★★★☆☆

ゾンビの小哲学(マキシム・クロンブ、武田宙也・福田安佐子〔訳〕/人文書院)~読書メモ(49)

投稿日:2019年8月12日 更新日:

  • 読書メモ(49)
  • 現代社会や現代人を表すゾンビのイメージ
  • 記事の後半は、アニメコンテンツからみるゾンビ性
  • おススメ度:★★★☆☆

【本書についての大雑把なまとめ感想】

本書は、西洋世界から見た「ゾンビ」のことを書いたもの。フロイトやラカンといった精神分析から、(私のよく知らない)ユベルマンに加え、バフチンやベンヤミン、クリステヴァやフーコーやドゥルーズやアガンベンやジジェクまでといった現代思想に依拠しつつ、現代社会にとってゾンビのイメージが人間にどのようにあらわれるのかを解いたもの。また、ゾンビのイメージによって人間を問い直す契機になるようなメタファーとしてそれを位置づけようとする小論集。

副題は「ホラーを通していかに思考するか」というもので、何を「いかに思考するか」の、その何かとは、主に人間観のありよう、とくに現代の人間の身体観がゾンビというイメージを通して、作品などにどのように描かれているのかというもの。たとえば本書で述べられる、ゾンビが人間の「分身」ということは、それは人間との類似性をゾンビにもたらし、そうして人間の戯画化でありつつ「人間の地位の失墜」を考えることにつながる。

「ゾンビとは、生者と死者のあいだの紐帯をむすびなおすために戻ってくるものではない。もっと容赦ないことに、それが群衆を呼び集めるのは、枠組みを奪われ、生者を食らうために戻ってくる死の想像上の表象としてである」(本書p103)

ゾンビが「怪物」として捉えられるのは、「グロテスクで、滑稽で、愉快な形象」であるそれに、「分身」に伴う不気味さがあるから。そのことは、ゾンビが「生者を待ち構える死を体現」するからである。ゾンビに何らかのおぞましさを感じるのは、ゾンビが、限りなく人間に似ていながらもそうではないという「不気味の谷」に近い感情を喚起するからだろうか。

「開かれていると同時に限界のない身体、個性を持たないと同時に絶え間なく変形する身体、われわれの文化で通用している個性の価値を転倒させるような形象」(本書p110)

ゾンビの定義しがたさ、というかそのイメージの多義性を思わせる部分は、ゾンビイメージの捉え難さにあるように思える。そのことにより、ゾンビものはあらゆるコンテンツで増殖しているのだろうか。そうやって変形していくゾンビイメージが、人間の文化価値を「転倒」させるある眩暈を起こさせるように思われる。

ほんでもって、ゾンビが体現する「滅亡(アポカリプス)」が何を指すのか。「滅亡は、現代の主体が抱える不安やメディアの悲観主義(ペシミズム)を解消するものであるよう」と本書ではいわれるが、これは私にはわからない。

ゾンビのイメージはメタファーとして、現代社会に浸みこんでいる。はじめはハイチのゾンビ(アメリカなどにおける奴隷の表象)からはじまり、吸血鬼などとの合流を経て多義化し、映画や小説や漫画をはじめとする様々なコンテンツにおよんでいる。さらにいうと、サバゲーの「ゾンビ行為」や昆虫の「ゾンビパラサイト」といった、死者の復活や「死んでいるように見える生者(生きているように見える死者)」といったゾンビ性のイメージが、ホラーとか関係ない分野に及んでいる。

まとめとしては、はっきりいうとゾンビってよく分からないとわかりました。

【アニメ作品に見るゾンビ(性)】

2019年春から放送している『鬼滅の刃』に出てくる「鬼」とは、ゾンビのようでもあり吸血鬼のような要素も持ちあわせているように思えます。さらにいうと、「鬼」は人を食らうのでグールの要素もあるかもしれません。何らかの感染源により「鬼」になるようなのですが、これはよく分かりません。主人公の妹は夜のうちだけしか行動できずに、しかも日光に当たれない、というのは吸血鬼のようであります。それから、蜘蛛の怪物に操られる人たちの様子を見ると、いわゆる「ゾンビパラサイト」のようでもあります。このアニメについて詳しく調べていませんが、「鬼」とはいろんなものの合成でできている存在のように感じます。

