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★★☆☆☆

忌み地 怪談社奇聞録 ( 福澤徹三・糸柳寿昭(共著)/ 講談社文庫)

投稿日:2020年1月20日 更新日:

  • 実在する怪談蒐集団体のお話
  • 糸柳と上間という二人の人物が取材した内容
  • を、取材した現代怪談集
  • オススメ度:★★☆☆☆

冒頭でこの本が怪談社という団体に所属する二人の人物の取材記であることが記される。結成は2007年とある。この二人は2020/1月現在も放映されている(WEB)狩野英考が司会の「怪談のシーハナ聞かせてよ。」の語り手でちゃんとフィールドワークをして怖い話を集めているのが特徴だ。この手の話は大体「どこかの誰か」が書く事が多いので、顔出ししている現代怪談の著者というのは貴重だ。とは言え、それがプラスにマイナスにも働いている。

この本は書き手が連盟になっているが、恐らく福澤徹三という人物が二人の話をまとめたのだろう。怪談を取材する様子を三人称で書くという変則的な体裁になっている。簡単に言うと伝聞の伝聞になっていて、ある意味新鮮だ。この手の怪談集は、普通は一人称か三人称で、取材する様子が俯瞰的に語られることはない。怪談慣れした読者には、裏側を覗いているようで、興味深いかも知れない。また、数は少ないがちゃんと写真などもあるので、それなりに信憑性は高い(ように演出されている)。

そういう意味で、創作なしの怪談を読んでいる気はした。というか多少の脚色や改変はあっても、多分、嘘はついてない。それは分かる。同時に、実録であるがゆえに、肝心のお話が全て類型的で単調なことが気になった。タクシーに乗ってくる幽霊とかホテルの怪異など、何回読んだか分からないような話も多い。しかも、それが「又聞き」で書かれているので、リアリティがあるのかないのかも曖昧だ。私はこの番組は観ていないのでなんとも言えないが、令和の世の中にこういうTV番組が成立しているのは感動的ですらある。本書でも「ホラー映画を観ても怖くも何ともないが、一般人が怖いと思う感覚を知るために行く」と書いているが、全く同感だ。私はこの本を普通の人がどんな話を怖がるのかという疑問を持って読んだ。多少、意地が悪いか。

私が本書から感じた一般受けする怪談とは、怪異とは普通に暮らしているヒトビトの想像の範疇でないといけない、その為には当たり前のことを当たり前に書くことを良しとする、というような作風だった。なので、例によって読んだ後からすぐ忘れる。「なまづま」のようなぶっ飛んだホラーは人を選ぶ。

しかし、印象的な話もある。

一つはメインラインとなる(そうなのだ。羅列ではなく、ちゃんと構成が考えられている)水難に遭う地域の取材。これは複数の短編から構成されていて、水や炭鉱、黒い人影がキーワードになるが、読み終わってみると「やはり何かある」と思わせるように書かれている。話はありきたりだが、この連作的な構成は好きだ。どこかにこの怪談を語った人がいると思うと愉快だ。連続殺人のあった禁断のアパートや水没する家などのエピソードは、なかなか面白い。失礼だが、ここだけやる気を出して書かれている気がする。

もう一つは、主に瑕疵物件を公開している有名なサイト「大島てる(WEB)」を主軸にして取材されている話。水面下では話がついていると思うが、これがタイトルの「忌み地」の由来でもある。中でも出色の出来なのは、マンションに出る坊主頭の半裸の男の幽霊の話。タイトルは「うなる男」。これは単純だがインパクトがあった。他にも信仰宗教系の話などもあって、こうやって振り返ってみると、それなりに楽しんでいた気もする。確かに実話っぽい。

とはいえ、本書から感じるのは「超常現象などない」という茫漠とした印象だ。それは主役の二人も分かっている。二人とも怖い体験はしてないし、現在進行形の事件には関わらない。見事だ。つまり、怪奇現象は「生き物」ということ、はっきり言えば人の仕業なのである。それが証拠に縄文人や平安朝の幽霊なんて誰も見ない。それぞれがそれぞれの体験の中で、怖かった話を語っているだけ。それを楽しむのが怪談というエンターテインメントである。あれ、当たり前のことを書いてるな。

私も同じ考えで、犯人が生きている血生臭い「事件」に首を突っ込むなど、愚の骨頂だと思う。安全が前提の怖い話を聞きたいのであって、本当に怖い・危ないと洒落にならない。ある意味、この嘘臭さは「実録」怪談の様式美でもあると思う。私自身は、定期的に読みたくなるこういう微笑ましい怪談集は大好きである。ただ、サイトを通じて積極的に人にまで勧めない、というだけだ。まあ、中身はない。

と言う私も、恐らく30年以内に必ず死ぬ。その時、もしも化けて出てしまったら「すいません、幽霊はいました」と謝ります。その時はどうぞよろしく…。

(きうら)


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