★★★★☆

地獄変(地獄変・偸盗 (芥川龍之介/新潮文庫)より) ~概要と感想

投稿日:2017年9月2日 更新日:

  • 希代の絵師がゾッとする方法で描いた「地獄変」の屏風の話
  • 芸術と人間の業を鋭く描く
  • ホラー的にはむしろお殿様が怖い

おススメ度:★★★★☆

芥川龍之介の著名な作品の一つ「地獄変」。ただ、その内容から、タイトルなどは知られていても小中学校の教科書に載せられるような内容ではないので、中身については良く分からない方も多いのでは。今回はホラー的な視点で紹介してい観たい。

(あらすじ)「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルにした、変人の絵師が主人公。この絵師は絵画の腕はいいが、頑固で偏屈で嫌われ者。さらに「見たものしか描けない」ということで、弟子を縛ったりする始末。しかし、この絵師には溺愛している娘がおり、これが殿さまに仕えている。ある時、その殿様に「地獄変」の屏風を描けと命じられた絵師・良秀は、どうしても納得のいく絵が描けず……。

というのが、大まかなあらすじ。有名な話でもあるし、上記のあらすじだけでも勘のいい方なら、だいたいの話の結末が見えるかも知れない。文学作品なので、難しく思われがちだが、読んでみると全く分かりにくいところはなく、いくつかの言葉の意味さえ分かればすんなりと読めるような内容になっている。本の解説にも書かれているが、テーマは「芸術か道徳か」といった内容だ。現代では絶対あり得ない展開だが、古典をモデルに生々しく描写されている。

絵師・良秀が陥る異常な悩みは、恐らくほとんどの人間には共感できないような内容だろう。ただ、著者である芥川龍之介はご存知の通り、1927年に服毒自殺を遂げており、常に観念の中に良秀と同じような悩みを持っていたのではないかと思われる。私は文学者ではないので、類推するだけだが、作家は自ら書いた文章以外に寄るべきものがない。日々、何かの労働に就いて生活の糧を得ていないので、とにかく書いた文章が全て。それを否定されれば、まさに生きる意味を失ってしまう。また、書いた作品すべてが絶賛される作家もいない。作品には己の全てをつぎ込むのが作家だが「どこまで行けばいいのか」という苦悩が強烈に感じられる。

ホラー的には短く読みやすいし、話の展開もスムーズだ。クライマックスも恐ろしく、色々深読みもできる傑作だと思う。個人的には最後に一言もコメントを残さない大殿様の存在が怖い。最初から大殿様は徳の高い人間だと繰り返し述べられているが、それが話の伏線になっている。パブリックドメインになっているので、青空文庫などでも簡単に読めるので、ぜひご一読を。

(きうら)


-★★★★☆
-,

執筆者:

関連記事

ダーク・タワーII 運命の三人〈下〉 (スティーヴン・キング (著)/風間賢二/角川文庫)

相変わらずの超展開ファンタジー ロクでもない仲間ばかり集まる 物語の行方は全く見えないまま おススメ度:★★★★☆ 第1巻では、西部劇風の架空の世界を舞台に、華麗にガンマンとして活躍するローランドの姿 …

倉橋由美子の怪奇掌篇(倉橋由美子/新潮文庫)~紹介と感想、軽いネタばれ

「幻想・残酷・邪心・淫猥な世界」を描いた20篇。 簡潔で読みやすい。 著者の博識ぶりがいかんなく発揮されている。 おススメ度:★★★★☆ 倉橋由美子というと、一番(一般的に)有名なのは『大人のための残 …

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間を捨てられるか(岡本太郎・青春文庫)

天才芸術家・岡本太郎氏の自伝的エッセー 「人生の道を踏み外す」可能性がある怖い本 恋愛観などは少し退屈な所も。 おススメ度:★★★★☆ 今回は「芸術は爆発だ!」の名言や万博公園の「太陽の塔」、巨大な壁 …

幽霊海賊(ウィリアム・ホープ・ホジスン、夏来健次〔訳〕/ナイトランド叢書)

ホジスンの海洋奇譚 謎の影につきまとわれる恐怖 徐々におとずれる怪異 おススメ度:★★★★☆ 【物語のあらすじ】 「わたし」ことジェソップが、自らの遭遇した怪異体験を語るという内容の物語です。サンフラ …

クトゥルーの呼び声(H・P・ラヴクラフト〔著〕、森瀬繚〔訳〕/星海社)

ラヴクラフトの入門書的作品集 クトゥルーにまつわる海洋ホラーを中心に 巨大な力に抗えない人の無力さ おススメ度:★★★★☆ さて、本書は去年の秋に、「クトゥルー神話生誕100周年記念」として刊行されま …

アーカイブ