3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

ディケンズ短篇集(ディケンズ、小池滋・石塚裕子〔訳〕/岩波文庫)

投稿日:2018年6月7日 更新日:

  • ちょっと暗めの短篇集。
  • ホラーや幻想小説要素も混じっています。
  • 不安や、幻想に捉われた登場人物の心理は現代人向きかも。
  • おススメ度:★★★★☆

ディケンズは、19世紀イギリスの作家です。有名なので、ここで何か説明することもないでしょう。ディケンズは、長編小説(や中編小説)で有名なうえに、かなりの量の短篇小説ものこしたそうです。本書は、その中から次のような特徴のあるものを選んで集めたようです(「解説」より)。

一.超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在していること。
二.ミステリー的要素が強いこと。
三.人間の異常心理の追究。

以上の三つが混在している作品を収録していて、さらに文学的価値が高いものを選んだようです。
では、以下に簡単ながら、私の備忘録的なものを書きます。

『墓掘り男をさらった鬼の話』の、「鬼」は「Goblin」のことです。クリスマスの頃に話された怪談のことが、書かれています。まあまあファンタスティック。
『旅商人の話』は、老人になった椅子と、べらべら話す旅商人の話で、コミカルです。
『奇妙な依頼人の話』は、復讐にもえる男の話ですが、おそろしいほどに暗く陰惨な挿話です。どうやら、ディケンズの(父親に関する)実体験が影響しているようです。これは、なかなかのおそろしさ。

『狂人の手記』は、妻を狂気においやり死なせた男の話。そして、自らも狂った男のことです。「倒叙型ミステリー小説」と呼ばれてるジャンルの「先駆的」なものになるようです。
『グロッグヴィッヒの男爵』は、結婚して妻の尻にしかれる男爵の話。貧しくなって自殺しようとする男爵のもとに、絶望と自殺の守り神があらわれるのですが。この男爵の名前は、英語の意味的に「吹きだす」くらいに、おもしろいそうです。
『チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書』は、継子を殺した男の告白書。「これも倒叙型ミステリーの一つであり、劇的独白の形をとっている」ようです。

『ある自虐者の物語』は、女性の自虐的な独白的物語。「作中人物の一人ミス・ウェイドの手記であり、孤独な魂の劇的独白である」のです。ちょっと個人的にはイヤな話でした。
『追いつめられて』は、保険金殺人をたくらむ男を追い詰めていくさまがおもしろい。復讐の話。「エラリー・クイーンが二十世紀になってから発掘し」、自らの雑誌に掲載して、「本格的推理小説の傑作と絶賛してから、かなり知られるようになった」一編のようです。
『子守女の話』は、子守女が「ぼく」にする、不思議で怖い話の数々。「子供時代の思い出を語ったもの」として読めるそうですが、「ホラーとコミックの混ざった」もので、どこか民話的なかんじもしました。

『信号手』は、集中で一番有名で怖い話です。信号手が幽霊に事故の前兆を見て不安になり、最後になって「私」の言葉が彼の身に呼び寄せるものとは……。
『ジョージ・シルヴァーマンの釈明』は、孤独な男の釈明が書かれています。彼は日陰からこっそり見ているような人物です。かなり数奇な人生のようにも見えるが、60歳になってからの思い出話と読んでみると、なんだかどうでもいい話に思えるのはなぜだろう。

(成城比丘太郎)


-★★★★☆
-, , , , ,

執筆者:

関連記事

見えるもの見えざるもの(E・F・ベンスン、山田蘭〔訳〕/ナイトランド叢書)

科学者(や学者然とした者たち)の分析がおもしろい 降霊会や、幽霊や、雪男(怪物)や、吸血鬼など様々な題材 死ぬことがそれほど怖くないと錯覚できるホラー おススメ度:★★★★☆ この前『塔の中の部屋』を …

Q&A(恩田陸/幻冬社)

タイトル通り「質問」と「答え」だけで構成される小説 正体不明の大惨事が多数の視点から描かれる オチは弱いがゾッとする恐怖を味わえる おススメ度:★★★★☆ 作者のデビュー作「六番目の小夜子」に続いての …

2010年代アニメまとめ(7)

「2015年作品」を中心に 「過激なアニメ」とは 公共放送で放送できないアニメについて おすすめ度:★★★★☆ 【日本文化の核心】 『日本文化の核心』(松岡正剛・著、講談社現代新書)を読みました。この …

天帝妖狐(乙一/集英社文庫)

現代的なホラーと哀愁を感じるホラー2本 前者はユーモアを、後者は悲しみを巧みに表現 よくできた中編ホラーだと思う おススメ度:★★★★☆ 色んなホラーを読んできた。著者の作品も「平面いぬ。」「ZOO〈 …

神聖喜劇 第一巻(大西巨人/光文社文庫)

1942年対馬要塞に配属された一兵卒の戦い とにかく学問でもって他を圧倒するという主人公東堂 古今東西の哲学者・文学者の著作の的確で膨大な引用 おススメ度:★★★★☆(あるいは保留) 本ブログの共同執 …

アーカイブ