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最近読んだ本【2019年4月】~読書メモ(37)

投稿日:2019年5月6日 更新日:

  • 読書メモ(037)
  • 4月に読んだ本
  • エッセイ、社会学、文学、ノンフィクションとか
  • おススメ度:それぞれ

【はじめに】

今月(4月)は、なぜか例年ほどヒノキ花粉の花粉症がひどくなかったので、いつもよりも読書にいそしめた。これは、スギ花粉がひどかったせいで、ヒノキアレルギー反応がそうひどく感じられなかったからか。まあいずれにせよ、流し読むも含めてだけど、けっこう読めた。ここに書くのはその一部です。

【読んだ本について】

・森下雨村『釣りは天国』(小学館文庫)
[四月上旬の、すこし霞がかった光景が続き出したある日、これまたうすくはかれた雲のなかからぼんやりさしこんだ昼の光が横溢する、そんな川沿いを歩いていると、急に開けた公園には桜の木がいくつも並んで花々はささやきかわし、その木々の下の方、つまり川に落ち込んでいく方に向かって何人かの釣り人が、陽気な虫のように這い出してきたものか、夢のように糸を垂らしているのが見えて、そっと近づいていくと、その中の一人はウキの方は見ずに、手元の文庫本を熱心とはいえない容子でながめていたので、とつぜん失礼ですが何を読んでいらっしゃるんですか、と訊くと、その人は深くかぶった帽子を少しも動かさずに、森下雨村です、と答えてぴくりともせず、私は、そうですか面白いですか、とさらに訊くと、その人は頭を下に向けたまま、まあまあですねここには釣りのことが書かれてるんですがこれといってとくに面白いところはないですがこうしてアタリがくるまでの間にボーっとしながら読む分には丁度よいですねでも著者の評伝はちょっと面白いですがしかし最後の解説は蛇足ですねいらんですよこの解説はとはいえねえ・・・、とその人の話はやむことがなさそうなので、私が、お前の話長いねん、とその人の頭をはたくと、その釣り人は文庫本を持った体勢のまま目の前の淵の方に頭からつっこんで川へ沈みこんでいきそうになったので、これはしまった、と思ってよく見ると、その人は実はカカシだったのでした。
さて、著者の森下雨村は、「新青年」の創刊編集長で江戸川乱歩や横溝正史らの推理小説家を発掘育成し、自らも作品を発表した人物。人生の後半は、郷里の高知県に戻って大好きな釣りや、晴耕雨読の生活にいそしんだ。戦後は、けっこう苦労した模様〕

・大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)
[本書の内容は、著者が、主に西洋(西ヨーロッパ)の、哲学者から社会学者までの理論を、(著者自身の考える)「社会学」の、その誕生から発展として通史的にみていく。どうやら、出版社での講義を基に書かれたものなので、かなり分かりやすく書かれている。「直感的」にわかるようにと、色んな具体例を挙げながら講義していくので、初心者にも非常に入りやすい。タイトルは堅く思えるが、この著者にしては分かりにくい抽象化をあまりせずに、でも肝心なところはおさえつつ、解き明かしていく。現代のものについては詳しくは書かれていないけれども、現代までの社会学という学問の流れ(とその批判的継承)をたどることができる。学生さんにも、一般のひとにもわかりやすく読める。

もし私が書店の店員だったとして、お客から、何か社会学の全体ををざっとおさえられる新書みたいなのないですか、ときかれたら、とりあえずこの本を勧めて、これ新刊ですけどどうですか、いやこれ分厚いでしょ600パージ以上あるじゃん、いや何を言ってるんですかこれくらい読まなくてどうするんですか、いやこんなんじゃなくてもっと簡単なのない、いやねえあなた学生さんならこれからもっと難解な本読まないといけないんですよ、いやそうなんだろうけど、だったらこれくらい屁でもないですよきっと、う~ん・・・、まあ騙されたと思って、いやそれだめじゃん騙されたら返金してくれるのか、いやそれは無理、でしょ、何を言ってるんですかこれ読めなければ社会学できないよ、えっそうなの、いやすんません大袈裟でした、なんじゃそりゃ、まああれですよ長い人生なんだからきちんと基礎を固めておかないとね後で苦労しますよ、なんだかな~本屋で説教されるとは・・・とはいえあんたがそこまで言うんならこれ読みますよ、どうもありがとです〕

