3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

引き潮(R・L・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン[著]、駒月雅子[訳]/国書刊行会)~あらすじと感想

投稿日:2017年9月13日 更新日:

  • タヒチにくすぶる三人組。
  • 海に出た三人組のとある計画。
  • ある島で彼らが出会う強大な人物。
  • おススメ度:★★★★☆

著者のスティーヴンスンは、先日紹介した『ジーキル博士とハイド氏』の作者で、ロイド・オズボーンとは、スティーヴンスンの継子です。一応本書は二人の合作となっていますが、訳者あとがきによると、実質スティーヴンスンだけで書いたもののようです。晩年の著者自身は南洋のサモアに住居を構えていたようです。だからでしょうか、本書には南洋の綺麗な風景が瑞々しく描かれています。

(簡単なあらすじ)タヒチに流れ着いた三人の白人(「タヒチで最もみじめな英語圏の三人組」)が、ある機会を得て、タヒチから出港します。三人の構成は、生真面目でちょっと心が弱いところがあるヘリック、元船長のデイヴィス、元店員のヒュイッシュです。彼らは、ある計画を立て、南米を目指して船を向けたのですが、予期しないアクシデントに見舞われます。行く手の見えなくなった彼らの目の前に、とある島が現れるのですが……。

第一部は、タヒチの浜辺での切羽詰まった生活からはじまり、うまく乗り込んだ船の中での話です。気弱な面もあるヘリックは、自分たちのしでかそうとする行為に気が咎めて逡巡するのですが、タヒチでの身に迫った危機を考え、仕方なくデイヴィスの計画にのります。一方、デイヴィスとヒュイッシュの二人は、乗船した時から、積み荷の酒を飲んだりして、急にいい加減な感じになります。この辺りで、ヘリックと二人の間に悶着が起こったりしますが、本当の懸念は、この後に三人に襲いかかるのです。

第二部では、行く当てのない彼らが到達した島での話です。そこで彼らを待っていたのは、大柄で活力あふれるおそろしい人物でした。この人物の登場のせいで、第一部の三人が、まるで何か悪事を働こうと企む不良の少年たちのように(かわいく)見えてしまいました。三人の不良たちが(ヘリックは、自分はそうとは思っていないでしょうが)、本当の悪を秘めもった大人に軽く掣肘されるような感じです。特にヘリックの気持は、この人物により、潮の満ち引きのように揺れ動きます(後にデイヴィスも)。それは心理の満ち引きのようなものです。

この小説は、特に(ホラー小説のような)怖い所はないです。スティーヴンスン自身が「これは非常に残忍かつ陰惨な話だ」と手紙に書いたようですが、そこが読み取れるかどうかでしょうか。怖い本をオススメするこのサイトの基準にあわせると、決して星4つではないでしょう。肝が冷えるようなものを期待すると肩透かしをくうかもしれません。あくまで、私が個人的に面白く読んだというだけの評価ですので、そこのところご了承ください。

(成城比丘太郎)



(楽天ブックス)

-★★★★☆
-, , , ,

執筆者:

関連記事

忘れられた巨人(カズオ・イシグロ[著]・土屋 政雄 [翻訳]/ハヤカワepi文庫) ~あらましと中程度のネタバレ

竜も騎士も出てくる正統派ファンタジー 戦争と平和、死と復讐への意味深な警鐘 スロースタートだが面白い読み物 おススメ度:★★★★☆ 世の中には「にわかファン」という言葉があって、例えば本のジャンルで、 …

怖くて眠れなくなる感染症(岡田晴恵/PHP研究所)

軽く読めるが、中身は結構重い。 身近にある、気をつけるべき病気。 海外渡航する人は特に注意。 おススメ度:★★★★☆ 感染症というのは、人間誰しもかかるし、いつ発症してもおかしくない病気です。(201 …

敗れざる者たち(沢木耕太郎/文春文庫) ~あらましと感想、愚痴

古い時代の「負けた後」の男たちのドキュメント 胸に迫る世の無常と男の意地 人生に疲れていたら、たぶん、泣ける。 おススメ度:★★★★☆ タイトルは「敗れざる者たち」となっているが、実際には「勝てなかっ …

フォレスト・ガンプ 一期一会 (ロバート・ゼメキス ・監督)

イノセントな男の数奇な人生 人生の残酷さと優しさと ベトナム戦争のシーンが印象的 おススメ度:★★★★☆ 「Run! Forest! Run!」と叫ぶジェニー。走り出すフォレストは、足に矯正器具を付け …

見えるもの見えざるもの(E・F・ベンスン、山田蘭〔訳〕/ナイトランド叢書)

科学者(や学者然とした者たち)の分析がおもしろい 降霊会や、幽霊や、雪男(怪物)や、吸血鬼など様々な題材 死ぬことがそれほど怖くないと錯覚できるホラー おススメ度:★★★★☆ この前『塔の中の部屋』を …

アーカイブ