★★★★☆

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(字幕版)

投稿日:2018年11月16日 更新日:

  • 世界侵略という名の明るい社会派ドキュメント
  • 楽しく観られるが耳が痛い
  • いつものマイケル・ムーアの作風
  • おススメ度:★★★★☆

マイケル・ムーア監督と言えば、最新作「華氏119」が最近公開された。どういう作風の映画化は一応参考になる。

ムーア監督の作品を観たのは、ボウリング・フォー・コロンバイン(Ama)が最初だったかも。当時はこの高校生による銃乱射事件が日米問わず話題になっており(「エレファント」という映画もヒットしていた)とにかく、真面目な話題に突撃取材で切り込む、というのがムーア監督のスタイルが新鮮だった。それも、基本的には自分自身で取材するのが身上で「アポなし取材」という言葉がまだ使われて時代の映画界での嚆矢だったんじゃないかな。

さて、本作品も題名こそ過激だが、内容的にはリベラルそのものの内容。ムーア監督が主に欧州・白人が多数を占める国に取材に赴き、アメリカと比べてその国の素晴らしい文化・社会制度のアイデアを「盗んで」来るというもの。侵略というのはちょっと捻ったギャグで、本当は、自らアメリカという国を侵犯されに行くという内容だ。

労働環境・教育問題・医療制度・女性の社会進出など、代表的な社会問題を扱っていて、アメリカと比べると信じられないほど充実した各制度を紹介していくという流れ。こう書くと非常に小難しそうだが、遠慮というものを全くせずに取材しまくっているので、笑いながら見ることが出来る。真面目に取材をしていたら、逆に笑えて来たというべきか。アメリカ批判のシーンでは、ニュースなどの映像がコラージュされているのも特徴。

例えば、最初のイタリアへの取材では、有給休暇と昼休みについて取材されている。イタリアでは通常の休暇以外に、年間28日間の連続休暇(バカンス用)がある。つまり、まるまる一ヵ月は有給休暇として休めるらしい。しかも、有給を消化しなかった場合、翌年に持ち越せるらしく、取材では80日分余っていると言っていた。もちろん、これを行使するのは自由で、難しい休暇申請なども必要ない。なぜなら、それが彼らの文化だからだ。同じく、昼休みも2時間あり、みな家に帰って家族とゆっくりと食事をとる。ムーア監督は「有給? それマジで有給?」と繰り返していたが、日本もまったく同じ状況なので笑えない。

この点は気になってネットで調べてみたのだが、やはりだいたい休みは多いらしく、土日は休みで基本8時間労働、祝日と有給を合わせると140日を超える。実に一年の40%近くは休んでいる計算になる。対する日本も、完全週休二日制と祝祭日を足すと120日程度、有給はMAX20日くらいなので、制度としてはほぼ互角なのだが、私は病気以外で有休をとっている人はちょっとしか知らない(私の友人は2週間休んで遊んでいたが)。簡単に言えば、20日以上イタリアの方が休暇が多いことになる。ちなみに、アメリカでは労働組合が無ければ「ゼロ」であると言って、イタリア人が唖然としている様子が面白かった。

とはいえ、日本の怖い話をすると、120日休めれば今の社会では十分上々の方で、年間休日105日というところも多い。これは週休二日制と言って、1ヵ月間に一回だけでも連休があると良しとする規定があるためだ。完全週休二日制とはだいぶ違う。105日と言えば、月8~9日休めるが、祝祭日を飛ばすことも多い。さらに、有給の取得など夢のまた夢である。

最近就職活動をしたので知っているのだが、もっと恐ろしい話をすると、「みなし残業制度」と言って、残業代を先に手当てに含めている会社も多い。私は支払いが24万くらいの正社員の募集に応募したのだが「みなし残業52時間を含む」とあって丁重に辞退した。みなし残業=事実上の無制限サービス残業である。本映画とは直接無関係だが、就職の際はどうぞご注意を。

さて、映画はさらにフランスの豪華な給食の紹介(デザートも含めてコース料理で4品!)、大学教育無償の国、女性議員が半数を占めるアイスランドなども紹介される。詳細は見てのお楽しみということだが「どの国にもいいところはあるよね」と割り切るか「そのいいところを何とか取り入れられないか」と、考えるかで、映画の評価も変わるだろう。ちなみに、いろんな国で「その制度のアイデアはアメリカからもらった」という台詞があるのも皮肉なことだった。

基本楽しい映画だが、素直に笑えないのは、国民皆保険制度や給食制度などを除けば、まんま日本の問題であることも多数見られた。もちろん、アメリカにも日本にもイタリアやフランスにない長所も多いだろう。しかし、例えば上記のように日本の労働環境はお世辞にも良好とはいいがたい。

中小企業など年間休日96日というところもある。1週間の法定労働時間は40時間(一日8時間)なのだが、時間外労働協定(36協定)という抜け道があるので、事実上守られているところはないとは言わないが、少ないだろう。いわゆるブラック企業は、いくらでも合法的に誕生することができるのである。労働生産性云々は置いておくとしても、もうちょっと効率的に働くことと、過剰なサービスを止めにすることを考えてみてもいいのではないだろうか? 要は便利にしすぎた結果、その便利さを享受できない社会という矛盾を起こしていると思える。

ムーア監督は最新作「華氏911」の来日インタビューで、「日本もミニトランプにはなって欲しくない」という趣旨の発言をしていた。はっきり言えば、リベラルすぎる側面はあるものの、日本もアメリカに習って閉鎖的な国策がじわじわ浸透している気がする。私も某国の日本蔑視は正直言って腹立たしい思いをしているが、それをストレスのはけ口にしているのもどうかと思う。

もっと真剣に不幸せの根源はどこにあるのか考えろ、というのがこの映画(というかマイケル・ムーア監督)の主張だろう。その辺、安易な何かでごまかされていないか、私たちも考えてみる必要がある……と、柄にもなく考えた。

(きうら)


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