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★★★★☆

切腹(監督:小林正樹)〜ネタバレ感想 2022/9/8 UpDate!

投稿日:2022年9月4日 更新日:

  • 白黒映画の怪作時代劇
  • 切腹を巡る鋭い緊張感
  • 役者の素晴らしい演技
  • おススメ度:★★★★☆

映画通の友人に「ぜひこれだけはみておけ」と薦められた作品。白黒映画だし、有料だしなぁと思っていると、アマプラの松竹ちゃんねるが無料キャンペーンをやっていたのでそれで観てみた。

いや、面白いのなんのって、背筋の伸びた品格のある役者陣が、主に台詞で戦う映画だ。タイトルは切腹だが、これはある男の矜持を懸ける復讐劇である。なぜそうなるのかが見どころ。殺陣シーンも効果的に用意されている。いつも通り面白そうと思われたら、これ以上、読まずに見てほしい。

以下はあらすじのような、感想のような微妙なネタバレ紹介である。

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1630年、江戸の井伊家に見すぼらしい見なりだが、目つきの鋭い老浪人・津雲半四郎(つぐもはんしろう/仲代達矢)が訪ねてくる。そして玄関を借りて切腹したいと申し出る。井伊家を預かる家老・斎藤勘解由(さいとうかんげゆ/三國連太郎)は、これを最近流行りのゆすりと見て、玄関先ではなく庭先に誘う。さぞ、アテが外れただろうと斎藤が半四郎を見ると、落ち着き払っている。

そこで斎藤は先日同じようにやってきた若い浪人・千々岩求女(ちぢいわもとめ/石濱朗)の顛末を話し出す。かの浪人も同じようなことを言ったが、彼の場合は病身の妻・美保(岩下志摩)と高熱を出した幼子を救うための必死の賭けであった。しかし斎藤にも意地がある。本当に切腹させようとする。実は求女がその時、佩いていた腰の刀は竹光の刀であった。困窮の末、大小とも質に入れてしまっていた。竹光で腹が切られるだろうか? 求女は必死の思いで必ず戻って切腹することを誓い、一両日の猶予を願い出る。斎藤は冷たく拒絶する。

さらに、そのことを知っても介錯役の沢潟彦九郎(丹波哲郎)は強引に腹を切らせようとする。それでも進退極まった求女は武士としての意地を見せ、竹光に覆いかぶさるようにして腹を貫く。しかし、残酷な彦九郎は「まだまだ」といって介錯しない。苦しみ抜いた求女はついに舌を噛み切って果てるのであった。

それを聞いても「ほほう」と言って動じない半四郎。斎藤はその態度に不快感を感じるが、気にせず切腹を進めようとする。ここで半四郎が「介錯人が誰か?」と尋ねると、その場にいた武者が立ち上がる。しかし半四郎は「介錯人を選ぶのは権利」「自分には何の罪科もないのだから当然」と主張し、先の彦九郎を含む3人を指名する。ところが、3人とも病気療養で出仕していなかった。

ここからが半四郎の復讐である。「それは奇態なること」と言い、家来たちに真剣で取り囲まれても強引に斎藤を説き伏せ、自らの身の上話を始める。

実は千々岩求女は彼の義理の息子であり、美保は実子であった。先に病気に倒れた美保、それに続き孫まで高熱を出す。何とかすると言った求女は竹光での自害という残酷な姿で帰ってきた。それを運んできた井伊家の家臣の態度は竹光で腹を切った求女を嘲った。半四郎はそこで自身の刀を持って叩きつけ「こんなもの」と全てを悔やむ。

悪いことは重なって、美保も孫もその後を追うように相次いで死んでしまう。求女は半四郎の親友の息子で美保とも幼馴染であった。お家没落の時に自害した親友に託された義理の息子・求女も実子も孫も全て失ってしまった。

語り終えた半四郎。彼はこれだけの多くの方々がいて、なぜ武士たる求女の必死の願いである「もう一両日待ってほしい」という言葉に「いかなる理由か、どういう訳なのか」と聞き出してやるだけの思いやりを持ったものが誰一人いなかったのか、と責める。

求女については武士としての道を誤っただろうが妻子ゆえに「よくぞ誤った、褒めてやりたい」と断言。人それぞれの心は到底計り知れるものではない、とも。浪人の悲哀を訴え、井伊家の家風を「上辺だけの面目」「立場が入れ替わっても同じことができるか」と責め募る。斎藤は「甘い考え」「世迷言はそれだけか」と、あざ笑う。

