★★★★☆

廃市(福永武彦/小学館P+D BOOKS)~紹介とレビュー

投稿日:2017年8月10日 更新日:

  • 少し暗いところと、観念的(抽象的)なところとがあります。
  • きちんと構成された作品もあります。
  • 表題作の映画についても。
  • おススメ度:★★★★☆

福永武彦というと、今では、作家の池澤夏樹の父親としても知られているでしょう。福永作品は、今読むと、ただ古臭い表現の作品かと思われる向きもあるかも知れませんが、よく読むと、ヴァラエティに溢れ、様々に構築された世界があり、そう単純ではありません。

私は、福永武彦の世界を、スノードームの中に整然と構築された世界のようだと思うことがあります。広いテーマを扱っていても、何かしら個々別々の人物が、その中に閉じ込められた、そういうスノードームを連想します。そして、その中に浮かんで漂っているのは、愛、死、運命、孤独、滅び、寂しさ、喪失、闇、別れ、諦念、退廃、追憶、美(芸術)、影、明暗、病、悔恨、痛苦、青春、無垢、希望、病……など、それらで充満しているのです。ちょっと書きすぎかもしれませんが、決して大げさでないと思います。

『廃市』……「僕」がある新聞記事から、10年前に訪れた町のことを思い出すところからはじまります。記事によると、その街は火事に遭い、そのほとんどは焼けおち、「廃市」のようになり、「荒れ果てた」町になってしまったと、僕は思うのです。普通に考えると、町火事にあっても、人がいる限りすぐに復興されるものでしょう。廃墟のままになるわけはありません。ということは、これは、僕の中で過去の「古びた記憶」としてある町が、焼けおち、「廃市」になったことを示しているのでしょうか。僕の中の過去が滅びたのです。さらにいうと、僕が10年前に出会った町の人々の、退廃的な姿がそう思わせたのでしょう。

話の中心は、僕が過去に訪れた、その時の出来事です。僕が出会った町の人、特に滞在先の「貝原家」の人たちの、町に縛られたと思われる、運命に身をゆだねたような倦怠と、その簡単なようでいて、複雑な人間関係(愛情の複雑さ)が、印象的です。この作品は大林宣彦監督で映画化されました。福岡県の柳川でロケがなされ、町の雰囲気をいかした良い映画でした。キャストとしては、峰岸徹と、根岸季衣が特に印象的でした。脚本的にも、原作に加味されている箇所は良かったです。

『沼』……これは、童話風の作品ですが、読みようによっては怖い感じもします。「子供」と「大人」という表記からして、子供が大人の知らないうちに巣立つというイメージでしょうか。

『飛ぶ男』……入院先の男の意識が分裂し、ベッドに残る方と、病院を抜け出して街を徘徊する方とに分かれるという、実験的で幻想的な一品です。著者の入院体験が色濃く出たように感じてしまいます。

『樹』……芸術家である「彼」は、自らを「幹」に例え、そこから伸びた枝々に、自分の作品や妻とのことへと意識をむけるのですが……。

『風花』……入院中の男が、蒲団の中で、様々な過去の出来事を連続的に思い浮かべます。風花と呼ばれる雪に、儚さをなぞらえつつも、明るい感じもまた示されます。短い作品ですが、構成的です。

『退屈な少年』……退屈をもてあます少年「謙二」は、己の運命に身を賭けようとしています。この一編は、彼に加えて、父親の「麻生教授」、兄の「舜一」、謙二の世話をする「三沢早智子」、そして従妹の「雪子」と、この五人の視点から描かれた一節一節が織り交ぜられ、地味ながらしっかりと構築されています。そして、そこに愛や運命や死といったものが話に色付けします。謙二を中心に見ると、彼の未来がありながらも、危うい運命に身を賭ける若さの象徴を軸に、父親と三沢さんとのそれ、舜一と雪子と井口(=舜一の友人)とのそれと、二つの愛の構図が見受けられます。それぞれが、未来を向いていたり、その愛の不可能性に悩んだりするのです。

(成城比丘太郎)




廃市 (P+D BOOKS) [ 福永 武彦 ]

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