★★★☆☆

最近読み終えた作品(2018年4月) ~黄色い雨/戦う操縦士

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黄色い雨(フリオ・リャマサーレス、木村榮一〔訳)/河出文庫)

戦う操縦士(サン=テグジュペリ、鈴木雅生〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

  • 最近読んだ海外文学の感想です。
  • 朽ちていく村と運命を共にする「私」(『黄色い雨』)。
  • サン=テグジュペリのマニフェスト(『戦う操縦士』)
  • おススメ度:★★★☆☆

【『黄色い雨』についての変な感想】
少し大袈裟かもしれませんが、それを読んだ後に、何も話したくないし何も書きたくない、読後の雰囲気にずっとひたっていたい、そういう感想を抱く作品があります。本作の読後感にはそれに近いものがありました。

実際にあったといわれるスペインの山村から村人が次々に出ていくという、過疎化していく村にとうとう独り残されることになった「私」。滅びゆく村と運命を共にする孤独と狂的な幻想への過程が、すばらしい翻訳によって、まるで雨の粒が時間と空間を穿つように読み手の心にしみいるのです。

あらゆる死を見届けた後、「死と荒廃に支配された」村で独りのこされた「私」は、孤独と狂気につながる不安を追いやるための心理的な壁をつくる。しかし、黄色い雨が村を崩壊させていくのと同時に、「私」の状態変化とともに現れる幻影のような亡霊によって、記憶は黄色い雨のスクリーンに映し出されてしまう。時間は、執拗に振り続ける黄色い葉のようにすべての物質と精神を消し去ろうとするが、燠火のような記憶は深層からわきあがる。
すべては錆びつき、死にゆき、何ひとつどうしようもないまま、村の抱える滅びへの傾斜は夢幻としての村人を取り込み、痛切な最期への予兆をはらみながら、透明化のかなしさを帯びた「私」の瞳は、「私」の亡骸を発見するものを見つめるその時まで、何も映りこむことのないその光彩を輝かせて、もう還ることのない混迷さを織りこまれた記憶とともに、棺が開かれるのを、永遠の遮断の中で待ち続けることだろう。

おそらく、本作品は、人によっては何の感興ももよおさないだろう、そういう作品です。

本文庫に収録されているのは、他にふたつの短編。鉄道が閉鎖になり、踏切小屋での仕事を奪われた男のかなしくもユーモラスな抵抗を描いた「遮断機のない踏切」。もうひとつは、作者の小説観がみられる「不滅の小説」。いずれもおもしろいです。

【『戦う操縦士』の曲解的な感想
第二次世界大戦が勃発し、軍用機パイロットとなったサン=テグジュペリ。彼が、「私」という語り手に仮託して、己の「信条」を述べていったのが、この作品です。ドイツ軍がフランスへと侵攻するなか、偵察飛行に赴くことになった「私」は、敵の勢力範囲内である上空で危険に見舞われつつも、戦闘機と一体化になったという感覚を伴いながら任務を果たしていくことになるのですが、戦闘のことだけがメインに据えられるわけではなく、ときに「私」は上空で回想にふけったり、地上を逃げる避難民におもいをよせたりします。
戦闘場面に重きを置かない描写は、かえって戦争というものをくっきりと浮かびあがらせる効果を持っています。また、「私」はこの戦争に何らかのアクションを起こすことによって、当時の読むものの連帯を訴えようとします。その「行動」と、時折挟まれる「思索」の軌跡を含む、上空での緊迫感のある搭乗員とのやり取りが、この作品に流れを生んでいるようです。

「私」の考えは、「肉体」の危機により、「死」への見方が変わるところまでいく。「人は死ぬのではない。これまでずっと死を怖れていると思いこんできた。しかし、実際に怖れているのは不測の事態、爆発だ。自分自身を怖れているのだ。死は?いや、怖れていない。死に出くわすときには、もはや死は存在していないのだ。」というとき、人が死ぬときにはもうそこには死への怖れが消え去ってしまうように、本当に怖れるべきものは、「(肉体を失うという)死」そのものではなくなる。死が完全に人へと訪れるときには、「(意識の)死」そのものはもはや現前することはないのだから。自分自身の「(肉体の)死」を経験できない時に、その者の前に残るのは、爆発を体感したときの、自分が「生命」を宿している瞬間を知ったという、昂揚に繋がる。
このことを伝えて、人々と「交流」するために、そのマニフェストとして書かれたのが、本書ではないだろうか。最終的には、「個々の人間の総体」というものを揚棄した果てにある、「《人間》」としての連帯を訴えかけるものになっている。本書の後半は、この「《人間》」になることへの呼びかけが、述べられていくことになる。

(成城比丘太郎)



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