安芸広島福島家元家臣・津雲半四郎はここにきて笑い出す。ただ、この時点ではまだ彼は斎藤が理解を示す可能性を期待していた。「腹を切るという拙者の言葉にはいささかの嘘偽り――」で台詞が途切れるのが印象的だ。

「あの世へ行きたい」「手ぶらではあの世には行けない」「もっといい方法があったのかも」などと語るが、斎藤に通じないことは理解していた。そして「土産と言ってもせいぜいこの程度」「当て外れ」と言う半四郎に「武士の面目など所詮上辺だけを飾るものとしか心得ているいう其方(そこもと)。もともと我らと通じるわけでも」。それを聞いた半四郎は切腹の意を示すが「あいやまたれい。その前に当家よりお預かりしているしなものを一応」と。

そして懐から、介錯人に指名した3人から切り取った髷を次々と放り出す。彼は井伊家きっての使い手3名を尋常なる勝負で打ち負かし、首の代わりに髷を切り取っていたのだ。これは殺害するより難しいのは明らか。

特に彦九郎との決闘は渾身の一騎打ちは風巻く芒の野原(護持院原)で、静かだが激しい戦いが描かれる。素人目に見ても、半四郎と彦九郎の剣法が違うのが分かる。Wikipediaによると、半四郎は戦国武者の鎧を着たことを前提とした型、彦九郎は剣道の源となった当時最先端の型を取っている。またこのシーンでは二人は真剣を使っていたらしい。視覚的には泥臭い半四郎、スマートな彦九郎と言えるだろう。彦九郎は強敵であったが、半四郎はあえて刀を先に叩き折り、彼の髷も奪い取る。

半四郎は一人の男として、誰の力も借りずに切り返したのだ。

「井伊家のご家風も武士の面目の上辺だけを飾るもの、はははははは、あっははははは!」と、渾身の力を込めて呵々大笑する半四郎。斎藤の怒りも頂点に達する。彼にしてみれば完全に被害者気分だっただろう。

「乱心もの、切リ捨てい!」の一言で、半四郎に数十人もの家臣が襲い掛かる。彼はその中の一番の使い手を含む4人を切り、さらに8名に重症を負わせた。最期は逃げ込んだ一室に飾られていた井伊直弼の甲冑を抱いて刀で腹を切る。結局半四郎を仕留めたのは井伊家の鉄砲隊であった。彦九郎は前日に自害、残る二人にも切腹を申し付ける。斎藤は自らの正当性を井伊直弼の甲冑に報告するが……。

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構成も完璧なら、役者の演技、セリフ、殺陣の剣術も本物。半四郎の台詞や挙動は徹底して落ち着き払っており、稀に見る緊張感は3人の髷を投げるクライマックスに向けて静かに高まっていく。三國連太郎や丹波哲郎の演技もいい。最期は非業の死を遂げる半四郎だが、これほどまでに痛快な物語も少ない。

白黒の日本映画といえば構成やカット割で「たいくつ」な印象が強いが、この映画はそれとは無縁。クレーン撮影が好きだったという小林監督のおかげで絶妙な移動撮影とズームを繰り返し、現代的な印象になっている。それに加え、本物の役者が持つ鬼気迫る演技。イロモノ時代劇とは違う、硬質な絵作りは、地味だが見飽きない。観客は半四郎とシンクロし、一世一代の復讐劇の当事者となるのだ。

剣戟シーンは極めて抑えられていて、一見地味だ。決定的瞬間はほとんど映さない。最後の乱闘シーンも血が流れるが、求女の腹を切るシーンは尺が長く、夥しい血が流れ、凄惨なシーンになっている。この一点を強調することで作品のテーマを語りたかったのかもしれない。観ないと損をする作品だ。

1962年の映画だが、一片の隙もない。私はもう4回観てしまった。

半四郎が何かを語ろうとする斎藤を「あいや」と言って遮るシーンが好きだ。気圧されて黙る斎藤。そして、ギョロリとした目で語り出す半四郎。

なるほど、私も「あいや」と言ってみようと思っている。ここ一番、抜き差しならない場面で。

(きうら)

※飲酒運転ならぬ飲酒作文をしているため発生したと思われる酷い誤字(解釈→介錯)などを修正(2022/9/7)。しかし、飲みながらかなり追記したのでまた誤字が発生している可能性も。以下、無限ループ。

 



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