3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

地を這う虫 (高村薫/文春文庫)

投稿日:2017年5月18日 更新日:

  • 報われない男の諦めない物語
  • 4つの短編を収録
  • 人生は勝ち負けではない
  • おススメ度:★★★★✩

(あらまし)「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。文庫本の裏面にあるフレーズ。最近気が付いたが、人生とは基本「うまくいかない」。逆説的に言うと、うまくいくことを追求すればするほど「不幸になる」。この本は守衛や運転手、サラ金の取り立て屋など、心ならずも望まない職に奉職する人々を、愛情たっぷりに描く短編集。人生経験が有ればあるほどグッと来る。

例えば、表題作の短編は、家族とも別居し、前職を首になり、守衛と倉庫番を務める冴えない中年が、ある事件の真相に警察より先にたどり着くという筋立て。社会的には落伍した主人公が、自分自身の矜持をかけて、犯人を推理する。しかし、その行為はむしろ迷惑がられる。あまつさえ、犯人に間違えられたりする。しかし、主人公は簡単に諦めたりしない。

あなたは自分が幸せと思いますか? うん。あまり思っていませんね。では、この「不幸せ感」に有効なものは何か。みんな笑って生きているけれど、それは底板の薄い小舟に乗って漂っているようなもの。誤って踏み抜けば、底知れぬ暗い海が広がっている。これを恐怖と言わず何と言おう。じゃあ、どうすれば。

それに対抗するものは、プライドしかない。誰が認めなくても、自分が認めればいい。それが虚しいかどうかは関係ない。私も含め、凡百の人間はそれを胸に、今日も些末な仕事に対峙するのだ。それを小説として堪能できるのが、本作の内容。それでも生きろと言われる。何のために? それはもちろん生きるために生きるのだ。

恐怖の種類は違うが、この本の主人公になることを想像してみよう。ゾッとするはずだ。誰だってサラ金の取り立て屋にはなりたくない。でも、そうなる可能性はある。ただ、生きていればそれでいい。そう全肯定してくれる一冊。もし、人生に疲れているなら、ぜひ、沢木耕太郎ではないが、この「敗れざる者たち」(敗れざる者たち (文春文庫)沢木耕太郎/Ama)の物語を紐解いてほしい。

(きうら)



(楽天)

-★★★★☆
-,

執筆者:

関連記事

塔の中の部屋(E・F・ベンスン〔著〕、中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩〔訳〕/ナイトランド叢書)

超自然現象を、結構冷静な目線で。 オモシロ怖い怪談を含むホラー短編集。 何かを感じるということについて。 おススメ度:★★★★☆ E・F・ベンスンは、「イギリス怪奇小説の名匠」ということで、丁度100 …

2666(ロベルト・ボラーニョ/白水社)

850ページを超える分量。しかも二段組。 謎の作家をめぐる、重層的なストーリー。 読書に辛抱強い人向けの本。 おススメ度:★★★★☆ (はじめに)チリ出身の作家ロベルト・ボラーニョの遺作である本書は、 …

人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1) (江戸川乱歩/角川ホラー文庫)

乱歩入門に最適な怪奇短編集 ありそうでない、古そうで古くない 有体に言えば乱歩はすごく有能な変態 おススメ度:★★★★☆ 全然関係ない話から始めてしまうのだが、江戸川乱歩は私の同郷の文人である。同郷と …

統合失調症(村井俊哉/岩波新書)

わかりやすい解説 この病気の特徴について 世間はもっとこの病気について知るべき おススメ度:★★★★☆ 著者は精神科医。おそらく臨床経験も豊富で、なおかつこの統合失調症について長年考えてこられたのでは …

蔵書の処分と、最近読んだ怪奇幻想もの(成城のコラム-25)

本の処分について 最近読んだ怪奇幻想もの イタリア独自の幻想小説 オススメ度:★★★★☆ 【蔵書家あるある】 年が明けてまずすることというと、蔵書の整理です。断捨離というほどのものではないです。毎年数 …

アーカイブ