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★★★☆☆

スティーブ・ジョブス Ⅰ/Ⅱ(ウォルター・アイザックソン (著)/井口耕二 (翻訳))

投稿日:

  • 名言集ではない
  • テクノロジと家族がテーマ
  • 愛憎も半ばを過ぎて
  • おススメ度:★★★☆☆

本書をiPhone14 ProのアプリのKindle電子書籍版で最後まで読んだ。そこには私が知っているスティーブ・ジョブズ像に加え、未知のエピソードが無数にあったが、元々のイメージは全く変わらなかった。天才であり暴君であるぶっ飛んだ完璧主義者のテクノロジスト。この最新のiPhoneの感想をぜひ聞きたいと思った。

私は人生で3回Apple製品を積極的に求めている。

1
1990年代後半。細かい経緯は忘れたが、私は二十歳前後にペンタレットを使う目的でMacintoshを買った。しかし、あまりに使いにくいので、すぐに売るか捨てるかして、Macのことは直ぐに忘れた。今にして思えばもったいない衝動買いだった。非常に印象の悪いコンピュータだったという思い出しかない。同時期に使っていたのがPC-9800のモノクロノートなのでかなりのオーパーツだったはずなのだが。

2
2002年の初代iPodのセカンドモデル。その頃使っていたMDの編集のしにくさに発狂しそうだったので、私はWindowsで使えるようなった途端、この製品を迷わず買った。まさに世界が転換するような衝撃だった。CDをリッピングし1,000曲を持ち歩く快適さに酔った。もう元には戻れない。そういう時代の気風を感じた。そのリッピングも昨日、家族に頼まれて久しぶりに行ったが、そもそも操作方法を忘れかけていたほどだ。

3
2009年発売のiPhone3GS。発売日に買った。私はその頃、携帯に強烈な不満があった。当時隆盛を極めていたガラケーのiモードに代表される擬似インターネットだ。このシステムの開発者は今でも持て囃されてるいるが、私は違う。この欠陥システムのお陰で日本はモバイル分野でのインターネットに乗り遅れたと思っている。その閉塞状態を破ったのがiPhone。まさにこれだと思った。GPS地図の便利さも知った。解像度が今ひとつでネットは見にくかったが、絶対にガラケーは滅びると思った。私が製品名ではなく、スティーブ・ジョブズの名前を知ったのはこの時だった。

本書はそのスティーブ・ジョブズの誕生から世を去るるまでの人生を、本人、同僚、ライバル、家族へのインタビュー、その他の膨大な資料からまとめられている。そのため相当に長い。だからこの感想も長い。

内容は養子として育った幼少期から、天才エンジニアのウォズニアックと出会ってパーソナルコンピュータを世に出し、MacintoshでGUIに革命を起こした青年期。その性格が災いして自分で作った会社から追い出され、ピクサーで成功するまでの中期、再びAppleのCEOに帰り咲き、暴君ぶりを発揮してiPod、iTunes、iPad、Apple Store、iPhoneと次々とヒットを生み出す成熟期、そして膵臓癌に斃れる晩年までの大小さまざまなエピソードが丁寧に描かれている。ジョブズ自身の企画らしいが、自分を神格化せず、悪いところも全部書いて欲しいとう趣旨に従って、本当に悪口(欠点)も書かれている。

彼が禅にハマったりベジタリアンなのは知っていたが、若い頃にLSDをキメまくって、最後までそれを否定してないことにまず驚いた。ひょっとしたら自分が間違っていてLSDは麻薬ではないのかも?と思って調べてしまった。

LSDを使用すると幻覚、幻聴、時間の感覚の欠如等、強烈な幻覚が現れます。特に幻視作用が強くほんのわずかな量だけで、物の形が変形、巨体化して見えたり、色とりどりの光が見えたりする状態が8〜12時間続きます。また、乱用を続けると、長期にわたって精神分裂等の精神障害をきたすこともあります。
(熊本県ホームページより抜粋)

完全にアウトじゃないか(もちろん法的にも)。おクスリについては色々調べので、ヘロインや覚醒剤、アルコールと比較して依存度は低いとはいえ、人間をダメにする可能性を上げるヤツなのは間違いない。本書を読んで危惧するのは私のようにLSDが合法ドラッグだと思い込まないかという事だ。ソースが日本の飛ばし記事なら鼻で笑うがジョブズが言うとマズイと思う。

これ以外にも若者時代のジョブズには悪癖が多くて、車にナンバープレートをつけないとか、彼女を妊娠させても子どもを認知しないとか、ベジタリアンなら風呂に入らなくても清潔だとか、晩年のクールなイメージからは想像できない自己中心主義だ(本人が認めてる)。ただ、そういうネガティヴなエピソードがあるので、後々の成功にも納得できる。

一言で言えばクリエイティブな独裁者だ。彼の感情次第で仲間も裏切るし(本人的には常に正義)、自分が認めない人間は容赦なく攻撃するし、社員ならクビにする。ジョブズの「現実歪曲フィールド」と表現されているが、彼の主観でありとあらゆるものを捻じ曲げてしまうと言う意味だ。肯定的な場合、相手の潜在能力を引き出して才能を開花させたり、敵対する相手を味方にしてしまう。ネガティヴに振れると、朝に否定したことを夕方に肯定したり、他人のアイデアを自分の手柄にするなど枚挙にいとまがない。

