- 実話方式で語られる短編怪談集
- 過去の著作の補完的位置付け
- 謎のエスケープから始まる
- おススメ度:★★☆☆☆
検索してみるとインタビュー記事から、著者の方の写真も出てくるので、私は一応、実在の人物が書いた怪談という視点で感想を書きたい。なぜこんな前置きが必要かというと、著作内にナビゲーターとして著者自身が登場するからである。
以前に紹介している通り、私はこの著者の怪談は類書とは一味違う出来だと思う。本当に小説ではないような気がする文体と、オチの外し方がうまい。実体験である、という前提を考えると「怖い」と思う人も多いと思う。不合理な話と合理的な怪談がうまくミックスされている。
訳もなく呪われる話もあれば、禁忌を破って報いを受けるもの、単なる怪奇現象を語るもの、家族や恋人の不審な行動に巻き込まれる話などがある。それに著者の実体験としての怪談が混じっている。本業が拝み屋(と書かれている)ので、刑事が扱った事件のな話を書くようなものだろうか? 最初の前提が事実とすれば、その点も類書とは異なる点だろう。
内容については、軽めの実話会談集で、一話あたり数ページから10数ページで終わる。特徴としては微妙に内容が連鎖していて、当たり前だが、著者が構成を考えて執筆していることが分かる。
テーマは、呪いや祟りなどを扱ったものが多い。予知などもあった。基本的に霊的存在は実在し、それによって最悪死に至るというスタイルである。話のトーンは別段暗くはないが、人が不幸になって明るくなる訳もなく、印象としては不気味なエピソードが多いと思う。
そういう訳なので、今回、内容については冒頭以外ネタバレは行わず、以上で雰囲気を掴んでもらえれば良いかなと思う。
今回、注目したいのは、作中に登場する著者「私」の存在である。
ある意味、衝撃的なだったのは最初の「陽の目を見るモノ」というモノローグに近いエピソードである。
著者は次から次にやってくる怪談を書く仕事についてうんざりしているようだ。引用する。
忙しいのは大変結構なことなのだが、これはある意味、不幸なことであるとも言える。
冒頭で、文学的な意図もなく、本音として憂鬱な気分が書かれている本は相当珍しい。
そこからどう話が展開されるのか興味を持った。読み進めると、本作が過去作の著作途中で、収録するのを諦めたエピソードが中心だということが分かる。備忘録なので、本来の意味であるということだ。
正直に言って、最初の愚痴っぽい導入といい「この過去の寄せ集めじゃ無いよ」アピールは不要なのでは無いだろうか?
嫌々会社や学校に行っているという人はたくさん見る。小説家も仕事なのでそういう気分の人もいるだろう。しかし、それを新作の冒頭で嘆くことだろうか?
極端な話、嫌なら書かなければいいのである。人気の長編小説の続編ならいざ知らず、過去の作品から漏れたエピソードを集めた怪談集が出ようが出まいが、著者と出版社以外にはどうでもいいことだ。
私はこの導入を読んで大変驚いたので、思わず全て読んでしまったが、よく考えると、そんな本は人に勧められない。
作中、著者とパートナーの体調が悪いという記述もあり、そのことについて読者から不要だと言われたという「お便りコーナー」のような話も書かれている。そんなことをしてどうなることか。
全体的に力の入らない、かと言って投げやりでも無い、どこか乾いた疲労感を感じるような、そんな一冊だった。この感想を書いていて思ったのだが、著者は本当に呪われてしまっていて、悪霊が書かせた文章かも知れない。あるいは不幸な話を読んで悲しい気分になる人が減るように、天使が舞い降りて勝手に書いたのかもしれない。深いな。
(きうら)