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★★★☆☆

亡者の家 新装版 (福澤 徹三/光文社文庫) 〜結末のネタバレあり・約1000記事突破の話

投稿日:2023年2月21日 更新日:

  • 一昔前の消費者金融の話
  • 業界モノとしても読める
  • オチは賛否両論あるだろう
  • おススメ度:★★★☆☆

時は2005年付近。消費者金融の金利が年30%近くもあった時代の話。近いようで、もう結構昔の話なのかもしれない。その後、高金利は社会問題となってかなり抑制された。ただ、つい最近までは過払い金の請求という名目のグレーなビジネスが流行っていたし、お金に直接関わる仕事というものは何かと危ないイメージが多い。

本作は本当にわかりやすい内容だ。上記の時代に、中規模クラスの消費者金融に諸星という青年が就職する。これが完全にアウトな闇金融では無いところがポイントだ。人生まで破綻していないが、金にルーズな人々の様子がリアルで面白い。主人公も最初は「バイトよりマシ」程度の感覚で働き始めるので、自分に嫌悪感をもつ。ちなみに諸星は大学生の恋人がいる結構な隠れイケメン風。この辺の描写は過去に楽しんだ「黒い家(保険会社が舞台)」「悪い夏(生活保護がテーマ)」といった業界系のお話によく似ていて、過酷な現場で悪戦苦闘するという主人公と一緒にハラハラできる。

序盤は10-50万円程度が返済できないダメ人間とそれに対応するダメ社会人という構図になっている。消費者金融のティッシュ配りというのも最早懐かしい描写だ。そこからは大体の予想通りに段々とブラックな債権者と関わるようになり、主人公は雇用者からも顧客からも恨まれて抜き差しならない状況に陥る。このプロットは完全に予想通りなので、ディティールであるパチンコ狂いのおばちゃんや不気味な家に集金にいく様子、乱暴な上司とのやりとりが楽しむことになる。会話や描写は重くも軽くもなく、とても読みやすい。オチを予想しつつ、読むスタイルになった。

が、最後の数行で衝撃の事実が。という昭和のバラエティのCM前の煽りで恐縮だが、以下は高速あらすじ付きのネタバレになるので、ご注意を。興味が湧いた人はこの段階で買って読んでください。

(以下、核心的なネタバレあり)

冒頭で30万円を勢田という男に貸すのだが、案の定延滞する。その集金に入った諸星は儚そうに見える妻・由貴子に同情のような好意を持ち始めるあたりから、本当の事件がスタート。色々あるが、その人妻の高校生の娘が自殺。諸星はその第一発見者となる。次にバーで一緒に飲んで喧嘩をした先輩社員が原因不明の転落死をしたことを翌朝に知らされる。今度は最後の接触者となって警察ではかなり疑われるが、バーの店長の証言で解放される。

その頃から、何者かに後を着けられるようになる。これが勢田だとミスリードされるが、本当は諸星がうっかりと個人情報を漏らしたために、一家離散の憂き目に合ってしまう別の債権者(冒頭で先輩社員が半強制労働に仕立て上げた男)だ。

同時に由貴子には裏の顔があることがわかる。娘は実子ではなく、彼女自身は過去2回も離婚し、その原因が彼女自身の浪費癖によるものだということだった。つまり、この由貴子がこの小説における浪費=借金という真の敵であるかのように描かれる。しかし、これもミスリード。

再び色々あるが最終的に諸星は深夜の勢田家に乗り込む。この様子は「黒い家」のワンシーンのようだ。そこで唐突にクライマックスが訪れる。勢田は待っていたかのように穏やかに迎えるが、突然急変して暴力を振るう。さらに恋人(と気付かされる)の殺害予告を受ける。勢田は逃げ、何とか持ち直した諸星が改めて見ると、首が捻じれ曲がって死んでいる由貴子を発見。警察に電話をするものの、恋人を助けるために彼女に自分の部屋へ来るように命じる。二人は無事出会い、危機は去った。

疲れから眠ってしまう諸星だが刑事からの電話で覚醒する。そして告げられる真実は「勢田は1ヶ月前以上前に死んで、押し入れに入れられていた」ということだ。ここから諸星の映像として以下の光景がフラッシュバックする。

ビルから落ちる瞬間の、加納の驚愕に満ちた顔、首を絞めあげたときの、由貴子の苦悶する顔、そして高森の血にまみれた顔も。
それでようやく、わかった。

そのあとは7行で小説は唐突に終わる。さすがにこのオチは予想していなかった。ここまでは「人が怖い系のサスペンス・ホラー」だったのだが、急にサイコパス的な巻き戻しを食らったからだ。一瞬意味が分からなかったが、何度か該当箇所を読み返して見ると、やはり次の結論に辿り着く。

勢田と由貴子、先輩の加納を殺したのは主人公の諸星である。

ということは、勢田家に乗り込んだ部分からあとは妄想ということになる。警察の反応を仮に正とするなら、主人公には暴力の衝動があり、自動的に二重人格になって殺人者になっていたと思われる。

この結論はかなり荒っぽいし、基本的に三人称で書かれた小説なので、どこからが妄想なのかどうかがはっきり判別できない。最後の8行で反転させているが、その予兆はほとんどない。バーの店長が諸星を犯人と確信しているような描写があるが、それも疑いの域をでない。これでいいなら、最初から全部嘘でも構わないということになってしまう。

とはいえ、それほどアンフェアだとも思わなかった。諸星が借金の取り立て役として精神を病んでいく様子は丁寧に描かれていたからだ。どこかで現実と妄想が逆転したのかもしれないと、私はギリギリ納得した。ひょっとしたら、もっと高度な二段落ちなのかもしれないので、別の解釈を知っていたら反対に教えていただきたい。

以上「ラストに驚愕する」という意味では、大仰に振りかぶった大作家の作品より余程びっくりした。時代背景も違うのでそれほど勧めないが、そこそこ楽しめる娯楽ホラーあるいはサスペンス、ミステリだった。

(きうら)

<記事が1,000回超えた感想>

私が初めた最初の半年は別のブログも含めて毎日、後に成城氏が参加して、色々あって週に1回-2回の更新となって早6年半。元がいい加減な性格なので、ホラーサイトを目指していたが、だんだんと範囲が広くなり、全く関係ない記事も増えた。また、コメント欄を解放しているが実に3名の方にご意見を頂いただけという驚異的な状況だ。同時に決して荒れることもなく、こうして今に至っている。

読者の方には率直な感謝しかない。

怖いといえばコロナや地震、戦争の方がよっぽど怖い。物価高も怖いし、何なら老化も怖い(確実に私を殺す殺人鬼)。とはいえ怖がっていても明日も仕事である。納得はしていないがまあーー、

もう少し歩いてみよう。

ではまた。

(きうら)




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-★★★☆☆
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