★★★★☆

十の物語(高橋克彦/角川ホラー文庫)

投稿日:2019年6月5日 更新日:

  • 古いが正統派の日本ホラー
  • バラエティ豊かな10篇プラス1
  • 古いのを除けば割と楽しい
  • おススメ度:★★★★☆

平成5年刊行と相当古いが、現代ホラー傑作選・第3集と銘打たれている。当時でもクラシックなラインナップが多いと思う……ただ、これが割と楽しい。私にとっては懐かしい「怪奇!○○現る!」的な(?)正統派怪綺短編集だ。以下、個別の感想を少し。

山田風太郎「人間華」
あの山田風太郎の作品なので、どんな内容なのか用心しながら読んだのだが、夫婦の純愛悲恋をベースに、適度に猟奇的な要素が入った幻想的な怪綺譚。愛する人間をなんとか救おうとするマッドサイエンティストは古典的なテーマだが、内容は十分個性的。何でもこの方向に引っ張るのが山田節なのか。

山村正夫「魔性の猫」
主人の恨みを晴らす黒猫という、これもどこからどう聞いても古典会談だが、昭和らしいエネルギッシュなダメ親父の描写がいきいきしていて、なかなか面白い。落ちで勝負するタイプではないが、ラストシーンを想像するとなかなか凄まじいものがある。

三橋一夫「角姫」
ユーモア小説の大家らしい著者。その得意分野のせいか、この短編集の中でも一番穏当でユーモラス。純愛小説としても読める内容。ただ舞台が戦後間もない昭和で、若いヒロインの名前が古い(元子)……私の母かと思うセンス。とは言え、最後のセリフが決まっていてスッキリした。

夢野久作「卵」
あの(二回目)夢野久作の作品なので、恐々読んだが、期待に違わず不思議かつ不気味な内容。なんて言えばいいのか、シュールでグロいが、どこか綺麗でもあるような。個人的には「電気グルーヴ20周年のうた」を連想した。こういう作風はやろうとしてできるものではないなぁ。

岡本綺堂「兜」
1872年生まれと、この短編集では一番古い作家だが、微塵も古臭くない正統派怪綺談。この人ほど日本語で物語を分かりやすく伝える技術が高い作家はいないのではないか。変に装飾に凝らず読みやすい文章は、必要な情報が過不足なく頭に入ってくる。本作もある兜にまつわる奇譚だが、適度に怖い内容を盛り込みつつ、所々で読者の予想を交わす展開をして飽きないつくり。当時の風俗も正確で、文章量の割に情報量が多い。実に味のある話だった。

中津文彦「すてきな三にんぐみ」
岡本綺堂に比べると、ずっとモダンな雰囲気のサイコホラー。ラストが何だかよく分からない感じなのが少し残念だが、テーマは令和でも通用するような愛憎劇。幼児時代の罪と罰がテーマだが、大人たちも同じような構図なのがよく出来てる。仕掛けそのものは容易に想像がつくが、よくまとまった佳作。

香山滋「月ぞ悪魔」
今時、お目にかかれない怪しさ爆発の短編。世界を股にかけた見世物師(!)の告白というお話で、何とコンスタンチノープルを舞台に、ちょっとやり過ぎなくらいエキゾチックな怪談が展開される。半ばファンタジーだが、微妙に現代的な視点もあって不思議な読み心地だ。秘境にいた有尾人類を100人も捉えて見世物にするとか、今やったら世界中で叩かれそう。基本は純愛物語。子供時代に読んだ冒険小説の香りがした。

都築道夫「狐火の湯」
これも昭和感たっぷり。タイトルそのまんまの怪談。ただ、山奥の旅館はいいとして、男風呂と女風呂が水中で繋がっているとか、どんなエロ漫画の設定かと思うが、確かに昭和中期まではそういう大らかさがあった。今の人は理解不能だとは思うが。肝心のお話は、若い女性の因果話で、クライマックスはかなりの不気味さ。ただ、女湯から若い女性が男風呂に入って来るというのは、やはり著者の趣味がかなり入っていると思う。まあ隠微なところは無いので良しとしよう。

柴田錬三郎「赤い鼻緒の下駄」
前の話とは打って変わって、何だか文学的な儚さを感じる端正な短編。癌で死んだ若者の不思議な告白が、ある作家に送られて来るという設定。テーマはやはり愛情だが、表面的な情愛を超えた幽玄な世界が垣間見える。死んでいる人間が死者を語るという構造は痺れる。ラストに相応しいお話だ。

佐々木喜善「ザシキワラシ」
それぞれの短編の後に挿入される日本各地のザシキワラシの目撃情報。民俗学風の短文で、それぞれのお話の口直し的なもの。それ以上でもそれ以下でも無い。

因みに編者の高橋克彦を調べてみると、NHK大河ドラマの「炎立つ」の作者では無いか。不見識で読んだことは無いが、このセレクションをみると、なかなかの怪談通だと思う。お気付きとはおもうが、タイトルは柳田國男翁の「遠野物語」のパロディだろう。何にせよ、久々のホラーとしてはちょうど良い読みやすさのある短編集だった。

(きうら)

※編者名を誤記していたので、訂正しました(20190608)。

-★★★★☆
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