・チョン・スチャン『羞恥』(斎藤真理子[訳]、みすず書房)
[主人公の「私」は、いわゆる(北朝鮮からの)脱北者で、ようやく「南韓」(南朝鮮)へと娘とともに辿り着き暮らすことになったものの、そこで生活することの困難さと、脱北者(「北韓離脱住民」)として生きる「羞恥」に直面するという筋の話。南で暮らすことの困難さは、この「私」に直接及ぶというよりも、同じく北から逃げてきたトンベクやヨンナムといった人物の生き方と死に方?を「私」自身の目を通して描かれることになる。とはいえ、「私」自身はモンゴルへの脱出過程で妻を置き去りにした負い目をもっている。
脱北者として生きるとは、韓国国内で様々な困難にあうということ。本作品では、この前開催された冬季オリンピック施設の、建設現場から大量の人骨が、過去の朝鮮戦争勃発初期における一般住民の被害者として見つかったという(一応は)架空の事件を通して、過去のことがいまだ現在のものでもあることが示される。その出来事をめぐって、というかその被害者との折り合い方をめぐってある登場人物が、韓国で生きる脱北者という困難な存在者としての位置を浮かびあがらせる。それはまた、オリンピックという経済効果にとらわれて、そこからこぼれてしまう者たちがいるということをも示しているのかもしれない。
そして、ヨンナムの行動に対して深く関与するわけでもない「私」は、ある意味傍観者として、南北どちらの方にも溶け込めない引き裂かれた者として描かれる。とはいえ、この「私」は、他の登場人物と同様に、故郷を喪失し家族を失い生き残った者としての「罪意識と羞恥」をかかえて生きなければならない。それは「私」だけでなく、「私」の娘と、娘の友人である少年も同じなのかもしれない。
ちなみに個人的に興味深いのは、登場人物のヨンナムによって語られる、山には浮かばれない人の霊魂がのぼって生者に嫉妬し、山の近くに住む者を病気にさせると観念されるということ。
この小説は、小説としてあまり出来がよいとは思えないけど、ノンフィクション的なフィクションとして読むと興味深いと思われる。〕

・ニコラ・ヴェルト『共食いの島』(根岸隆夫[訳]、みすず書房)
[副題は、「スターリンの知られざるグラーグ」というもの。「共食い」というと、カニバリズムか、と思われる向きもあるかもしれないけど、そんなエキセントリックなものではない。本書は、そういう状況に追いやられてしまったといえる人々の、わりかし克明な記録になっている。「共食い」せざるを得なくなった、強制移住者たちの悲惨な状況なのだが、これはまあスターリンの改革(富農の撲滅や農業集団化など)にさいしての、ほんの僅かなひずみの一部記録でしかないんでしょうねぇ。
1933年に、西シベリアのナジノ島に強制移住者約6000人が、「ゴミ捨て場」としてその島へほぼなにも所持することなく遺棄された。もちろんロクな食料もないので、人々(そこには犯罪者も含まれていたが)は、こんなもん食うなら人肉の方がいい、とばかりに「共食い(死肉食い)」にはしるわけである。もちろん「共食い」ばかり起こるわけではないけれども。
当時のソ連の状況は、富農撲滅のためやウクライナの飢饉もあって、農地はメチャムチャになり、都市部へ地方民が流入し、その人々を強制収容所に、あるいは強制植民者として、シベリア方面へと送ることになる。ロシア時代から流刑の地だったシベリアは、ソ連以降の民族問題や富農撲滅のせいもあって、もう本当にすっちゃかめっちゃか。送られた人には、犯罪者や身障者や今でいうニートみたいな人に加え、「投機者」という罪状の人などや、さらには共産党員(関係者)であろうとも運悪く政治警察(OGPU)に逮捕されてしまう者もいた。とくに女性のその後の運命は悲惨きわまりないので読んでいてツラい。
このナジノ島とはオビ川にある無人島で、ここへ送られたわけは、要は、管理できないから「ゴミ捨て場」よろしく放り出したといえる。本書に書かれたことは、ソ連時代の処刑者や強制収容所送りになった人々の、ほんの一部でしかないのが、怖ろしい。全体主義国家で起こったズサンな大量虐殺という意味では、世界でもっともひどいかもしれない。これはその一部ということ。中国や北朝鮮などの状況などとは比べものにならないかもしれない。
ちなみに、本書のカバー画は香月泰男のもの。私は、香月の独特の暗さが好きである。香月もまた、大戦後にソ連軍にとっつかまって、強制労働させられた。詩人の石原吉郎もまた同様だが、それらのことは、ソ連兵による満州等での日本人への悪行はともかく、原爆被害などのかげにかくれているのか、日本ではあまりそんなに話題にならない。ほんで、本書を読んでいると、今のロシアが北方四島をひとつでも日本に返すとは到底思えないんだが。〕


