★★★☆☆

怪書探訪(古書山たかし/東洋経済新報社)

投稿日:2018年3月7日 更新日:

  • 古書蒐集に心血を注ぐ著者によるオモシロ話
  • 古本が取り結ぶ縁ですね
  • 探偵小説とクラシック音楽と
  • おススメ度:★★★☆☆

タイトルの『怪書探訪』とは一体どういう意味なのだろうか。字面だけから判断すると、「怪しい書(本)」を探し訪ねるということだろう。まず「あやしい」を「妖しい」と書くと、急に妖艶な感じがして、なんかエログロな本を探し訪ねるという感じがするが、もちろん本書はそんな内容ではない(取り上げる本には、内容的にそういうのもあるが)。なんとなくニュアンスで分かるかと思うが、要は、(主に)「奇書」といったものに分類されるような、トンデモ・ヘンテコな本を、コラム的に面白おかしく紹介したのが本書である。ここで取り上げられた「書物」そのものをほとんど、いや全く、私は読んだことがない。これはどういうことかというと、本書で挙げられた“タイトルそのもの”は読んだことがあっても、ここで取り上げられる“古書そのもの”を読んだことがないということを意味している。そういった意味で、古書そのものにそんなに興味のない私には興味深いものが多かった。

まず冒頭は、トーマス・マン『ブッデンブローグ家の人々』(原書)にあった、マンの「献呈識語署名入り」をめぐる話から。この「識語」というのがマンの真筆であるかどうかの判定から、そして、それが真筆と確定してからの、いったい誰に対しての献呈なのか、なぜこのような古書が日本にあるのかを探る過程は、さながら推理物を思わせる。とは言え、謎が解けてしまえば、あぁだったら日本の古本屋にあってもおかしくないよね、という結果なのだが。しかし、こうしたことを探ることが「書痴」にとっては「冒険」であり、また、古書好きにとってはたまらない時間なのだろう(それはよくわかる)。さらに付け加えると、クラシック好きの著者にとっては望外の喜びをもたらす結果になった模様。

著者は自ら「書痴」と名乗っているが、まさにこうした人こそ「書痴」と自称するにふさわしい。別に名乗るのに何の資格もいらない「書痴」だが、書物という物体(主に古書)そのものを偏重したところは、たとえそれが探偵小説など一部の分野に限定したものではあれ、ああこういう人こそ本当の本好きなんだろうなと思う。なにせ、名前が「古書山たかし」である。「古書」の山がうず高く積まれた家で生活していることを表すこの名は、まさに「名詮自性」であり、その居住環境は“書痴肉林”といっていいだろう。命と人生をかけて古書に取り組むその姿勢は、「日本SF史上最大の怪作」という『醗酵人間』を自作(製本)してしまったエピソードに関する情熱からもうかがえる。

本書のおおまかな内容は、著者自らの古書にかかわる挿話や、古書に興味を覚えるようになった契機や、幼少期に読んだという妙な翻案物に至るまで、種々雑多である。主に探偵小説やクラシック音楽にまつわる話題が多いので、その手の人向けにはものすごい楽しめる、だがしかし、単なる本好きの人も楽しめる。田辺聖子や井上靖といったメジャーな人物による書籍も出てくるし。ただ後半になると、原作と翻案物の内容的な異同や書誌学的考察も含まれるので、やや読むのが面倒になるきらいもなきにしもあらずだが、私的には興味深かった。

また、いわゆる「痕跡本」という本に書かれた前の持ち主の書き込みや、本に挟みこまれた何かの切り抜きに関する話題もある。私も古本購入時に、他人の書き込みの「痕跡」を楽しむことはあるが、ある時、新古書店で、比較的最近出版された文庫に、男性から女性に向けて「今日、君にあえたことに感謝を」などといった文言が英語で綴られているのを見た時は、そっと閉じましたが。

とくにオモロカッタのは、(主に)海外原作の名作と言われるものを、変な風に翻訳翻案してしまって、迷作になってしまった本の紹介だろう。とくにポーの名詩がどのように改変され、またその筋書きを、実はあるB級ホラーから勝手に頂戴したものだと気付いたといったところ。著者は、これを含む「仰天本」の内外迷作を紹介しているが、こういった読み方こそ本当の(?)古書の楽しみ方なのではと思う。ただ珍しい古書を手に入れて喜ぶだけでなく、稀覯本を安く手に入れたと喜ぶだけではなく、一読してクソみたいな内容の本を、オモシロおかしく読むことの秘訣を教えてくれる。

古書との出会いは一期一会である。そこには、単なる文字情報としての本ではなく、書物そのもの(その稀少性、その古さ、装丁の色合いなどなど)を愛するというコレクターの苦労や喜びがある。またその喜びは、失敗などのかなしさ悔しさと表裏一体でもある。本書にも、悔やんでも悔やみきれないエピソードが書かれている。その悔しさには、古本を購入することを生涯の唯一の欠くことのできない趣味にする者ならば、大いに賛同することだろう。

(成城比丘太郎)


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