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★★★★☆

ホラー初めは、ラヴクラフトで~『狂気の山脈にて』

投稿日:2021年1月15日 更新日:

  • 読書メモ(66)
  • 色んな作品が味わえる
  • とにかく「狂気の山脈にて」を読んでください
  • オススメ度:★★★★☆

【かなり長いまえがき(読み飛ばし可です)】

新年というと、初詣や書き初めや寝正月や食い正月などなさった方も多いでしょうが、私の今年の正月は、初詣はちょっと延期して2月に行くことにしました。といっても、いつも何も願わないんだすけど。「よっ、また来たで」と挨拶して散歩して帰るだけです。もし、クトゥルー神をまつる所があったら、なにかを願うかもしれない(暗黒微笑)。

それから、食い物も適当に済ませました。いつもなら雑煮には田舎の岩海苔をいれるのですが、それも手に入れられずにほぼ餅だけ。そんなこんなで5日になり、競馬の金杯はカスッただけでしたが、見事万葉Sをゲットできたので乾杯といきました。ありがとうレイホーロマンス、去年今年とどれだけお世話になったことやら。今年もよろしくお願いします(基本ハンデ戦だけだけど)。

乾杯というと、今年の成人式でも少しお暴れ大暴れがあったとききました。昔の成人式は今日(1月15日)が固定だったのですが、昔はそんなに酒飲んで大暴れはなかったような気がする。自分たちが高校生のときはすでに、ビール瓶や一升瓶がフレンズだったので、わざわざ成人式の日に飲む必要もなかったような。

さて、年明けから緊急変態ならぬ緊急事態宣言で、なにかと不自由なことや、出来ないことも多くなったと思いますけど、いつかそのリベンジを果たすの精神で、皆様も乗り切ってください。私も予定していたことが出来なくなりました(たいしたことではないですが)。いつかそのうち明けない夜が明けるのを待ちつつ、色褪せない記憶を肴に酔えなくはない酒を呑んでクダを巻き、そろそろ明けそうな夜の白々とした空が見えはじめたら、冷めないうちに珈琲をすすると、未来は止まらないことが実感されるでしょう。

そんな私は、年初のホラーとして、ラヴクラフトの本を手に取り、目覚めないクトゥルーはないと思いながら戦慄の読書に耽ろうと思いました。てなわけで、本書の簡単な紹介をします。

【作品について】

H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて』(南條竹則・訳、新潮文庫)

収録作品は、

「ランドルフ・カーターの陳述」
「ピックマンのモデル」
「エーリッヒ・ツァンの音楽」
「猟犬」
「ダゴン」
「祝祭」
「狂気の山脈にて」
「時間からの影」

昨年末に出版された本。これらのなかで、やはり重要なのは「狂気の山脈にて」でしょう。久し振りに読み返しました。南極へと地質調査に訪れた探検家たちが踏みいった山脈にてなにと遭遇したのかを楽しみながら読むとおもろいです。

この前読んだ『極北』は北方の話でしたが、これは南極でのお話。「狂気の山脈」で遭遇した、人類の誕生以前からこの地球に根付いていた存在が明るみになります。一行が南極で探索を開始し、その山脈へ足を踏み入れた運命の日は1月22日ということですが、南半球では夏にあたるためそれほどの極寒ではないのでしょう。久し振りの再読だったためか、恐怖はあまり感じませんでした。それよりも、文章(原文)がけっこう理性的に思えるのが不思議でした。狂気に触れると、かえって理性的に振る舞うこともあるのでしょうか。それはつまり、この書き手(語り手)がすでに、何者かの影響下にあるのだからかもしれない(という妄想)。

まあ、文庫の新訳で「狂気の山脈にて」を読めるだけでもありがたいです。興味があるなら、前作の『インスマスの影』(新潮文庫)とともに、どうぞ読んでみてください。

【クトゥルーを面白く読むには】

ラヴクラフトならびにクトゥルー神話ものを面白く読むには、やはり(?)文章だけで想像を働かせることがまずは重要でしょうか。最近はマンガ化もされてますが、それを読む前に小説を読む方をお薦めしときます。

それと、ちょっとしたモンスターとの遭遇を妄想するとクトゥルー神話ものの楽しみが倍増するかもしれません。ドラクエのスライムとかと実際にエンカウントしたとしたら、たぶん自分はそれだけで腰抜かすと思います(はぐれメタルなら目を輝かすでしょうが)。まあスライムは他のRPGとかでは強敵な面もありますが。スライムだけでも遭遇を想像しただけで身震いするのに、クトゥルーものに出てくるちょっとした存在なんかに出くわした日には、発狂どころではないでしょう。そう考えると、クトゥルーものの読み方が分かるのではないでしょうか。スライムにピンとこなければ、道端で不意にファンタジー映画のモンスターに遭遇したらどうなるかを想像してもいいかもしれません。

【アウトサイダー】

コリン・ウィルソンが述べたアウトサイダーに、ラヴクラフトは入ってなかった(はず)でしたが、明らかにラヴクラフトはアウトサイダー的人物でしょう。20世紀に影響を及ぼした人物には、マルクス、フロイト、ニーチェなどがいますが、コリン・ウィルソンの本ではアウトサイダーとしてはニーチェをあげていました。ニーチェ思想とくにルサンチマンの感染力はすごくて、自分はいまだにその引力から抜け出せません。

それと類似的に、現代ホラーに対してラヴクラフトのもつ影響は凄いものがあると思います。この影響は直接的間接的にかなりのものがあるのではないでしょうか。スティーヴン・キングといった後継者はもとより、直接作品に接しなかった作家にも、クトゥルーものは多大な感染力を与えていると思います。この影響力はおそらく不可視のものなのでしょう。ラヴクラフトなどつまらん、とのたまう人も何らかの間接的な影響を受けているかもしれません。ホラーという枠を越えて、ラヴクラフトを見直すのもおもろいかも知れません。

【まとめ】

余談的なまとめ。ラヴクラフトおよびクトゥルーものは、抽象的な思考をうながすものであればあるほど理解しにくいものかもしれませんが、実はその高い抽象度こそがこうして世界中にクトゥルーものを蔓延させる契機になったかもしれないと思うと、これから先ホラー的な創作物には、ゾンビとともにクトゥルー神話に関する要素はますます抜きがたいものになるでしょう。クトゥルーを否定するのではなくまずは受け入れないと、その引力からは脱出できないように思います。ニーチェの思想がそうであるように。そんな気がします。

(成城比丘太郎)


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