3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

評価不能

ミミズからの伝言 (田中啓文/角川ホラー文庫)

投稿日:2018年12月10日 更新日:

  • とにかく下品なホラー短編集
  • 久しぶりに読んで気持ち悪くなった
  • しかし、しかし酷い作風だ!
  • おススメ(度):しない

本当に久しぶりに小説を読んで後悔した。とにかく、何がなんでも下ネタに持っていくその姿勢は、ソローキンの「」を思い出したが、あの作品のような奇怪な味わいがあるわけでもなく、ひたすら下品。

いや、オゲレツと言ってしまおう。思わず閲覧注意のタグをつけるほどの内容なので、ほとんどの読者の方にとって絶対に読まない方がいいと断言できる。この先の紹介も読まない方がいいと思う。決して煽っている訳ではないのだ。

とりあえず、短編のタイトルを列挙してみる。

  1. ミミズからの伝言
  2. 見るなの本
  3. 兎肉
  4. 秋子とアキヒコ
  5. 牡蠣喰う客
  6. 赤ちゃんはまだ?
  7. 糞臭の村

この目次を見た時嫌な予感はした。だいたい、自分の小説に糞臭の村などとタイトルをつけるのはどうかと思った。

もちろん、本当にどうかしていた。

全編を貫くのは、熱い信念を持って描かれる下ネタ(主に排泄物系)とダジャレ(親父ギャグ)。この二つの最悪の融合によって、正視に堪えない情景が次々と繰り出される。有体に言えば、小学校低学年並みのギャグセンスと下ネタ。もう全編これだけ。紹介も投げ出したいところだが、義務感でそれぞれの概要を書いてみる。

ミミズからの伝言 あるOLが元同僚に復讐する話(という体裁)。ほとんど全ては電車の中でのメールの送信という形で繰り広げられる。色々あるが、とにかく元同僚の女のせいで、ミミズの養殖をするようになった女が送り付けてくるメール。しかし、徐々に世界は崩壊する。そして、衝撃的(?)なエンディングが待っている。はじめ、これは酷いと思ったが、実はこの程度で済んでマシだと本の最後まで読んで気づいた。しかし油断してはいけない。

気がついたときには、コンベアのうえのミミズを箸でぐちゅぐちゅに突き刺してた。ヤバイヤバイ。商売もんだからねー。

と、一文だけ引用して警告として置きたい。これで一番「穏当な」表現だ。

見るなの本 いじめを受けた少年が、図書館で見つけた伝説の人食い本。彼は厳しい現実にのまれたくなくて、その本を開いてしまう。そこは想像を絶する世界である。この作品のポイントは下ネタよりもダジャレ。このラストで脱力させる作風は何なのか? 怒っていいのか、脱力すればいいのか、即座に判断が下せなかった。

ダジャレは、ほんとカンベンしてください。

そう思って読んだ兎肉は、故事を元ネタに書いているのだ、これは輪をかけてダジャレ。というかダジャレにもなってない。悪ふざけ・悪乗りのレベル。話は神様に善行を認めてみようと奮闘する兎と狐と猿のはなし。いちいち話の語尾に「~ぴょん」「~コン」「~キャ」とつけるセンスに、全力で脱力する。

リアリティ。俺の小説にそんなものは必要ないという作家としての矜持を感じる。

秋子とアキヒコ 実はこれが一番、普通の作品。しかし、馬脚が見える二重人格物で、必死にミスリードしようとしている作者には悪いが、ミスリードのたびに「絶対違うだろ!」と突っ込みながら読む作品。一応、ちゃんとした落ちはつくが、それでいいのか作者よ。まあいい、この作品だけならそこまで馬鹿にしなかった。

と思ったら牡蠣喰う客はSFだー! それも素人が思いつきで書いたような設定だー! しかも、グログロのスプラッタシーンの連続だー! もうやめて欲しい。これは気分が悪くなる。リアリティが欠損しているので、質の悪い悪夢のようだ。

赤ちゃんはまだ? ローズマリーの赤ちゃんなんかとは比べ物にならない程、直接的かつバカバカしいノリ。そして、ラスト。これはもう小説でも何でもない。駄文だ! こんな落ちで許されるか! いや、少し冷静になろう。

と思ってラストの糞臭の村を読んだ。考古学とエジプトをテーマにひたすら、糞、糞、糞の描写の雪崩うち。珍しくエロ描写にも力が入っている。伝奇ものらしいが、いや、違う。これはもっと別の何か良くないものだ。一応力を入れて書いたとなっているので、古事記まで引き出してくるのだが、無用の長物。要は「うんこ」が書きたかっただけじゃないか! ぁぁぁぁぁあ(心の声)

ラスト、必ず読者をがっかりさせるという点では、期待を裏切らない。しかし、食事中には絶対読めない内容。その発想の安直さ、執拗なグロ表現、力の抜ける落ち。どれをとっても、まともに食えない。

ちなみにご存知と思うが「ミミズの伝言」は「水からの伝言」という本のパロディであろう。元の本も水に良い言葉をかけるといい水になるという似非科学、冗談の部類の話だった。

どちらにしても、心の底からどうでもいい。

(きうら)

-評価不能
-, , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

神聖喜劇 第一巻(大西巨人/光文社文庫)

1942年対馬要塞に配属された一兵卒の戦い とにかく学問でもって他を圧倒するという主人公東堂 古今東西の哲学者・文学者の著作の的確で膨大な引用 おススメ度:★★★★☆(あるいは保留) 本ブログの共同執 …

本は、これから(池澤夏樹[編]/岩波新書) ~本の未来を巡るいくつかのお話

7年前に出版された、「本」についての短文集。 私が当時(2010年)考えたことを中心に。 電子書籍の未来については、きうら氏に。 おススメ度:特になし。 今回取り上げるこの本を2010年に読んで、私が …

君の名は。(新海誠/監督) ~今さら何を言うべきか

映画版の感想です 典型的なボーイズミーツガール うーむ、悩むなぁ おススメ度:分からん よく「勘が働く」というが、あれは自分の経験を無意識に脳が分析し、答えとしてアウトプットしていると思う。一見意外に …

神のみぞ知るセカイ(若木民喜/少年サンデーコミックス) ~お正月限定企画「怖くない」本(成城比丘太郎)

ギャルゲーを何よりも愛する主人公。 ふたつの三角関係を含む、多角関係のラブコメ。 序盤は恋愛シミュレーションゲーム風、後半から世界の命運を決する戦いへ。 おススメ度:とくになし。 2018年最初の記事 …

小説を書いてみたりして

たまにはそんな夜もあるこっそりと告知一応ホラー要素はあるおススメ度:評価不能 日頃から人様の作品を躊躇なく批判している私ですが、流石に自分で書いたとなると、臆病になってこんな深夜にこっそり告知したりし …

アーカイブ