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星の王子さま(サン=テグジュペリ[作]・内藤濯[訳]/岩波文庫) ~ベストセラーを読む(3)、紹介と感想

投稿日:2017年8月12日 更新日:

  • 「岩波文庫版」としての評価です。
  • 作者のキャッチ―なイラストが効果的。
  • 王子がいろんな人(動物・もの)に出会っていくという流れ。
  • おススメ度:★★☆☆☆

「ベストセラーを読む」第三弾は、言わずと知れた有名作の『星の王子さま』です。子どもだけでなく、大人にも愛読されていて、日本はおろか、世界でもベストセラーになっています。発行部数(編者注・1億5千万冊と言われる(Wiki))は言うに及ばず、『~の王子様』などの類似作(品)をうみだしたように、後続の作品や商品名に多大なる影響を与えています。そういう意味では、単なるベストセラーの域を超えて、超ロングセラーとでも呼びたくなるような、ものすごい作品であるようです。広く知られた作品ですし、そう難しい内容でもないので、詳しいあらすじは省きます。

単純でいて心に刺さるタイトルや、読みやすい文章ということや、作者本人が描いた挿画が、ベストセラーの一因でもあるように思います。カバーイラストとして、小さな星に佇む王子の姿が描かれています。王子の他には、花と木と、煙を噴き上げる(火)山くらいしか星には見えず、かえって王子の孤独感がにじみ出ているように思います。それが、より一層このイラストのもつ力を感じさせます。さらに、本文に所々添えられたイラストも非常に効果的で、文章と絵とを見比べることによって、読者はより深くこの世界に入り込むことができるように思います。

ここまで書くと何も欠点がないように思われますが、哲学者の中島義道は、本作を哲学的ではないと断じています(『哲学の教科書』)。中島が言う「哲学」とは、子どもが発するもっと単純な疑問がもつもののことです。例えば、「なぜ空は青いの?なぜ夜は暗いの?」とか、「全身」で問いかける態度のことです。王子さまは、知らないことを知ろうとはするのですが、それは中島のいう哲学とは違うのでしょうねぇ。まあ、哲学的かどうかはどうでもいいのですが、中島は「この童話全体に通奏低音のように流れている『大人批判』はまったく子供らしくない」と書いています。この童話が「子供」向けであるのか、「子供」に読んでほしいものであるのかを考えると、確かに『星の王子さま』の「大人批判」は子どもっぽくありません。というか、私が思うに、ここに書かれている「大人批判」は分別がありすぎる大人批判ではないでしょうか。大人が好みそうな「(子どものする)大人批判」というか、よくテレビなどで子どもがしっかりした口調で大人たちを批判して、それを見た大人が《いやぁ、しっかりしてるなぁ》と感心した様を見たときのような、違和感をおぼえます。それは、中島が言うように、子供が大人にそう言わせているからでしょう。この童話の大人批判にはそれに通じるものを感じるのです。

中島は、はっきりとこれを「大人の童話」と言っています。小島俊明(詩人・フランス文学者)の『おとなのための星の王子さま』(ちくま学芸文庫)では、そのタイトル通り、『星の王子さま』を、むしろ大人の鑑賞に堪えるものとして、様々な読み方を提示しています。小島は主に詩的メタファーやアレゴリーとして細かく読み解いていきます。王子さまと星の「花」とのやり取りを、「恋愛物語という説もある」というのは、なるほど、私が、ここが好きなのはそうだからかもしれない。砂漠での、「ぼく」との抒情的なやり取りを、詳しく解説するところもまた、私の腑に落ちました。他に、原文の「羊」のもつ意味とか、「狐」は砂漠を行く「ジャッカルとフェネックの合いの子のような狐」であるとか、翻訳する身だからこそ読み取れるものがあるのだろうと、参考になりました。

さて、最初の方で、この童話の読みやすさをあげましたが、実を言うと、この「岩波文庫」の内藤訳(以前は岩波少年文庫)は、久々に読んでみて(おそらく二十年以上ぶり)、決して読みやすいとは思えませんでした。上記の『おとなのための星の王子さま』には著者(小島俊明)による翻訳も載っているのですが、それと比べると明らかに、岩波の内藤訳は読みにくい部分があります。日本では、この内藤訳が長らくベストセラーであったので、ここで取り上げたのですが、今では、他の出版社からも翻訳が出ているので、読むならそちらの方がいいでしょう。だから「岩波文庫版」のおススメ度は低くなっています。

どこがダメなのかというと、まず(一般)名詞でよく分からない部分がありました。例えば、内藤訳では、「うぬぼれ男」となっているところが、小島訳では「見栄張り男」となっていて、小島訳の方が、より文脈的に意味が取りやすかったです。『おとなのための星の王子さま』でも、内藤訳に疑義が呈されているところがあり、文庫解説では、両方の訳を比べて、小島の丁寧な翻訳について書かれています。私は、原文(フランス語)も、他の翻訳(新潮文庫・光文社古典新訳文庫)も読んだことがないのですが、(何度も書きますが)岩波文庫版を読むのは避けた方が良いでしょう。紹介しておいてなんですが、あくまでもこのブログ記事は、岩波文庫版の評価ということですので。

さらに悪いことに、岩波文庫版には、訳者(内藤)の子息と思われる人物が書いた「『星の王子さま』備忘録」という短文が、岩波書店の冊子『図書』より転載されていて、これが、まあ何というか、父親の自慢話や思い出話に、タイトルにまつわるどうでもいい話とかで、こんな文句を解説代わりのようなものとして載せなくてもいいだろうと思うのです。私が、この翻訳のファンなら、この文章を読んだら、不快感ですぐに本書を売り払うでしょう。

以上、『星の王子さま』の周辺についてだけみてきましたが、本書は、私的には、王子の孤独や、王子と星の「花」とのやりとりや、「ぼく」との友情など、印象に残る部分はあります。全体に透き通った水の感じで、こんなに毒にも薬にもならないように書けるのは、すごいと思いました。皮肉ではありません。余談ながら、サン=テグジュペリについては、『人間の土地 (Ama)』(光文社古典新訳文庫ほか)のほうが個人的には好きです。

(成城比丘太郎)



(楽天ブックス)

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