- ダークヒーローを描く警察小説の一種
- ステロタイプと見るか完成度が高いと見るか
- 熱い大衆小説である
- おススメ度:★★★☆☆
昭和63年、広島県の架空の都市を舞台として、暴力団と癒着しながらも独自の倫理観で、犯人を謙虚し続ける大上捜査二課主任(ガミさん)を新任の部下・日岡の視点で描く。典型的な凸凹コンビ(義理人情に厚いが素行不良の悪徳警官の大上と真面目一徹の日岡)によるバディもの。特徴は、警察小説というよりヤクザ小説と言った方がいいほど、詳細に極道の世界が描かれることと、大上が終始広島弁で語ることだろうか。広島弁は文字で読むと味わい深い。
大上は、パナマ帽を被りショートピースをふかしまくる泥臭い中年刑事。違法捜査上等で、悪どいヤクザを追い詰める。日岡の着任当日には、日岡にヤクザに喧嘩を吹っかけさせて、怪我まで負わせる。日岡目線ではあるが、この「ガミさん」のキャラクターがこの小説の全て。警察倫理と、大上の倫理の衝突がテーマだが、読み終えて大上に肩入れしない人は少ないだろう。それは見せかけで、普通の人情劇になっている。
文章は読みやすい。難しい言い回しはなく、過不足無く状況を把握できる。筋回しはある意味、お約束の連続だ。ガミさんのキャラを味わうのに凝った筋書きは不要という意思を感じる。もちろん、見せ場をいくつも持ってきて飽きさせないように出来ている。読書を楽しませようというプロ意識を感じた。
ただ、やり過ぎて、通俗的になり過ぎているところもある。ガミさんが妻子を亡くして独り身なのはまだいいとして、日岡の名前が死んだ息子と同じという設定は必要だろうか? また、ガミさんはヤクザの親友がいるが、敵味方がはっきり分かれていてスリリングさがない。どことなく「全員悪人」と謳った北野武の映画「アウトレイジ」を思い出したが、誰がどこで死ぬかがはっきり分かるので、単純すぎる。終盤に登場する嫌らしい新聞記事のようなキャラがもっと欲しかった。ヒロイン的位置付けの晶子のキャラも綺麗すぎる……全てが「期待を裏切らない」のだ。
もちろん、乱闘シーンは満載で、血生臭さには事欠かない。ま、極道小説なのだから当然だが、なぐったり、刺されたり、撃たれたり、様々だ。エグい死体シーンもあるが、猟奇小説要素はない。あくまでも、必要なので暴力シーンが登場する。
以上の理由から、冒頭に「熱い大衆小説」と書いた。これは決して貶している訳ではなく、きっちりこのラインに仕上げるのは中々の力量という評価だ。事実、最新作も20万部売ってるとある。女性作家で、文章から一般的な女性らしさを感じない小説家は、私の倫理観ではプロだと思っている。このジャンルで面白い小説を読みたいなら、読んで後悔は無いだろう。
ただ、終わってみると、読書中に感じた熱気が抜けていくのを感じる。結末も含め、やはり物足りないのだ。とは言え、完全に出来上がっているからこそ、もう変えようがない。結局、人間味やサスペンスは存分に味わえるが、腹に響くテーマがない、というか軽い。もう少し、日岡ともやり合った方が良かったし、彼にはもっと苦悩して欲しかった。物語を盛り上げるだけ盛り上げておいて、結局、本来的な意味からは、最悪の結末になっているのは意図的なものだろうか? 日岡も成長したのか、木乃伊取りが木乃伊になったのか分からない。色々書いたが、この作者には興味が湧いた。また最新作も読んでみたい、と思う。
ただ、極道も大変だなぁと思った。善人だろうが悪人だろうが、兎角この世が住みにくいのは間違いない。
(きうら)