★★★☆☆

ハイダウェイ(ディーン・R. クーンツ (著), 松本 剛史 (翻訳)/新潮文庫)

投稿日:2019年11月11日 更新日:

  • 刺激的な出だし、エキセントリックな構想
  • 魅力的な悪役ではあるのだが
  • 最後の「やっつけまとめて感」がすごい

飽き飽きするほど聞かされたフレーズ「キングと並び称される」モダンホラーの巨匠クーンツの長編小説。文庫本の6ptほどの文字で559Pという相当な長さ。本の裏に「日夜をわかたぬ悪夢との闘いの果てに、この世のものならぬ“悪”の隠れ家(ハイダウェイ)での対決が…」などと煽られていたので、壮大な世界を想像していたら、結構こじんまりしていた。

出だしは快調だと思う。息子を無くして失意から抜け出せない若い夫婦、思いもかけない交通事故――崖下へのダイビング――そして主人公ハッチ蘇生への流れ。この辺のアクションシーンを、息をつかせぬ勢いで押し切ってしまうあたりはさすがにクーンツ。よく考えるとものすごく単純な内容だが、ディティールに血肉を与えることで、読者の興味を引き付けてくる。単純なサスペンスものとして冒頭は楽しめるのではないだろうか。

悪役の造形はけっこう気に入っている。最初、スティーブン・キングが良くやるスーパーナチュラル的な悪魔かと思って読んでいたが、そうではないことが徐々に分かってくる。彼のバックボーンは物語の核心に触れるので敢えて書かないが、持っている特殊能力は、闇夜での異常な視力のみなのである。あとは人並みのサイコパス(?)程度の能力しかない。サタニズムに染まったちょっと危ない野郎だ。

本裏の情報から想像していた「蘇生した夫が殺人鬼に変わる」というストーリーラインではなく、そこには一ひねり加えられている。それがいいのか悪いのか分からないが、主人公のハッチは、非の打ち所がない善人で、その妻も高名な画家というセレブ夫婦。この辺の設定にちょっと引っかかるものがある。彼らが養子(女の子)をもらい受けるところも一つのハイライトではあるが、この家族愛的要素もメインの暴力的な描写とは余りそぐわない気がした。

確かに守らないといけないものがある、という弱点を設けるのは常套手段だが、悪役に対して主人公が戦闘的でないので、何だか良く分からなくなってしまった。もともと、弱いのに弱点が増えても……という気がした。

話の骨子だけなら、それこそ、指輪物語並にシンプルなものである。善と悪の交錯というテーマがあるのだが、この二人が交わるあたりから、お話が急に雑になっていくような気がする。悪はやはり謎めいていないといけないし、善人にも何かしらの業が無ければ深みがない。

そんなわけで、長い読書であったが、結論から述べれば、非常に限られた人物たちによる一種の家族ものという読み方もできるホラーだ。もちろん、残虐な描写も出てくるが、この点に関して、クーンツはそれほど熱心ではない。性的要素にに関しては更に希薄だ。ここはストイックで良いとは重いのだが……。古い小説だが、警察があんまり無能すぎるとも思う。

私が言うのもなんだが、もう少しプロットを整理してまとめれば、スッキリ読みやすい佳作サスペンス・ホラーになっていたのではないか。これが作風と言われればそれまでだが。

ただ、悪役「ヴァサゴ」はカッコいいので、興味があればご一読を。

(きうら)


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