★★★☆☆

ビッグドライバー(スティーヴン・キング(著)/ 高橋恭美子、風間賢二 (訳))

投稿日:2019年9月2日 更新日:

  • レイプされた女性の復習劇
  • と、夫の連続猟奇殺人に気付いた妻の苦悩
  • キング節たっぷり、いい意味で不愉快
  • オススメ度:★★★☆☆

稀代のモダンホラー作家・スティーヴン・キングの作品を一つも読まれていないなら、最初の一冊にこの本は勧めない。ただ、いくつかの有名な作品(「IT」や「グリーン・マイル」、「刑務所のリタヘイワース(ショーシャンクの空にの原作)」)をお読みなら、順当に楽しめる一冊ではないだろうか?

キングは(敢えてキングと書く)素晴らしく博識だ。作家としての基礎的な素養はもちろん、世の中の下劣なものに関して実に詳しい。というか、彼は我々が日常と割り切って捨てている毎日を事細かに観察している。そしてその無数のパーツから何が不愉快かを実に的確に現している。

例えば、タイトルの「ビッグドライバー」のキーとなるワードはこんな感じだ。

あなたが好きになれば相手も好きになってくれる

主人公が何度もこのセリフを反芻するが、もちろん、反語的な意味で「あなたが嫌いになれば、相手も嫌ってくれる」ということになる。キングはどこかでこのフレーズを見て、吐き気がしたのだろう。実に効果的にこの言葉の持つ厭らしさを利用している。

ビッグドライバーの粗筋は単純だ。アラフォーの独身女性作家が講演会に呼ばれる。その帰りにレイプに遭う。そして、復讐を計画する……。本の裏表紙に書いてある通りの内容だ。

私は普段、小説家が主人公の作品は「手抜き」と見て余り好かないが、キングはその辺は承知していて、色々趣向を凝らしている。この作家(テス)は中堅どころの癖のない推理小説作家で、きちんと代表作のシリーズも作品内に表現されている、もっとも、直接的に描写することはせず、あたかもその作品が存在するかのようにセリフに混ぜてくる。また、作家という立場を利用し、多重人格気味に話す。結果、復讐劇は単独でありながら、複数の登場人物が登場し、飽きさせないようにしている。

この作品はホラーや推理ものというより、サスペンスに位置すると思う。テスのスリリングな行動をひたすらに追い続ける。後半にはどんでん返しもあり、その読ませる力はさすが。ただ、不満もある。それは後述したい。

もう一つの作品「素晴らしき結婚生活」(このタイトルもシニカルな反語だ)は「ビッグドライバー」と視点が反転する。夫がBTK(緊縛・拷問・殺人の頭文字)殺人鬼であることを結婚27年目に知ってしまった妻の苦悩と顛末が描かれる。こちらもある意味、主人公のダーシーは被害者だが、レイプ殺人の加害者側からの恐怖を描く。

正直に言ってありふれた設定なのだが、キングが書くとやはり一味違う。上記の生活の中の不快感を存分に描き、殺人鬼の夫ボブのキャラクターを複雑に造詣する。ただ、テーマはやはり妻であるダーシーの心理描写で、こちらも二人の子供の事情や夫の過去の優しさに苦悩し、同時に恐怖する。作中のセリフで夫のボブを「ゾッとするやつ」と語られるが、作品全体もそんなイメージだ。ただ、結末部分の静かな描写に味がある。この話をこういう風に締めくくれるのは、経験のなせる技か。

先ほどの不満点は両作品に共通する。これは現代劇なのでGoogleの検索が盛んに用いられるのだが、作品が発表された2010年からはIT(IoT)も随分と進化してしまった。なまじ最新技術が駆使されているので、我々は過去にタイムスリップして読まなければならない。これはキングの所為ではないかも知れないが、街中に監視カメラのある現代では両話とも全く違った内容にしないといけないだろう。そういう意味で、少し違和感があるのは確かだ。

ただ、読み始めたら止まらない展開の早さは、長編には無いもので、キング好きならお勧めできる。また、超常現象が一切出てこないのも特徴的(だと思って頂けると思う)。冒頭とは矛盾するが、キング初心者でも読みやすいのでは無いだろうか。

どちらにしても、両方とも女性の戦いを描く小説だが、主役が女性とは思えない、いつものキングらしさ満載で、あらゆる意味でベテラン作家の作品だなぁと、私は感じた。

(きうら)


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