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最近読んだ本【2019年5月】~読書メモ(41)

投稿日:2019年6月3日 更新日:

  • 読書メモ(041)
  • 5月に読んだ本
  • ディストピアとかSFとかエンタメ的文学とか
  • おススメ度:それぞれ

【この5月に読んだ本、もしくは読み終えた本】

・円堂都司昭『ディストピア・フィクション論』(作品社)
〔まず「ディストピア」とか何かというと、「[小説などで風刺や警鐘として描かれる]理想と対極にある社会・世界」(『三省堂新国語辞典』)ということです。まあ簡単に言うと、「ユートピア」な考えとは対照的なものと思われるものです。しかし、それは本当にそうなのでしょうか。「理想」を突き詰めていった先にあるものが、逆に「ディトピア」のような光景に変貌するということはあるやもしれません。それに加えて、「ディストピア」とは、その含意する範囲はひじょうに広くて大雑把な概念だとも本書を読んで思いました。

本書では、主に21世紀以降に日本で出版されたディストピア的なフィクションを取り上げ、そこに適宜過去の海外作品や映像作品(や他にも少しだけアニメや漫画など)を織り交ぜつつ、「悪夢の現実と対峙する想像力」をえぐり出そうとする試論。なのですが、著者は「音楽評論家」でもあるので時々関係ない(と思われる)音楽の話題も挟まれる。それに加えて、元・政治家の人物に対する、予断的な無理解(無知)からくる勘違いも述べられていて、それは著者自身の「想像力」の欠如を実践的に体現してくれてるのかな?と個人的には思うこともないではない(それ自体は瑣末なことだが)。

「ディストピア(フィクション)」とは、ある意味現実と地続きになった想像力を試されるものでもあるでしょう。とはいえ、「ディストピア・フィクション」とは、未だ起こっていない想定外の出来事や、あるいは可視化されていない問題を取り上げて、それらがいかにディストピア的であるのか(または、なりうるのか)を、説得力をもって提示すべきではないかとも思われます。もちろん、現代社会(や政治家)の風刺でもよいのですが、読者の誰にでも分かるような対象を何の反省意識もなく戯画化して描くだけのことは、単なる「想像力」の欠如でしかないと、本書を読んでそう思いました。つまり、それは「ディストピア・フィクション」の創作家としては落第ということなんじゃないかと思いました。というか、誰にでも理解されることを声高に叫ぶだけではダメだと反省しましたと言いたいところですが、なかなか難しいとも思いました。なんというか、悪意ある批判というのは、なんとも簡単で気楽なもんだなと思われるということで、本書で言及されてる現代日本のディストピア文学(の一部)は、ほとんど読む気がしない。

まとめると、現実の状況(←国家や為政者についての)と地続きの未来を「ディストピア」として描くときに、その作家の力量が試されるということがわかりました。そして、それらの作品を基に「ディストピア」的な情況論を述べる時にもまた、その評者の批判性における力量が試されることがわかりました。〕

・伊藤計劃『ハーモニー』(ハヤカワ文庫JA)
〔以前、映画の『ハーモニー』を先に観て、それから原作を読もうと思いつつ、読まないできた。ちょうど、先述のディストピアに関する本を読んだので、読むことにした。映画の内容は、もうほとんど忘れていて、自殺のえげつないシーンだけおぼえていたのは、やはりこの私らしいなぁ(?)と改めて思った。
で、この内容だが、健康であることが世界的に広まった世界の話。というか、「病気」が根絶された(と思われる)世界。生命が大事なんだよと、それを徹底して管理しようとする世界。大災害のあとという、ポストアポカリプス的なディストピアかと思いきや、実は現実の(読者の)世界とも地続きになっていて、一応はユートピアものといえるかもしれん。この世界の見た目は一様であることが示されるけど、そうではないことも示されるので、どんな種類のSFなのかは分らない。また、健康であろうという強迫観念にとらわれ、それのいきすぎで逆に心身に変調をきたすという意味での現実と繋がっているかもしれない、というのは私の平凡な考えだが。
ほんでもって、「病気」を駆逐できても、それは結局「病気」と規定された範囲内だけのこと。そこからはみだしてしまうものはあるし、またそこから抜け落ちてしまう者がいる、という視点はかろうじて自殺の強制(?)や外部世界において担保されるものの、「病気」がなんなのかについては、結末での答えを見るに、不徹底としか言いようがない。そういう意味では、著者がこれからうみだていたかもしれない作品を読めないのは残念。
余談ながら、『屍者の帝国』は原作を先に読んで、映画を後に観た。もし映画を先に観ていたら、「わかがわからないよ」という感想を抱いていたでしょうねぇ。