2018年に本放送されていた『ゾンビランドサガ』は、佐賀県を舞台に、よみがえった死者たちがアイドル化して(もともとアイドルの人もいるが)、佐賀県を盛り上げるという内容のアニメです。基本的にはコメディなのですが、生前の生と、ゾンビ化した生とが対比されることで、それぞれの彼女たちの生きざま(死にざま)が輝いて見えるという内容です。ゾンビとアイドルと佐賀とを織り交ぜた内容です。このアニメで描かれるゾンビとしての登場人物は、時にゾンビ特有(?)の愚鈍さをみせたり、時にゾンビらしからぬ(?)素早さや人間らしさをみせたりと、そのメリハリによってなかなかのエンターテインメント作品に仕上がっています。

『甲鉄城のカバネリ』に出てくる「カバネ」とは、なんらかのウイルスに感染された人間が、人間としての意識を失ってただ単に人間を襲うだけになった怪物のことです。この「カバネ」とはどう見てもゾンビの一形態でしょう。ここで面白いのは、そのウイルスに感染しても何らかの措置を施すことで、「カバネリ」という、人間とカバネのあいだのどっちつかずの存在に、主人公がなることでしょう。この「カバネリ」という人間でも怪物でもない存在とは、『鬼滅の刃』と同じようなものなのでしょう。こういった、ゾンビの因子(?)を受け継ぎつつも完全なゾンビ化を免れるという設定は、ゾンビものだけでなく色んなジャンルに見られると思います。

『がっこうぐらし!』というアニメは、見た目は萌えアニメで、そこにゾンビものを足した感じの作品です。かわいい女子高生たちが、世界中に蔓延するゾンビ化現象のもとで一見ほのぼのとした生活を送りながらも、その世界に立ち向かうという内容です。ここで起こったゾンビ化現象も何らかのウイルス感染か何かなのでしょう。ここら辺はよくあるゾンビものを踏襲しているようです。個人的には、現在(2019年夏)放送中の、『ソウナンですか?』というアニメとの形式的な類似性を思いつきました。『ソウナンですか?』は、かわいらしい女子高生たちが飛行機事故で遭難し、無人島にたどりついてからの、ガチサバイバルアニメです。かわいい系でありつつもガチの命のやりとりが、ひとつの衝撃?をもたらしてくれます。ゾンビもの以上に。

2010年にアニメが本放送された『学園黙示録ハイスクールオブザデッド』は、ゾンビのような奴らに襲われた世界を、何人かの高校生たちが生き抜く話です。これは完全にパニックホラーといえるもので、ここにはあまり他の作品にはない結構なエロ要素があります。この部分には、ゾンビ(死-タナトス)と人間(生-エロス)という、なんとも通俗的な解釈をしたくなるようなものがあります。まあ単純に、エロ要素がありますよ、ってなだけですが。
このアニメが他と違うと思うのは、異変(ゾンビ化のような現象)が、世界的な突発的同時多発ゾンビ化現象と見えるところでしょう。原作とか読んでいないし、他のゾンビ作品も詳しくないので分りませんが、この作品では、世界中のあらゆる地域で同時に、人間たちがゾンビのような存在へと変貌をとげるのです。全く同一時刻にそのようなことが起こるのは、なんらかの時限的な要素がその現象を起こした原因に組み込まれていなければならないと思います。これが表わすものは何かということは、色々と考えられますが、興味深いところです。

ゾンビらしきものが出てこなくても、ゾンビ性が感じられる作品はあります。『進撃の巨人』の初期の、小型の巨人から私が受ける印象は、あきらかにゾンビ化した人間のイメージです。巨人とはもともと人間であるのですが、そいつらの動きや顔つきなどは、どう見ても「死んでいるように見える生者」のイメージです。生きて動いているはずなのに死んでいるように見えるのは、そいつらが元人間であるだけではなくて、人間に似たものが何らかの「死」の形象をまとった存在として臨在しているように見えるからです。そこから、現代社会の現代人の何らかの表象を読み取ることは簡単ですが、そんなことはあんま面白くないような気がする。

『魔法少女まどか☆マギカ』は、私が説明するまでもない作品ですので、概要は書きません。この作品に出てくる(初期の)魔法少女は、「生きているように見える死者」というゾンビ性をあらわしています。彼女たちは、魔法少女になることで人間としての生そのものを捨てなければならなくなります。しかも、「生きているように見える死者」を自覚しつつ、駆逐するべき魔女そのものに依存しなければ魔法少女として生きていけないという「出口なし」の存在なのです。これはゾンビになるよりキツイんじゃないでしょうか。

その他にも、Fate/zero(Amazon)にゾンビらしき存在が出てきたりと、アニメ作品にはゾンビ性が感じられるものが色々あるように思います。ゾンビとはもうすでに、萌えなどと同じように、表現のレベルではおなじみの設定なんでしょう。

(成城比丘太郎)



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