシップトゥルーパーズのレビューである。「怖い本」の趣旨からすると反するが、やはり、この大傑作を紹介せざるを得ない。
前にも書いたが、監督のポール・ヴァーホーベン監督は、オランダが誇る「変態紳士」である。変態にも色いろ種類がある。ロリコン始め、熟女から尻好き、果ては「パソコンのマウスフェチ」まで、フェティシズムの世界は広大だ。人間には必ず醜い部分があって、それを否定するつもりはない。むしろ私は「変態」賛美派と言ってもいい。しかし、その中でも「紳士」を名乗っていいのは、絶対に他人に迷惑を掛けないタイプの人種を指す。現実に誰かを傷つけたりするのは論外だ。それは「外道」と呼ぶ。
そして、ポール・ヴァーホーベン監督は「映画」の世界で、そのエロ・グロ嗜好を極めてカッコよく且つエンターテイメント化できる奇跡の監督である。よって彼は「変態紳士」として世界中の映画ファンの尊敬および侮蔑を集める存在だ。私の知る限り、ティム・バートン監督やギレルモ・デル・トロ監督と比べても、引けを取らない超一流の「頭のおかしい」監督だと思う。
前置きが長くなったが、宇宙の戦士のあらすじは、装着することで凄まじい力を発揮するパワードスーツを着た主人公が、機動歩兵として異星人の惑星へ奇襲攻撃をかける話だ。過酷な経験を通して、主人公は精神的・肉体的に成長をしてベテラン軍人へと成長していく硬派なSF……という、あらすじを全く無視してやりたい放題やったのがこのスターシップトゥルーパーズだ。
そもそも肝心のパワードスーツが出てこない。予算の結果というがそれは嘘だ。絶対に監督がやりたいことじゃなかっただけだ。その結果、ビバリーヒルズ物語もかくやという青臭い青春ストーリーと、敵の昆虫型宇宙人に虐殺されるスプラッターSFと、エロ要素満載のブラックジョークを混ぜた何だかよく分からない滅茶苦茶なシロモノが出来上がった。ハインラインが映画を観て激怒したとか何とか聞いたことがあるが、それは良く分かる。これは「アルプスの少女ハイジ」を「死霊のはらわた」風にアレンジしたようなものだからだ。しかし、困ったことにこれが面白いのだ。
人間が残酷に死ぬシーンはほとんどの人は嫌いなはず。しかし、ここまで吹っ切れると逆に笑えて来る。死ぬのが当たり前なんだから、残酷さを感じる暇がない。というかスカッとする。ここまで、人間の残虐性を「爽やかに」表現できるのは、天才の所業としか言いようがない。とにかく意味もなく人が死ぬ。ヒロインがゲロを吐く。脳みそが吹っ飛ぶ。胴体が千切れる。敵の大ボスが性器の形をしている……等々、その異常さを挙げると枚挙にいとまがない。
ここまで読んで「嫌だわ」と思った方は正常だ。観ない方がいい。そうでない人は、絶対にこの映画を観るべきだ。理由は三つある。
1.笑うしかない残虐描写の連続。しかし、全然怖くない。むしろアツイ。
2.無名の役者を使ってまで、お金を掛けたCG。今見ても通用する無駄に凝った仕様。
3.男女混合のシャワーシーンがあるのだが、女性の役者が脱ぐのを嫌がったところ「俺が見本を見せる」と言って自ら脱いだ監督が撮った(らしい)。ただ本人が脱ぎたいだけだと思うが、その「心の籠った変態描写」は本物だ。
以上、10回程度見直した私が断言するが、一般的な女性、子供、残酷シーンが嫌いな方、エロ要素が苦手、デート用の映画として、ファミリーで鑑賞する、親友に薦めるなどの観かたは絶対にやめた方がいい。間違いなく「引かれる」。だまって楽しく「ズートピア」や「モアナ」を観ればいいのだ。
さあ、ここまで読んで、且つまだ、この映画を観たことがないというあなた。今すぐ何でもいいので、この映画を観るしかない。「ロボコップ」の股間の膨らみ具合について、デザイナーと本気で大喧嘩したという素敵な監督の絢爛豪華なスプラッター世界が手招きしている。ちなみに、今からもう一回観るつもりだ。
映画の評価は偉大な原作に敬意を表し★4としたが、個人的な評価は……推して知るべし。
(2017/きうら)