3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

ワルプルギスの夜(グスタフ・マイリンク、垂野創一郎[訳]/国書刊行会)

投稿日:2017年11月19日 更新日:

  • 長篇2本と、短篇・エッセイ各数篇。
  • 幻想的で、神秘主義的な作品群。
  • ユーモアのあるものもあります。
  • おススメ度:★★★☆☆

本書は、「マイリンク幻想小説集」と題された、マイリンクの長篇と短篇〔とエッセイ〕をあつめたものです。マイリンクというと『ゴーレム 』(白水uブックス/Ama)が有名です。私は『ゴーレム』だけ読んだ記憶があります(短篇については、読んだはずなのですが内容はおぼえていません)。『ゴーレム』を読んでいるときは、ずっと茫漠とした世界に包まれているような、霧か靄のなかを手探りですすむような、怖いというより何だか得体の知れない雰囲気を感じていました。

まず長篇の二つ。表題作の『ワルプルギスの夜』は、解説のことばをかりると、「終末感の色濃い作品で、若者が戦争に駆り出され閑散となった第一次大戦のプラハを舞台に、すでに生きる化石となった老貴族たちが各人各様に破滅していく様子が語られている」作品です。時代的には違いますが世紀末感があるようにも思いました。(おそらく違うでしょうが)「世紀末芸術」からの影響は何かしらあるのか、またはないのか。それは措いて、物語はズルチャドロという夢遊病者の闖入からはじまります。彼の名は<鏡>という意味をもっていて、また死者の様相をときに帯びてその身に不思議な変化をあらわし、彼を前にした人たちは<鏡>に映ったものを見るように、彼の中に「本人の自覚しない<わたし>」を見るのです。

もう一つの長篇である『白いドミニコ僧』は、一読してよく分からず、解説を読んでみても分からず、ただ最後の幻視ともいえるシーンは凄いと感じました。物語は、創作すること(小説を書くこと)の不可思議さを説くことからはじまり、わたし(=マイリンク)を創作に駆り立てる、いやわたしの手をとって物語をつむがせる「クリストファー・タウベンシュラーク」のことについて書かれます。物語の重点は、道教思想とキリスト(教)思想とが響きあうものとなっているところでしょうか。仙術の最終奥義である「尸解(しかい)」と、聖者になるということとが対比になっているのでしょうか。印象的なのは、後半で一気に時間が経過して、いろいろな状況が変化したところでしょうか。本作品は、正直にいって要再読作品です。

長篇に比べると、短篇とエッセイは非常に読みすすめやすいです。初期短篇は、頭にうかんだものがフラスコに具現化し何でも吸い込むブラックホールのようなものが現れる『黒い玉』を筆頭に、作風としては、隠れた何かを現出させようとするものや、何らかの夢遊状態にあったものが現実に覚めた後のそれとの折り合いに苦労するものなど、茫漠としたものが目立ちます。

後期短篇は三つ。『鏡像』……過去が現在に押し入って、鏡像のような世界が内省的に描かれた味わい深い一品。『白昼夢』……ある博士との会話をめぐる、「アルフレート・クビーン」との謎めいたやりとり。このクビーンは画家であり、『裏面』の作者のことでしょう。『時計作り』……祖父の持ち物であった時計をめぐる話。それを骨董屋は「<狂った人>」の作ったものと言いますが…。

エッセイはさらに面白いです。本当のことかどうか分からない不思議な体験談や、ちょっとした小話に、幻視にまつわる話にと楽しめるものばかりです。特に、『いかにしてわたしはプラハで黄金を作ろうとしたか』は、ユーモアたっぷりで笑えます。もう少しエッセイを読んでみたいです。

ボルヘスはマイリンクから影響を受けているようですが、マイリンクの短篇はボルヘスよりも分かりやすい部分があります。まあ、そんなに強くはおススメしませんが、図書館などで見かけた時はちょっとページをめくってみて下さい。短編・エッセイは簡単に読めますので。もしくは、一度『ゴーレム』を読んでみて面白ければ(怖ければ)、本書を手にとってみて下さい。

(成城比丘太郎)


ワルプルギスの夜 (マイリンク幻想小説集) [ グスタフ・マイリンク ]


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

オブ・ザ・ベースボール(円城塔/文春文庫)

一年に一回人が落ちてくる。それをバットで打ち返す人の話 不条理小説とも単純な人生の比喩とも取れる シャープな文章。怖くはないが少しだけグロイ所も おススメ度:★★★☆☆ 文學界新人賞受賞作、ということ …

椎名誠 超常小説ベストセレクション (椎名誠/角川文庫) ~全体の紹介と感想

椎名誠のもう一つの顔である異常小説作家としての短編集 SF、ファンタジー、ホラー、不条理の要素をごちゃまぜにした不思議な作風 落ちが投げっぱなしの場合もあるが、それがまた味。広くは薦めない。 おススメ …

事故物件7日間監視レポート(岩城裕明/角川ホラー文庫)

手堅い作りのJホラー タイトルまんまの内容 オチはイマイチ おススメ度:★★★☆☆ 為になる小説とそうでない小説は確かにある。その基準ははやり、大多数の人の評価だろう。そして、読みたい作品≠為になる作 …

セイレーンの懺悔(中山七里/小学館文庫)※軽いネタバレあり

マスコミの存在意義を正面から問う 猟奇的描写はかなり少ない 社会派小説に近い感覚 おススメ度:★★★☆☆ (前説) 明けましておめでとう、とはいうものの、昨日と今日に何の境界も感じられない。年々季節感 …

百器徒然袋 風 (京極夏彦/講談社文庫)

百鬼夜行シリーズの外伝・主要キャラの榎木津礼二郎が主人公 平凡な設計士・本島の視点で描かれる「ギャグ」ミステリー 本編を知っている読者「には」楽しく読めるだろう おススメ度:★★★☆☆ 「姑獲鳥の夏」 …

アーカイブ