・横山高治『伊賀天正の乱』(新風書房)
[先日、NHKBSプレミアムの「英雄たちの選択」という番組で、織田信長による伊賀攻めとそれに対抗した伊賀衆のことが取り上げられていた。この天正伊賀の乱は、定期的にNHKあたりで取り上げられるけど、今回の放送では色々面白いことが分かった。
まずは、狼煙(のろし)のこと。文字通り、オオカミの糞(ふん)を用いてそれに火をつけていたのだけど、これで分かったのは、オオカミのフンというのは、火をつけるとおそろしくクサイということ。つまり、狼煙とは、見るものではなくて、臭いをかいで何かを報せていたという、クサイ報知だったのではないかとされたところ。これは非常に興味深くて、なるほどといった感じ。
それから番組最後の方で、織田信長の最期(本能寺の変)には、伊賀忍者が関わっていたのではないかということ。これは有りうるでしょうねぇ。伊賀者にとって、一番の仇敵は信長だけに、常に信長の動向や裏切る可能性のある人物を探っていていただろう。ほんで、本能寺において機会が巡ってきたことを、すばやく明智光秀に伝達する者はいただろうし、それが伊賀者だったという蓋然性は高い。そういう意味でいうと、信長最大の敵は、他の大名や一向宗ではなくて、伊賀忍者だったことになるのか。まあ、それもこれも(北畠)信雄が下手に伊賀に手を出したのが悪かったのかもしれん。
伊賀者の執念深さのことを、出演者も語っていたけど、そう考えるとおもしろいことがある。第二次伊賀攻めに参戦した信長の部将たちには、結構若死にしている者がいる。大将クラスとしては、丹羽長秀・蒲生氏郷・筒井順慶・浅野長政・堀秀政といったあたりだが、蒲生軍と筒井軍はこの伊賀攻めでとくにヒドイことをしたので恨みを持たれたからか、二人とも若くして他界している。蒲生氏郷は癌といわれてるけどその原因に伊賀忍者が関わっていたことを否定はできないし、筒井順慶の死因は謎といえば謎だし、堀秀政も若いといえば若くして死んでいる。丹羽長秀は秀吉への抗議という無念の最期なので、関係ないかもしれんが。浅野長政はとくになにもないか(あずみは、浅野を狙っていたけど)。
ほんで、本能寺の変後に伊賀に入った筒井定次はそこを平定できなかったから、筒井家が恨みを買っていたのは間違いないだろう。というか、そんなやつに伊賀を治めさすなよ秀吉さん。
この天正伊賀の乱はまあまあ有名だし、信長が行った大量虐殺という意味では長島一向一揆せん滅に次ぐくらいヒドイもんだが、規模が小さいためかあまり関連書籍はない。まあ、信長の覇道のちょっとしたエピソードだからだろうか〕

・河鍋暁斎『暁斎百鬼画談』(安村敏信[監修・解説]、ちくま学芸文庫)ほか
[先日、河鍋暁斎展を兵庫県立美術館にて観てきた。これほどの展示作品を一辺に観たことなかったので、単純によかった。けっこうな展示作品数なので、全部きちんと観るのはシンドイかなと思った。しかし、実際に観はじめると足が多少しんどかったものの、それほどヒドクはならなかったので、二時間あまりきっちりとみられた。展示作品自体は、出来のいいのからあまりそうではないのまで色々あって、それが、絵師(画工)暁斎の多彩な画業をあらわしていて良かった。
一番観たかったというか、やはり気になっていたのは「処刑場跡描絵羽織」だろう。これは写真でもすごい迫力だが、実際に見たらとんでもない異様さだった。右にはハリツケになった血まみれの人に、左には木から首を吊った者がいて、下には死体をついばむカラスがいて、真ん中には人の首をくわえた犬(か狼)がいて、構図としてはそれほどでもないけど、だからこそとんでもない迫力だった。これを見に来たという感慨深さ(?)をおぼえたほど。これをTシャツにプリントしたらどうか、と思ったこともあるけど、あまり誰も着ないだろうなぁ。まあなんにせよ、九相図が子供だましと思えるほどだった。
その他にも、幽霊図とかはイマイチだったけど、最後の展示室にあった、生首の画は生々しくてすごかった。
見ていて思ったのは、本書の百鬼画談のように、コミカルなものがよかったということ。放屁合戦の絵巻もおもしろい。また、蛙の合戦図や、人間が忙しく立ち回るさまなんかの画は、それらが一枚に描かれていて、その光景をじっと見ているとまるでアニメーションの数コマのように動き出しそうで、これこそ暁斎の真骨頂ではないかと思った。
それから、下絵もいろいろあって興味深かった。下絵だけあって、殴りがきみたいなのもあったけど、それがよかった。その中では、錦絵の下絵が非常に細かく描かれていて、こんなの初めて見たので、これが本展での一番の収穫かなと思ったほど。これを廃棄せずによく遺してくれました、といったところ。また、骸骨のデッサン的下絵もよかった。
この暁斎展は、高校生以下は無料なので、お近くの方は行かれてみてはいかがでしょう。ただし残念ながら(?)、処刑場羽織の画の展示期間は終わっているようなのですけど〕

(成城比丘太郎)







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