★★★☆☆

再読の秋(成城比丘太郎のコラム-06)

投稿日:2018年10月29日 更新日:

  • 「コラム」という名の穴埋め企画(二度目)
  • 過去に読んだ本を再読する
  • 現在再読中の本について
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

「~の秋」というと、世間ではよく読書の秋とか言われたりしますが、真正の読書家(?)にとっては、一年中が読書の季節であるので、そういう人たちの頭に読書の秋が浮かぶことはとくにないでしょう(さらにいうと、ほぼ毎週が読書週間なのです)。とはいえ、この季節の長い夜が読書に最適であることもまた確かであるように思います。私的には、この秋から冬にかけての季節は再読するのにぴったりのような気がするのです。てなわけで、今回は再読した本や再読中の本について、思うがままに書きたいと思います。

【書物(データ)と部屋(スペース)があればどこでも図書館】

この前図書館に行ったら、アルベルト・マンゲル『図書館-愛書家の楽園』(野中邦子・訳、白水社)の新装版があったので借りてきて再読しました。なぜ、過去に出た同じ本を図書館が納入したのか分かりません。新装版刊行にあたり、著者名表記を「マングェル」から「マンゲル」に改めたので、図書館側が分からなかったということは、まずないでしょうが。

内容をほとんど覚えていなかったので、再読というよりほとんど新しく読むような新鮮さがありました。というか、おそらくあと数カ月もしたら今読み終わった新装版の内容も忘れてしまうでしょうね。まあ、手元にない本の内容はすぐに忘れてしまう傾向があるので仕方ないですが。それはなにも、私個人の問題だけではなくて、いい意味で、この本の中身は軽いのです(薄くはないですけど)。

本書には、書物を読むことや、それらを所蔵することに対するよろこびを再認識させるところがあって、うれしい。

「私が夢みていたのは、細長く、天井が低く、スタンドの明かりで机の上だけがぽっかりと明るく、周囲は薄闇に包まれて、外が夜だと思わせてくれるような書斎である。四角い部屋で、壁がたがいに反射し、左右に手を伸ばせばそこに本が感じられるのがいい。私が気まぐれに拾い読みするうちに、本は自由に結びつき、近くにあるもの同士がつながりはじめ、部屋のあちこちから呼びかわしあう。選ぶ書斎の形態によって、本を読むという習慣が促されるのだ」(p127)

上記引用のような環境は、大なり小なり読書家の置かれた状況そのものではないでしょうか。晩秋に向かう肌寒くなる空気に包まれた暗い部屋に入り、おもむろにカーテンを開けると、暗闇の中に孤島のように浮かぶ街灯の明かりが夜の空間に沈みこんでいるのが見えて、そこに伴うBGMとしては秋の虫声だけ。そしてカーテンを閉めるのです。またゆっくり部屋を点灯すると、はびこった周囲の本の列が目に入り、それらがこちらに倒れかかるようなイメージにとらわれるのです。虫の声は初秋より弱まったものの、未だ競いあっています。そこに人間は誰も存在していないかのように。そんな少し田舎の環境で本書を読んでいると、私は書物同士が交わしあうざわめきを心の中で結びつけながら、現在読んでいるものをそこに位置づけようとするのです。要は、「はやく、わたしも読んでくれー」という、本棚に眠る書物の声をきくのです(重症)。

「私は書庫の執筆用の一画で、よく音読することがある。ここなら誰にも聞かれないし、文章を心から味わうことができ、自分のものという感じが強まる」(p163)

私もたまに音読することがあります。難しくてよく分からない文章に出会うと、おもむろに辺りへ注意を払いながら、ボソボソと声に出すのです。そうすると、理解がはやまることがあります。以前読んだ詩に関する本には、現代詩の中には黙読するほうがよいものもあると書かれていましたが。

「ヴァールブルクの考えによれば、図書館とは、何よりもまず関連性の積み重ねであり、また関連性のそれぞれがさらに新たなイメージや文章の結びつきを生みだし、その関連性がついには読者を最初のページへと引き戻すのだった。ヴァールブルクにとって、図書館はつねに円環をなしていた」(p185)

これもまた、読書家にとっては実感していることではないでしょうか。なにも図書館に限りません。自らの本棚や、なによりこういった(サイバースペース上の)読書ブログなど(のつながり)が、書物という小宇宙による関連性のもとに、なんらかの円環的な構造をなしているのではないかと思うのです。

