★★★☆☆

忌録: document X Kindle版(阿澄思惟/A.SMITHEE)

投稿日:2020年4月27日 更新日:

  • まあ、中途半端なフェイクドキュメント
  • 実話ベースを謳っている
  • 少々狙いすぎか
  • おススメ度:★★★☆☆

実際起った事件と思しき4つの事件「みさき」「光子菩薩」「忌避(仮)」「綾のーと。」を元に、出来得る限り「現実」っぽく再現したフィクション・ノンフィクションの間をさ迷う作品…というか、現実に作者の妄想とも言うべきフィクションを混ぜている。建前は全部実話だが、現実的には実話をベースに怪談っぽく演出したというべきだろう。というか、そうでしかない。

「みさき」はある少女の失踪事件を扱っている。誕生日前日に、なぜか突然、神社にお参りした少女が両親の目の前で失踪。僅か数分の出来事だ。話はその後、霊媒師を呼んで、少女の霊を呼び出すあたりから、話はスーパーナチュラルに展開。ありえない現象が連発し、血みどろ惨劇に…。

新聞記事や失踪現場のレポートを交え、信憑性を増そうとしているのが前半。これは好意的に見て、いい演出だ。写真などもあるし、楽しく読めた。その後の霊媒師云々は、三流Jホラー。一応、夫婦の狂言殺人、少女の障害による虐待などを伺わせて、実話と妄想の間をさ迷わせようという意図は分かるが、調子に乗って霊媒師のシーンを盛り上げたせいで、嘘くさくなってしまった。いい解釈をすると、楽しいエンターテイメントになっている。

しかし、真に受けてしまう人がいると思うので、ご注意を。と、思ったが、このインターネット全盛の世の中に、これが事実だと思う人はいないとは思う。実話怪談系になれた読者にはそこそこ楽しめる内容になっていると思う。ちなみにググったがこの事件自体は本当にあった失踪事件である。

「光子菩薩」は、謎のまじない師が配ったお札を見た人間全員が死ぬという話題。その被害から守るために、「目玉くり抜き殺人魔」や謎の政府御用達・人体実験上等の科学者集団が登場する。特に「専門家集団」はナチスか731部隊もかくやという方法で「お札」の危険性を実験するが、完全に小学生向けの怪談集の作風。やりすぎだ。

しかし、である。この章自体が「呪い」になっていて、私は肯定できない。簡単に言うと「この話を知ったら呪われる系」の読んだら後悔させる作風になっている。これは現代怪談の編み出したパターンの一つであるが、プロがこの手法を駆使するのは頂けない。ないとは思うが、もし、少しでも信じてしまう人がいたら不幸になる。ひょっとしたら、自分は死ぬかもしれないと。

こういうのが物書きが時々使う「呪い」であり「テクニック」、言い換えると「言霊」「恣意的誘導」「悪意のある嘘」「詐欺」「ペテン」ともいう。完全なフィクションなら、信じる方が無知だと言い切れるが、実話風に展開するのは悪質だ。

こういうペテンは嫌いなので、ネタバレしてしまうが、この「お札」を見たもの全員が死ぬと言われている…それを再現した画像が本書に載っている。れを私はたっぷり3分間観たが、何の問題もない。

ノンフィクションを気取る作家が嘘を吐くのはいただけないなぁ。この程度で、ひっかかるのはローティーンだけだと思うが、一応、お子様は読まない方がいいぞ。悪い大人はいるもんだ。「再現した」と逃げ道を用意しているのも、嫌なやり方だ。

「忌避(仮)」は沖縄にIターンした夫婦と子供が「霊障」で死ぬという話。Wordのファイルやメールのやり取り、科学的な解釈で現実味を出そうとしているが、本文のテキストは完全に出来損ないのキングの短編。ペットセマタリーをちょっと思い出した。

この話は不出来で、グロテスクな安っぽいホラーになっている。そうなると、冒頭の仕掛けも面倒くさいだけで、普通にホラーを書いてくれた方が良かった。

「綾のーと。」は幽霊の出る部屋に住んでしまった大学生が徐々に精神を病む様子がブログの再現という形で再現されている。全体的に「おっさんが頑張って書いた女子大生の文章に感じる点」以外は、普通によく出来ていると思う。ブログやYouTubeのリンクまで貼っているが、不気味な男の「霊」画像まで掲載してやる気満々。素人でも動画を一発加工なスマホ・デジタル社会でYouTubeはなかろうが、とは思うが、努力は認めたい。

以上、辛辣な感想に見えるが、怪談を読み慣れた人なら「生温かい」気持ちでそこそこ楽しめるはず。厭な言い方をすれば、素人さんを騙そうとするのはいけないことだが、それを知っていれば、大丈夫。稚拙な呪いをかけようとしてくるのは、怪談作家の悪い癖だが、それは許してやってほしいとも思う(ほんまもんは、呪いと気づかせずに呪ってくる。これはマジでヤバイ)。

ただ、不謹慎を承知で言うと、今の現実がホラーを凌駕している以上、こんな十人そこそこが死んだ程度では、何ともない。ていうか、通勤電車に乗る毎日がよっぽどホラーだよ!(20200423)

(きうら)


-★★★☆☆
-, , , , , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女 (水野良/角川スニーカー文庫)~あらましと感想

シンプルな冒険ものファンタジー 熱血主人公戦士、エルフの美少女、頑固なドワーフに思慮深い魔術師…… 現代ラノベ系ファンタジーの開祖と言える作品 おススメ度:★★★☆☆ 幼いころから本を読むのは好きだっ …

古井由吉「木曜日に」を読む

円陣を組む女たち(古井由吉/中公文庫) 古井由吉の処女作「木曜日に」を読んでみる。 はじめの頃から「古井由吉」は「古井由吉」だった。 分明と不分明をかきわけながら確かめる存在のありどころ。 おススメ度 …

暗い暗い森の中で(ルース・ウェア[著]・宇佐川晶子[訳]/ハヤカワ文庫) ~感想と軽いネタバレ

あるパーティーの夜に起こった事件。 一人の女性の視点から解かれていく謎。 人間関係(特に女性同士のもの)の怖さ。 おススメ度:★★★☆☆ ストーリーは、作家である「わたし」こと「ノーラ」のもとに、一通 …

苦役列車(西村賢太/新潮文庫)

赤裸々で陰鬱な青春物語 タイトルほど仕事が苦役でない 寧ろ「生まれ」についての苦悩 私はかねてより、労働の本質を描くと絶対ホラーになるのではないかという意見を持っており、それがこの本を選んだ理由だ。奇 …

メメント・モリ(後藤明生/中央公論社)

「私の食道手術体験」という副題 自らの「入院雑記」を基に再構成したもの 後藤式に綴られる入院体験など おススメ度:★★★☆☆ 【私と後藤明生との出会い】 後藤明生(ごとうめいせい)は、日本の小説家で、 …

アーカイブ