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★☆☆☆☆

怖い話を集めたら 連鎖怪談 (深志美由紀/集英社文庫) ~ややネタバレあり

投稿日:2020年11月9日 更新日:

  • 怪談を集める作家に降りかかる災難
  • 5つの呪いの顛末
  • 個人的に苦手な作風
  • おススメ度:★☆☆☆☆

あらすじは簡潔だ。官能的な携帯ノベルで一度だけ当てた30代の女性作家が、知り合いの元編集から「怪談アプリ」に使う話の収集を頼まれる。編集者に紹介されて体験談を聞くうちに彼女自身もおかしくなっていく……。

タイトルだけで選んだので仕方ないが、徹頭徹尾、作品とは合わなかった。客観的に見れば、これは女性視点の男性観を怪談で表現したものだ。端的に言って、私はそういう文章がとても苦手だ。なので、以下はこの小説の正当な評価とはならないだろう。

差別、と受け取られることは覚悟の上であるが、一般的に男性と女性の性的価値観は違うと思う。生物的に明確な区分があるので当たり前かも知れないが、女性の思う官能的な表現と男性的なそれは違うと思う。まず、私がこの小説に居心地の悪さを感じるのは、「昔一度だけ関係を持った男からの依頼をうける」という主人公の物語スタート時の設定である。こう言うと身も蓋もないが、私はその事実は「隠すべき」と思うのである。この辺の感覚がまず違う。一般論で申し訳ないが、男性視点の作家なら、そんな設定を持ち出せば、それはもう完全にその方向に振り切るだろう。つまり官能小説になる。

そういう意味では、本書も最初のエピソード「御嫁様」からして、古典的な性的虐待を扱った話であるが、話のクライマックスがズレているように思う。本書の書き方が浅いのもあるが、焦点が主人公の感じ方にあって、肝心の虐待の様子がフワフワした表現に留まっている。謎の仮面の儀式について詳しく知りたいのだが、なんだか上辺だけのグロテスクな設定や感情だけをなぞって、「はい、終わり」という感じだ。

つづく「黒い顔」もよくある「死ぬ運命にある人の顔が黒く見える」人の話であるが、ここに登場する人物がとにかく共感できない。何をしているのかよくわからないが、とにかく仕事ができる溌剌とした女性とヒモ。そして、花街と娼婦のタタリ。この構成が嫌らしい。とにかく嫌だ。書いてしまうが、ある種の女性特有の男女観・生死観が垣間見えて読むのも嫌だった。

本文でも触れられているが、過去に死んだ人間のタタリというなら都会はそこらじゅうそうだし、人類が生まれてからのことを言えば、人が死んでない土地ななんてない。それが特定の人に祟るなど、まさに嘘くさい。死人の呪いが胡乱なのはこういった「無症状」の大量の例を無視している点である。

「揺れる」本作最大の落としどころの物語であり「転」に当たる部分であるが、前話以上に登場人物が「嫌」なのである。当然のように不倫するおとなしい妻と、それ以上におかしい「SMを受け入れる女」同士の同じ男の取り合いという構図には吐き気すら感じる。特に前者の設定が嫌だ。最初に「男と寝た」だの「結局私は関係を持った」など、私からすればこれは「男性蔑視」的な表現で、これを作品の基本的な雰囲気に織り交ぜるのは気に食わない。とにかく合わないのだ。

同じことを繰り返し書いているので、感想もここまで。一応最後まで読んで落ちも読んだが、昔流行った「不倫もの」一歩手前の怪談は誰にも勧めたくないし、思い出したくもない。

謎の義務感で紹介したが、久しぶりに読んで後悔した作品だった。ただ、フォローすれば、作者の感性に共感できる方なら、もう少し普通の怪談集として読めるかもしれない。

(きうら)


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