正直に言ってジョブズ時代のAppleはブラック企業だと思う。やっていることはそこら辺の成り上がり企業の社長と同じ。同時に世界のコンシューマー向けエレクトロニクスの最先端を突っ走る企業であった点が、ただのブラック企業とは違う点だ。スケールが桁違い。
スタンフォード大学での伝説のスピーチも、本書を読むとより一層意味が分かる。名言とは、屈折した失敗ばかりの日々の積み重ねによって出来ていることに気づける。

「Stay hungry, stay foolish」

自分で作った会社を追い出された実感だったのだろう。
本書で最もエキサイティングなのは、彼が渡り合う相手が、ビル・ゲイツを始め、GoogleのCEOやDisneyの責任者、AdobeやHP、SONYなど、最大級に豪華な点である。そのスタートは本当に実家のガレージからだ。

特にビル・ゲイツとは、お互いの資質を認めつつ、最も嫌っている競争相手として悪口合戦をしているのが面白い。お互い無名時代からの知り合いとは言え、シリコンバレーの最大伝説の人間を相手にしてもスタイルは変えず「お前は間違っている」「お前はバカだ」と言い続けるのは狂人一歩手前。そのやり方を人生を通してほとんど変えることなく、今も世界の一流企業の一つであるAppleを残したのは偉業だろう。あるいは、そうでなければできないことなのかも知れない。その性格で癌の初期治療にも失敗しているのも定めだろう。

彼は誰よりも魅力的に振る舞うことと、最も冷酷な判断を下すことを同時に行えた。また、レーザービームに例えられるように一つのことに熱中すると他が見えなくなる。基本的にはワーカホリックだった。

資質としてはエレクトロニクスや文学、タイポグラフィなどにも詳しいが、ジョブズはいわゆる単一分野のスペシャリストではない。その交差点で手腕を発揮した稀代のジェネラリストであろう。ウォズニアックは間違いなく桁違いの天才だが、彼だけではAppleは成立しなかったとウォズ本人も本書で語っている。

2011年に亡くなったジョブズは、製品で言えばiPhone4sが最後(実質的にはiPhone4)だ。後任のティム・クックは天才では無いけれど、今日までAppleを崩壊させなかったのは凄いことだろう。
Windowsを仕事にしている私にとって、長らくモバイルデバイス以外のApple製品には興味が無かったが、昨年、MacBook Air(M1)を買ったのを思い出し、最近はMacでこのブログも更新している。約25年連れ添ったWindowsのクセは簡単には抜けないが、Macの面白さも見えてきた。不自由だが、堅牢なのだ。

パーソナルコンピュータにおいて、デバイスとソフトウェアの両方を完全に支配するか、それともオープンにするか。

これも本書のメインテーマでもある。ジョブズはもちろん支配側だ。インタビュアーの結論は「どちらも正しい」だが、ジョブズ亡き後、やはり独裁的な世界にはそれを支配する天才が必要では無いかと思っている。今のAppleは堅牢ではあるけれど、跳躍がない。少しずつ退屈な企業になりつつある。それは仕方がないことだ。

一番印象的なエピソードは、ビル・ゲイツとの最後の対決。

その日、ビル・ゲイツはふとした思いで、癌の末期症状で療養していたジョブズを訪ねる。アポなしだが、キッチンのドアから入り、ジョブズのパートナーからOKをもらう。そこで、最後の会話が始まる。感動的なのは、そこで二人がお互いのわだかまりを解いて3時間も語り合い、相手を称えることだ。さらに素晴らしいのは、最後に皮肉を交換した事だ。

「スティーブが舵を握っているあいだは統合アプローチがうまくいきましたが、将来的に勝ち続けられるとはかぎりません」 ジョブズも、最後に、ゲイツに対する警告を付け加えずにはいられなかった。「もちろん、彼の分断モデルは成功したさ。でも、本当にすごい製品は作れなかった。そういう問題があるんだ。大きな問題だよ。少なくとも長い目で見るとね」

これがパーソナルコンピュータ界の巨人同士の別れの言葉だ。お互いにリスペクトしても決して分かり合えない。だからこそ、ある意味世界はエキサイティングなのだ。実際にはどちらの言葉も当を得ていると思う。つまり本書が繰り返し示しているように、正しいことは一つではない。

スティーブ・ジョブズに似た日本のクリエイターとして思い浮かべるのはやはり宮崎駿監督だ。日本が誇る不世出のアニメーター。その才能と努力に裏打ちされた荒れ狂う天才も御歳81歳。恐らくキャリア最後の長編映画の仕上げに取り掛かっているはずだ。

対してスティーブ・ジョブズは享年56歳。彼が生きていた別世界の2022のiPhoneがどうなっていたか、それを考えるなというのは無理なことだ。このiPhone14 Proの出っ張ったカメラを見て叩き割っていても不思議ではない。本書に少し不満があるとすればiPhone以降の製品についてはあまり技術的な描写が少ないことだろうか。

ただ56歳は私からすればすぐ近くだ。今も彼の言葉を考える。

「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしたことを本当にやりたいだろうか」

今は割とそう思う日が多い。このブログも含め。

(きうら)


-★★★☆☆
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