★★★★☆

大長編ドラえもん (Vol.5) のび太の魔界大冒険 (藤子・F・不二雄/てんとう虫コミックス)

投稿日:2018年3月13日 更新日:

  • ドラえもん中ホラーと言える演出とアイデア
  • 特に前半の描写が素晴らしい
  • 小ネタも満載。大人も楽しめるSFファンタジー劇
  • おすすめ度:★★★★☆

僭越ながら、巨匠と呼ばれる漫画家にも旬の時期というものがあって、藤子・F・不二雄という漫画界の巨星に於いても、絶頂期というものがあった。17編目の「のび太のねじ巻き都市冒険記」で絶筆されるまでに、大長編ドラえもんで全盛期と言えるのは、第1作「のび太の恐竜」から第9作の「のび太と竜の騎士」までで、つまり、藤子不二雄名義で発表されていた作品群だと思っている。特に、この第5作前後は、脂の乗り切った時期で、この「魔界」「魔境」「小宇宙戦争」がベストスリーだと思っている。中でも本作は敵にタイムマシンを悪用されるというプロットと、高度な伏線の張り方が秀逸だ。ちなみに2018年は38作目となる映画「のび太と宝島」が公開されている。

(あらすじ)
のび太が軽い気持ちで、もしもボックスで「もしも魔法の世界になったら」と、願ったことから、科学が全て魔法に置き換わった世界に変化していた。母親は魔法で食事を作り、空飛ぶ絨毯は車代わり。学校では魔法の授業がある。しかし、それは単に科学が魔法に置き換わっただけであり「魔法で楽をしたい」というのび太の意に沿うものではなかった。そこで、元の世界へ戻したいと思ったのび太だが、すでにその世界では異変が始まっていた。戻るに戻れないのび太とドラえもんは魔法の世界で事件に巻き込まれていく。

リアルタイムで読んだ時は、のび太の浅はかさにただただ笑って読んでいたが、よくよく考えてみると、科学→魔法と入れ替わっても日常生活の苦労は全く同じというのは、著者の皮肉だったのだろう。そうそううまい話はないよということを、メッセージとして伝えていた気がする。特に車のCMの代わりに新型絨毯で「快適でゆったり」などと放送されているのは、文明批判とも取れるし、柔らかい雰囲気に鋭い風刺が含まれている。

物語が展開するのは、魔法世界の異常を探り、満月博士の家にたどり着くあたりから。この前半の終わりから中盤は、魔法世界ということもあって結構なホラーになっている。直接的な殺人の描写は出てこないが、あからさまな殺意のある敵の攻撃があり、子供にもわかるリアルな異常が発生している(巨大台風の襲来など)。そして、今作のヒロインとなる美夜子は猫の姿に変えられており、のび太に助力を求める。

この辺のストーリーテーリングが最高に素晴らしく、始めはギャグ調で世界を一通り紹介してから、その変わらぬ日常が徐々に崩壊していく辺りはゾクゾクするだろう。ヒロインも月の光をキーに、猫と人間を行き来するという設定で、ただの可愛いヒロインと違って、勇敢さも兼ね備え、他の作品のゲストキャラにも劣らない魅力がある。

そして、真夜中に「石化した自分たちに出会う」というSF的な装置が効果的だ。この伏線は後々回収されるのだが、この時点で「タダナラヌ雰囲気」というものを読者に与え、通常運転のドラえもんとの差を実感することになる。

もちろん、元がギャグ漫画であるから小ネタも満載で、小石さえ動かせないのび太がしずかちゃんのスカートを動かして「のび太たちは純粋に魔法の成功を喜ぶが客観的にはセクハラ」といったことや、ドラえもんが「ただの演出」として被っていた帽子が、絶大な威力を発揮する場面など、緊張感の中にもクスリとさせるシーンも多い。ジャイアンンの「下手な歌」に関するエピソードも、笑いながらスカッとする。これも本編での周到なネタ振りがあってこそ生きてくるシーンで、ドラえもんサーガともいえるバックボーンを存分に生かした演出だと思う。

当時の資料を精査したわけではないので、これはただの憶測だが、藤子・F・不二雄となる前の藤子不二雄のドラえもんには、確かに藤子不二雄(A)的なブラックな笑いや風刺が含まれていた。実際にはF先生が独自に描かれていたのだろうが、A的要素が潜在的に残って絶妙なエッセンスになっていたのではないだろうか。面白い中にも毒がある。そしてその毒を中和するF先生のアイデア。この辺の衝突がストーリー性やキャラクター性、ひいては作品の完成度として現れているように思える。

実際にコンビを解消してからの漫画版の大長編ドラえもんはパッとしないものが多い。「恐竜」から「竜の騎士」という竜から始まって竜に終わるまでが、真の意味での大長編であると思っている。

ただ、その後もご存知の通り、ドラえもんは継続されており、たまに見るとそれなりに面白いのだが、この頃の大人も唸らせるようなクオリティとは一線を画しており、あくまで子供が楽しく観られるドラえもんになっていると思う。個人的には笑いや毒があってのドラえもんだと思っているので「STAND BY ME ドラえもん」のような作品は許容できないが、伝説の「台風のフー子」のエピソードや、のび太とおばあちゃんのエピソードなど、多様なテーマを内包してきたドラえもんなので、描き方はやはり自由であるし、今のスタンスも間違っていないとは思う。

「恐竜」から「小宇宙戦争」までは、リアルタイムに小学生として本当にドキドキしながら作品を楽しんだ。あの時覚えたストーリーを語る面白さは、私の初期衝動の一つとして深く心に刻まれている。スピッツの「醒めない」という歌に「最初ガーンとなったあのメモリーに/今も温められている」とあるが、正にそういうメモリーであろう。もちろんプロではないが、いち物語(書き)好きとしては、燦然と輝く作品であることは間違いない。

ちなみに最初にも書いたがホラーとしても結構怖いので、ぜひ、その辺は原作で味わってもらいたい。秘密道具を逆手に取られるゴーゴンの下りは何度読んでも秀逸だ。これぞF先生の真骨頂と言えるだろう。

(きうら)


※普段お世話になっている中華料理店の美味しい餃子。先日、試食させてもらったら本当に美味しかったので、餃子がお好きでしたらぜひ。無添加で上品な餃子です。

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