【再読した名作(あるいは初読)】

チョー久しぶりに、スティーヴンスン『宝島』(村上博基・訳、光文社古典新訳文庫)を読みました。というか、昔読んだのは児童向けのものだったので、きちんとしたものを読んだのはたぶん初めてです。児童向けのものがどうであったのかはすでに忘れましたが、この作品は大人が読んでも面白いということが分かりました。そして子どもでも十分楽しめるとも思いました。今まで、てっきり子ども向けだろうとあなどって(?)、大人になってから読まずにいたのがもったいない。

少年が中心にでてくるものの、結構剣呑な海洋冒険ものでした。というより、海賊的な連中との丁丁発止のやりとりがなかなかおそろしい。それに、船で宝島へ向かうわけなんですが、航海の描写より島についてからの方が長かったんですね。「破廉恥と虚偽と残虐行為」に焦点が当てられたといったかんじの冒険もので、去年読んだ『引き潮』を思わせるところもありました(あれよりかはマイルド?ですが)。最後はどことなく悲しいシーンもあり、またさわやかなラストでもあって、そこら辺がよかったです。

では、気になった一節を書きだしてみます。

「おれ[=イズリアル・ハンズという人物のこと]はこの三十年(略)七つの海を渡り、人並にいい目も悪い目もみたし、人並以上にいい目にも悪い目にもあった。凪もあった、時化もあった。食い物がなくなれば、切った張っただ。いろいろあった。だがな、いっとくが、いいことをしたからいい目にあったなんて話は、きいたこともねぇ。やられる前にやる――おれの流儀よ」(p276)

もちろん、「いいことをしたから」絶対に「いい目」にあうわけではないですが、「いいこと」をしたおかげで「いい目」にあうこともあるでしょう。本書を執筆したのが、丁度スティーヴンスン的に30くらいの歳だったので、何か彼自身の本音が見えたような気もします。とはいえ、個人的には「いいいこと」をしようが「いい目」をみることはなかなかなくて、「いいこと」と思えないようないことをする人間が、逆に「いい目」を見るように見えることはなくはないと、今なら言えます(子どもの時に読んでいたら、どう思っていただろうか)。だからといって、なにかよくないことをするつもりはないですが。しかし、「やられる前にやる」というのは、ある意味いいところを突いてくるなぁ、といったようにも思いますが。

【再読してみて面白かった、過去の名作】

『宝島』もそうですが、大人になってから改めて完訳版を読んでみておもしろかったというものは、いくつかあります。

・スウィフト『ガリヴァー旅行記』(岩波文庫(Ama)など)
・デフォー『ロビンソン・クルーソー』(集英社文庫(Ama)など)
・ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』(岩波文庫(Ama)など)
・同上『海底二万里』(Ama)

などありますが、ロビンソンは説教くさいところがあるし、地底旅行などは冗長な面もあるので、児童向けにリライトされたものは、それはそれでいいのでしょう。ちなみに、ロビンソンの後に読んだ『フライデーあるいは太平洋の冥界』(ミシェル・トゥルニエ(Ama))の詳しい内容は、もうすでに忘却の彼方なので、いかにロビンソンが名作かといったところでしょうか?

【再読中の名作】

現在再読中の名作があります。それは、名前だけは有名な、プルーストの失われた時を求めて(Ama)※1巻、です。若い時に井上究一郎訳で読んだのですが、最後の方は流し読みになってしまったので、ずっと消化不良の感が残っていました。それがあったので、十年くらい前から新訳が出はじめたので読みなおしています。読むには、岩波と光文社のどちらがいいか迷ったので、とりあえず一巻を両方図書館で借りてきて読み比べました。どちらも読みやすかったのですが、岩波の方は図版とかが充実しているようなので、現在岩波文庫版を、なめるようにちまちまとゆっくりと読みすすめています。

初心者(?)の方なら、おそらく光文社古典新訳文庫版の方が読みやすいと思います。しかし、光文社版には難点があります。訳者の翻訳作業が一時滞り、現時点で6巻までしか出ていないようです(岩波版は現在全14巻のうち12巻刊行されています)。光文社版のものはいつ訳し終わるのか分からないのです。しかも、光文社古典新訳文庫は、年々紙の本での値段が上がってきています。さらに、光文社古典新訳文庫というレーベル自体が消滅してしまう可能性がなくはないのです。まさに、失われた翻訳の続きを求めてといった状況にならないとも限らないのです(うまいこといったつもり)。一応、集英社文庫版(完訳版?)もありますが、これは読んでいないので分りません。

まあ、読んでも読まなくてもいいとは思いますが、読まずに一生を終えるのはもったいない名作だとは思います。

(成城比丘太郎)


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