★★★★☆

千霊一霊物語(アレクサンドル・デュマ、前山悠〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

投稿日:2019年5月29日 更新日:

  • 「語り手」デュマによる「枠物語」
  • 殺人事件から始まる怪奇譚の披露
  • まさに19世紀オカルティズムの潮流
  • おススメ度:★★★★☆

【あらすじ】

時は19世紀フランス。語り手のデュマは20代の劇作家。彼はある日、「石切夫」のジャックマンが「妻を殺した」と告白する現場に居合わせた。そのジャックマンは、切り落としたはずの妻の首が口をきいたと言って、とても震えあがっていた。デュマは、その殺人を自供した男の要請で呼ばれた市長らとともに、殺害現場に赴く。凄惨な現場での見分の後、デュマは市長の家に呼ばれることになった。そこではじまったのは、居合わせた人物たちによる、首切り事件に端を発した、出席者それぞれの怪奇譚の披露だった・・・。

【感想とか内容の紹介とか】

まずこの物語の形式的特徴は、デュマの語りによる「枠物語」になっていることです。タイトルからうかがえるように「千夜一夜物語」を模したようなものです。今の日本なら、「百物語」のようなものです。まあ、百もの怪談がなされるわけではないですが、出席者がそれぞれの経験した(あるいは見聞した)怪奇譚を語っていくという、そういう怪談として読むこともできます。ここでおもしろいのは、デュマ自身が単なる聴き手に徹しているようにも思えることです。作者自身の見解はなるべく前景化しないように努めているようだということです(逆に言うと、それが垣間見える部分もありますが)。

怪奇譚といっても、なにもそれぞれがテーマとして自由に語るわけではないです。「石切夫」のジャックマンが告白した、「生首が口をきいた」というような非科学的な経験談をもとに、それがはたして本当に起こり得るのかどうかを語りあうわけです。ここにおいて、その告白の妥当性にケチをつけるのが、とある医師です。その医師に反駁する形で、出席者が、自らの体験した怪奇譚を話すのです。

さて、ここで語られる怪奇譚は、ギロチンで首を切られたその首が何かの反応をかえしたとか、死者を侮辱した人物が死者からの仕返しを受けたとか、青白い顔をした女性の吸血鬼を軸にしたロマン的な物語などなどです。詳しい内容を書きませんが、当時の状況などをおりこんだおもしろい語りになっています。あまり怖くないと思える部分もありますが、当時(19世紀)のフランスでわきおこっていたと思しきオカルティズムの風を感じられます。そのオカルティズムとは、実証主義の恩恵を受けた、科学という新たな知の体系に通じるものかもしれません。

本書には、フランス革命以前の魔術的信仰をなつかしむようなところがあります。とくに、「アリエット」という人物は興味深いです。彼は本人談によると、今まで何年もの生を生きてきたというか、伝説的な大人物にみずからを擬しており、このアリエットのキャラクター性は現在の中二病的な転生もののキャラを思わせる部分があります。

【まとめ】

とくにまとめることもないですが、訳者によると、本作は日本ではあまり知られておらず、埋もれていた作品だということです。というか、「デュマの専門書でもまともに言及されない代物」のようです。こういうおもろい作品が、文庫で、しかも野口英世一枚で読めるのは、ひじょうにありがたし。単なる怪奇譚というだけではなくて、もっといろんな読み方ができそうだと思わなくもないので、また読んでみようと思わせてくれる、そんな作品でしょう。

(成城比丘太郎)

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

夏休みにおすすめする短編〔文学〕(成城比丘太郎のコラム-04)

夏休みによんでみてほしい短編 もちろん夏休みでなくてもよい 小学生から大人まで楽しめる怖くて暗くてイヤな短編 おススメ度:★★★★☆ ラジオの「夏休み子ども科学相談」というオモシロイ番組がある。科学に …

老人Z(大友克洋〔原作・脚本〕、北久保弘之〔監督〕/アニメーション映画)

「老人問題」をテーマにしたアニメーション 1991年公開映画なので少し古いけど、おもしろい この映画に続く現代版を誰かに制作してもらいたい おススメ度:★★★★☆ 【「はじめに」の前に】 本記事を書い …

魔法使いの弟子(ロード・ダンセイニ[著]・荒俣宏[訳]/ちくま文庫) ~あらましと感想、軽いネタばれ

現代ファンタジーの原点。 デュカスの交響詩『魔法使いの弟子』とは、全く関係なし。 魔法使いから影を取り戻す、ラブロマンスともいえる。 おススメ度:★★★★☆ (導入説明)<塔の岩森>の若者「ラモン・ア …

犯人に告ぐ(雫井脩介/二葉文庫)

劇場型犯罪を追う警察小説の傑作 多少のけれん味はあるが緊迫した展開 真に迫るラスト。読ませる。 おススメ度;★★★★☆ これも映画化もされているようなので、有名な作品だ。いわゆる「劇場型犯罪(Wiki …

オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険( 鈴木光太郎/新曜社)~内容の紹介と感想

心理学的「エセ科学」を真面目に検証・解説 やや専門的で難解な描写もあるが、科学読み物として面白い テーマに興味が有ればおススメの一冊 おススメ度:★★★★☆ この本に興味を持ったのは、自分のこの手の「 …

アーカイブ