★★★☆☆

凶宅(三津田信三/角川ホラー文庫)

投稿日:2018年2月18日 更新日:

  • タイトル通り不吉な家に関する正統派ホラー
  • 小学生目線での読みやすい文体
  • 良くも悪くも本当にスタンダードな内容
  • おススメ度:★★★☆☆

何の思考も働かせず、単に角川ホラー文庫の新刊だからという理由で選んだ一冊。読み終わってから気づく間抜けぶりだが、作者の三津田信三氏は、当ブログでも「禍家」「厭魅の如き憑くもの」の2冊を紹介していた。作風などは正直覚えていないのだが、私が読んだ後者とはあまり作風が似ていないと感じた。小学生の一人称なので、簡単に言えば少年探偵ものの雰囲気がある。

(あらすじ)東京から奈良県にある架空の都市・杏羅市へ引っ越してきた家族四人。小学校4年生の日々乃翔太のほか、両親と姉と幼い妹がいる。引っ越し先は山の中腹の造成地で、一目見たときから翔太は嫌な気分がした。そして、暮らし始めると妹も妙なことを口にしだす。そして、謎の影や妖怪のような存在、地元の狂人となった老婆などと遭遇する。翔太には地元の友達ができるのだが、彼も巻き込まれ……。

私は奈良県民なので、杏羅市が架空の都市だと気が付いたが、作中では勿論架空とは触れられていないので、本当にあると思う方もいるかも知れない。私の土地感覚では、奈良県の中和地区と呼ばれる香芝市・桜井市・橿原市・天理市辺りがモデルになっているのではないかと思うが、余り言及されていないので、特定は難しそうだ。ちなみに奈良県は北和(奈良市)と中和に人口が集中していて、広大な南和は人口が少なく、ほとんどが山地だ。

ストーリーの方は、至極真っ当に進行する。嫌な予感から、嫌な予感が徐々に現実化していく過程、そして、その土地にまつわる曰くを追う展開と、ホラー・怪談の教科書のような構成である。目線が安定しているので、読みやすいのが特徴だが、小学4年生にしては異常にしっかりしているような気がするがこのようなものだろうか? 最初に書いたが少年探偵団風の味わいがあってこの辺は好感が持てる。

アクションシーンと言えるものもあって、特に地元の老婆の自宅に引きずり込まれるシークエンスは中々サスペンスのスパイスが効いている。単純な追いかけっこに終わらせず、老婆の狂気を利用したこの場面はなかなか秀逸だと思った。そして、そこで見つかる前の家に住んでいた少女が書いた日記帳というアイテム。そこに書かれていた事実とは……と、いうとこで興味のある方は読んでみて欲しい。

怖いか怖くないかというと、まずまず怖い。不気味さもあれば、人間の恐ろしさもあり、スーパーナチュラルな展開に傾倒せず、それなりに整合性を持たせてあるので、読み終わっても極端な不満はないはずだ。後半は少々強引すぎる展開だと思うし、落ちに繋がる謎もよく考えると、どうして妹が見間違えたのかなど、気になる点はあるが、最後のセリフが書きたかったのは良く分かる。最後まで読むとちょっとだけゾッとする展開になっている。

不満点があるとすれば、怪異の正体が全く分からず、いったい何を怖がっているのか、イマイチ不明瞭なところだ。もうちょっと掘り下げて呪いなり何なりあればよかったが、単なる土地の祟りで終わっているのが残念だ。

奈良を舞台にしたのは作者の経験からかもしれないが、確かに奈良は山を削って新興住宅を造ることが多い。おまけに作中に出てくる「こんもりとした山」なども結構ある。奈良という土地柄、古い神様が住んでいてもおかしくはないと思うが、その辺の説明があればもっと話に厚みが出たと思う。

全体的にバランスはいいし、少年が主人公の割には、割と派手なアクションやエロティックなシーン、ミステリ風のなぞ解きまで仕込まれているので、サービス精神あふれる作品ではあると思う。

正直おススメするかと言われると微妙なところだが、上記の文章の中で何か興味が沸くキーワードがあればどうぞ、という感じの一作だった。

(きうら)


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