まとめ。「病気」という概念を無くそうとする世界、あるいは「病気」という認識(認知)をなくしただけの話か。〕


・奥泉光『ゆるキャラの恐怖』(文藝春秋)
〔「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・3」という副題。いわゆる「クワコー」ものの第三弾(実質第四弾か)。なんかだいぶ前に「2」が出たので、続編が書かれていたとは思わなかった。このシリーズは、クワコーとあだ名される大学の准教授が「底辺」大学に赴任してからの、なんやかんやのテンヤワンヤの、えせ推理ものといえる。実質的には、クワコーが顧問をする文芸部の女子学生たちが事件らしきものを解決するので、教師のクワコーはほぼなにもしないまま(関わる事件を結果的に解決する)。このシリーズは以前テレビドラマ化された記憶があるが、そこにはまだ「スタイリッシュ」さがほんの少しあったが、原作ではそれは一切ないといっていい。というか、クワコーは大学の業務も、営業活動や大学内での人間関係観察を除いては、本職の研究活動はほぼしない。ある意味なんともうらやましい身分。

本作は二編にわかれる。まず「ゆるキャラの恐怖」では、クワコーは地元のためにゆるキャラの中に入って、真夏の最中において「死の恐怖」をおぼえる。それがまず「恐怖」。そして、そんなクワコーのもとに脅迫状が送り付けられる。それはいったい誰からのものなのか……。

つぎの「地下迷宮の幻影」では、奥泉作品によくある「幻影」にオチをつけていて、それなりに納得できる。この一編は、クワコーが大学内の人事に関わるある問題に直面し、右往左往し、それなりの結末が訪れるという内容。ここでもクワコーはほぼなにもしない。依頼されたことも満足にできず、研究論文も外注しようとする。というか、この作品には、大学自体が研究教育機関であることを否定するような傾向が見られる。というか現実の大学を極端に戯画化したかんじ。

ではいったい、クワコーは何をしているのかというと、せっせと食料確保に努めるのである。生活にいそしむのである。ドケチなクワコーは、なるべく安くすむようにあちこちのスパーをはしごして、野草はもちろん、今作ではセミを子どもたちと採りあい、イモを奪いあい、ザリガニを食料としてユニットバスに飼い、その他にも、とにかく生活に関する下世話さを発揮する。この下世話さはもちろん、クワコーだけではなくて、登場人物たちすべてがそうである。

では本シリーズは、単なる大学を舞台にした下世話な推理物かと思いきや、実はそうなのである。いや表向きはそうなのであるけど、ここではいろんな登場人物がいろんな存在や事象を相対化している。とくに「地下迷宮の幻影」では、ある人物が軽い感じで深いテーマを穿っている。それは笑えるけれども笑えないものでもある。まあ、難しく考えずに読める作品。なんというか、下世話なことを意識的に書いているところが作為的で、それがまた下世話な感じがしてよい(ほめ言葉)。

さて本作が、たとえば50年後に、当時の風俗資料として読まれたりなんかしたらどう読まれるだろうか。そんなことを考えてしまう今日この頃〕

(成城比丘太郎)



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