★★★★☆

妖怪ハンター 1 地の巻(諸星大二郎/ヤングジャンプコミックス) ~あらましと感想

投稿日:2017年7月10日 更新日:

  • 独自の世界観と画風のホラー漫画
  • 民俗学的知識が下敷きになっている
  • ホラーにとどまらない深みのあるストーリー
  • おススメ度:★★★★☆

かの「漫画の神様」手塚治虫が「僕は誰の絵もまねて書くことができるが、君の絵だけは難しい」と言わしめたという諸星大二郎氏の代表作。嘘か真かは分からないが、確かに本文を読めばその理由はよくわかる。どこかにありそうで絶対にまねて描くことができない絵だ。多分、デッサンの感覚が通常の人間とは大きく変わっているからだろう。古い本だが、丁寧に作画されているので、古さは感じない。

(あらまし)新進の考古学者である稗田礼次郎は、考古学に名を借りて、各地の奇妙な事件を調査していた。謎の古墳の調査や、古くから続く祭りの禁断の儀式から、スケバンにとりついた謎の怪現象の正体まで、研究対象は様々だ。稗田はクールな長髪姿で冷静な視点で事件の真相と解決に迫っていく。絵だけ見ると小学生でも読めそうだが、中身はかなり大人向けに書かれていて、グロい表現やある種のエロティシズムなどもあるので、小学生にはあまり勧められる内容ではない。

テーマもきわどいネタを結構扱っていて「生命の木」というエピソードでは、基督教の日本での普及に鋭く踏み込んでいるが、知的障碍者を扱っていることもあり、現在の漫画のコードから言えば、完全にアウトっぽいネタだ。それだけにオチはインパクト十分。この「地の章」では、最も評価の高いエピソードで、その不気味な雰囲気と言い難解なストーリーと言い、少年漫画の域を完全に超えている。

個人的には、怪獣漫画の要素を持つ「闇の客人(まろうど)」が一番面白い。ある地方で、観光の目玉として古い祭りを復活させようと試みるのだが、そのやり方を間違ってしまい、福の神ではなく、悪魔を召喚してしまう。この過程が実にダイナミック。大技、小技取り混ぜてホラー漫画の神髄を味わえる傑作で、ラストの虚無感といい、素晴らしい作品と言える。

テーマがテーマだけに上記の手塚治虫や藤子不二雄、水木しげるなどの作家ほど、一般には知られていないが、その面白さはむしろ大人の方が楽しめるだろう。ディティールに手抜きがないので、何度か読み返しても新しい発見があるのもいい漫画の証拠だ。他の代表作品「西遊妖猿伝 大唐篇(1)」もぜひ読んでみたいと思う。大人のホラー漫画ファンにおススメしたい上品で上質な作品だ。

(きうら)

 



妖怪ハンター 1 地の巻【電子書籍】[ 諸星大二郎 ]

-★★★★☆
-, ,

執筆者:

関連記事

千と千尋の神隠し(宮崎駿/スタジオジブリ) ~あらすじと軽いネタバレと怖さの構造

いわずと知れた摩訶不思議な和風ファンタジーの傑作 ホラー要素満載で悪意しか感じない展開 しかし「超」天才の限界を感じる作品 おススメ度:★★★★✩ 「君の名は」や「アナ雪」や「タイタニック」を足蹴にす …

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (岡本綺堂/幽クラシックス) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

怪談と名のついているが、壮大な歴史伝奇ミステリ ミステリ、因果もの、悲恋もの、歴史、サスペンスが合体 岡本綺堂らしい、読みやすい文体 おススメ度:★★★★☆ 本の紹介にはこうある、以下引用する。 本書 …

「雨月物語」(『日本文学全集11』)(上田秋成・円城塔[訳]/河出書房新社)~紹介と感想、中程度のネタばれあり

ヴァラエティーに富んだ9編。 観光文学としても読めます。 サラサラと流れるように読める翻訳。 おススメ度:★★★★☆ 『雨月物語』は近世の作品でありながら、(この翻訳によって)まるで現代の幻想怪奇小説 …

春山入り (青山文平/新潮文庫)

考え抜かれた時代小説短編集 テーマは日本刀≒刃≒死と生 素直に称賛できる文体と内容 おススメ度:★★★★☆ 率直にって素晴らしい短編集だと思う。「たまには時代小説でも読むかな」という安直な動機は、驚き …

カルヴィーノまみれ~木のぼり男爵/不在の騎士/ある投票立会人の一日

木のぼり男爵(イタロ・カルヴィーノ、米川良夫[訳]/白水Uブックス) 不在の騎士(イタロ・カルヴィーノ、米川良夫〔訳〕/白水Uブックス) ある投票立会人の一日(イタロ・カルヴィーノ、柘植由紀美〔訳〕/ …

アーカイブ