- きわめてノーマルな現代怪談短編集
- 様々な怪談パターンを網羅
- ただ、基本的にはこれまでの怪談集と同じ
- おススメ度:★★★☆☆
このサイトでもこういった現代を舞台にした短編怪談集は結構紹介したと思う。私も紹介していない本も合わせると、もう何冊読んだのか良く分からない。そういう意味で言うと、この怪談集もこれまでのフォーマットに則って極めて正しく(?)書かれている怪談集である。長さもちょうどよいし、文章も読みにくいということもない。少し長めの因果話もあれば、さっと終わる短い怪談もある。後半に重い話を持ってくるなど構成も工夫されているように思う。
ただ、である。もし、読者の方が初めて怪談集を読むのなら結構楽しめると思うのだが、それなりに冊数をこなしている方には、正直「暇があれば……」という内容ではないかと思う。この手のお話のフォーマットと言えば、
- 何の関係もないのに怪奇現象に巻き込まれる(たいていは古いホテルなどで幽霊を見る)
- 幽霊が見えたり、凶事を予知する「体質」の人が、経験するどうしようもない出来事
- 死んだ人(身内や先祖)からメッセージが来る
- 肝試しをして祟られる
- 過去の因縁によって子孫が祟られる
と、いうようなものであって、それ以上でもそれ以下でもなく、よって怪奇現象がどのようなメカニズムで起っているかはたいして問題にはならない。この世界では、日常的に幽霊が登場し、人に祟ったり、あるいは時には救ってくれたりする、という世界観なのである。本書もこのフォーマットからは大きくは外れていないと思う。むしろ、基本に忠実に描かれている
例えば、オープニングにある「生首の予言」は3のパターンで、昔から生首が現れると、親戚に不幸が起こるというパターン。しかし、ある時、「摂津の国、死に候」と声を出したらしい。ここで阪神・淡路大震災がリンクしてくるのだが、基本的にはこれでおしまい。ここでのポイントは、黙って出てきて身内の死人の予言だけをしていた生首が突然、「国が死ぬ」というところだ。まあ、ゾッとするならここだろう。生首はザンバラ髪をしているのだが、なぜ、そうなのかは想像するしかない。そういう話があったというだけである。
個人的に印象に残ったのは、「私、どんな感じ?」という話である。これは、怪談ではあるのだが、上記のパターンとは少々外れている。タレントの北野誠氏の伝聞として書かれているのだが、ネタバレしないで言うと「事故」の話なのである。作者自身も「この話が怪談になるのかどうか、微妙なところだが」などと書いているので、印象に残ったのだと思う。まあ、ひどい事を言うとこの話だけが鮮明に頭に残っていて、残りはこれまで読んできた怪談とごちゃまぜになって、読んだ直後から忘れていく始末。
死期が見えるせいで医者を止めた話や、母親の幽霊が子供を守る話とか、色々あるのだが、ほとんど覚えていないというか、上記のパターンに吸収されてしまったと言える。
最後のエピソード「七代祟る」は一番長く、先祖の因果によって、子孫が苦難にあう話だが、正調因縁ばなしという感じで、読んでいる最中はそれなりに興味深いのだが、読み終わるとほとんどディティールを忘れている。
褒めているのか貶しているのかよく分からなくなってきたが、怪談というものに対して過度に期待をしなければ、読み物として、それなりに楽しめるのではないかと思う。そういう意味ではプロの怪談作家らしい本で、狙いどころを間違いなければ、損はしないのではないだろうか。ちなみに「黄泉からのメッセージ」という副題にあるように、死人からのメッセージがらみの話が非常に多い。私は残念ながら、その手のメッセージを聞いたことが無いが、「場」が整えばそんな声が聞こえるのも人間だと思うので、あながち馬鹿にできないとは思っている。
と、いう訳で結論、怪談擦れしていない方にはそこそこおススメ。もうこの手の話は読み飽きたという人には、おススメできない。この手の話が好きで、新刊が読みたい方は、気分次第でどうぞ、という感じ。ただ、ちょっと前にも書いたが、幽霊や霊感を真に受けている人には、怖さが倍増するので、その点はご注意を。
(きうら)