★★★☆☆

ブルックリンの少女 (ギヨーム ミュッソ (著), 吉田恒雄 (翻訳)/集英社文庫)

投稿日:2019年1月7日 更新日:

  • 恋人の衝撃の告白から始まるスピード感のあるサスペンス
  • 連続少女監禁殺害事件が核となっている
  • 前半は素晴らしい出来、後半は賛否の分かれるところ
  • おススメ度:★★★☆☆

結婚を決めた美しい恋人との運命の夜に、恋人が差し出したのはiPadに保存されたあるおぞましい写真だった。そこからハイスピードで展開するドラマは、まるでサスペンスの教科書のようにスリリング。

こういうタイプの小説が好きな方なら、文句なく勧められる。翻訳物だが、特に違和感は感じない(むしろ読みやすい)。もし、興味があるなら、一切の紹介文を読まずに読み始めることを推奨したい。サスペンスとはそういうもので、我々は本の帯にある紹介文からも話のオチを推理してしまわずにはいられないのだ。

(紹介の抜粋・意識的に一部を改編した)小説家のラファエルは、婚約者のアンナと南フランスで休暇を楽しんでいた。彼女の過去を問い詰めると衝撃的な光景の写真を差し出した。そして直後にアンナは……。友人の元警部、マルクと共にラファエルは、事件を追い始める。彼女の秘められた秘密とは何か。フランスの大ベストセラーミステリー。

最初の三分の一は、最高によくできた部分だと思う。細かな伏線をちりばめつつ、地に足の着いた捜査で、閉じた謎の扉を開いていく様は、サスペンス(人によってはミステリ)特有の楽しみだ。人間ドラマもしっかりと描かれているとは思うが、それよりもスピード感のある展開に引き込まれる。途中で二手に分かれて、片方が真実にたどり着くともう一方を少し巻き戻してはじめ、そこで真実に到達すると、前の続きが始める……よくある構成だが、物語上どうしても必要な退屈なシーンをそうと感じさせずに読ませるには非常に有効だと思う。

なので、この本は徹底的に娯楽に徹している一冊である。社会問題や人間の愛憎なども取り込んでいるが、全ては読者を楽しませるためのギミックとして作用するようにできている。なので、ケチな出し惜しみはしないし、章ごとの小さなオチは大盤振る舞い、大落ちで落とした後に、ちゃんとオマケをつけることも忘れていない。

この本を読んでいて可笑しかったのは、舞台はパリからニューヨークなどを行き来するのだが、非常に現代的なガジェットが多用されているところだ。パソコン、Google、GPS、スマホなどを駆使して主人公は真実へと至る。パソコンのパスワード突破などは、たぶん作者の趣味だろうが、ディティールとしては面白い。とにかく、これらのアイテムのせいで、非常に現代的な感じがする。まあ、私が古い作品ばかりを読んでいた、ということはあるのだが……。

上記にもあるようにこれは著者はフランス人。当然、フランスの時事問題がちりばめられている。私でもある程度、理解できる内容なので、フランスの政治などに興味が無くてもそこそこ楽しめるだろう。ただ、やはり本国人ならもっと楽しめたのではないかという気はする。謎の相棒であるマルクもいい味を出している。人物造形について、著者が作中の小説家の言葉として語っている興味深い一説を引用する。

「ゴースト、つまり幽霊。戯曲論の教授たちが用いる言葉で、転換をもたらす出来事、登場人物に現在も取り付いて離れない、過去に根差した精神の動揺を指しているんだ」
「当人の弱点、アキレス腱というわけだな」
「ある意味でそうだ。登場人物の歴史におけるひとつの衝撃、抑制、そのパーソナリティーの主要因となる秘密、精神状態、内面性、さらに多くの行動も含まれる」(146P)

これは物書きであれば、納得できる一説ではなかろうか。小説を書く立場になると、多かれ少なかれ人物の創造を行う。そこで過去を考えるのは重要だ。その中でも、起点となるポイントを作れ、というアドバイスに聞こえた。

この小説はこの原則を正確に守っているのだが、実は主人公のラファエルだけ、それが薄い。それが不満と言えば不満だ。それにやはり、小説家が小説家を主人公にするのは「手抜きだ」という偏見があって、そこは割り引いた。

さて、物語後半は「より壮大に」展開していくが、その前の事件がその分軽くなってしまった。この小説には猟奇性・サスペンス・ミステリ・人間ドラマと色んな要素があるが、十分な猟奇趣味を発揮できる舞台があるにも関わらず、そこはスルーされている。サスペンスも行き過ぎて、いささか大げさになったと個人的には思う。

全体的には最初に書いた通り良くできた秀作だと思う。文庫で1000円越えの値段は少々高いが、それだけの価値はあるだろう。特にサスペンス好きの方に。

(きうら)

-★★★☆☆
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